病気を知る40代からのアクティブ体づくり講座

スタートが男女で異なる骨の老化

萩野浩 / 鳥取大学教授

女性は特に気をつけたい骨の老化【1】

 前回は、骨、関節、筋肉、神経から成る「運動器」の老化についてお話ししました。誰もが避けて通れない現象ながらも、その仕組みや特徴を知ることで、老化のスピードをゆるやかにし、さまざまな病気を予防することはできます。今回は、特に男女それぞれ老化のスタートする時期が異なる骨の老化について詳しく説明します。

女性は閉経後の急激な骨密度低下に注意

 骨の強度は、骨量(骨密度)と骨質で決まります。そして、骨の老化の原因は、骨量の減少と骨質の低下です。

 私たちの骨は日々、「骨代謝」と呼ばれる新陳代謝を繰り返し、1年間に約2〜10%の骨が新しく入れ替わっています。骨を壊す細胞である「破骨細胞」が古い骨を溶かして壊し(骨吸収)、その骨吸収された部分に、骨を作る細胞である「骨芽細胞」が新たに骨を形成(骨形成)する「リモデリング」というサイクルを3〜4カ月の周期で繰り返しているのです。

 骨量とは、骨の中に含まれるカルシウムなどミネラルの量のことです。骨量が最大になるのは20代。成長期にバランスのとれた食事と定期的な運動を心がけて、できるだけ骨量を増やしておくことが大切なのです。人生の中で最も骨が活発に作られ、骨量が多い20代を過ぎても骨代謝は続きますが、加齢に伴い、骨吸収と骨形成のバランスは崩れ、骨を壊す骨吸収のスピードに骨を作る骨形成が追いつかなくなっていきます。すると骨量の減少が起こるのです。

 骨代謝のバランスが崩れる要因は加齢だけではありません。日常的に動かない「不動」、さらには女性ホルモンのエストロゲン分泌の低下という最大の要因があります。エストロゲンは破骨細胞の働きを抑え、骨吸収を抑制します。そのため女性は閉経後、エストロゲンの分泌が急激に減少することに伴い、骨量も急激に低下します。男性は、急激な男性ホルモン(アンドロゲン)の低下は起こりませんし、そもそも骨量も女性に比べ多いため、骨量低下は70代後半から80代以降、ゆるやかに進行します。これが、骨密度と密接な関係がある「骨粗しょう症」が女性に多い理由です。骨粗しょう症については、次回詳しくお話しします。 

加齢により骨の柔軟性としなやかさが失われる

 骨は主にカルシウムやリンなどのミネラル(ハイドロキシアパタイト)と、コラーゲン線維で構成されています。骨の構造を鉄筋コンクリートのビルに例えると、鉄筋に当たる部分がコラーゲン線維、コンクリートに当たる部分がミネラルです。そして、隣り合うコラーゲン線維(鉄筋部分)同士をつなぎ止める梁(はり)、またはねじのような役割を果たしているのが、「コラーゲン架橋」です。

 「骨質」が何により決まっているのかは十分には分かっていません。骨質低下の要因としてまず考えられるのは、「マイクロクラック」と呼ばれる目に見えない微小骨折やひびの発生です。たとえるならビルのコンクリートに小さなひびが入るようなイメージと考えてください。マイクロクラックは骨代謝のバランスが崩れ、骨形成が骨吸収に追いつかなくなることでも起きると考えられています。つまり骨量の低下が骨質の低下をも引き起こすということです。

 もう一つの骨質低下の要因が、前述のコラーゲン架橋の質の低下です。骨量はさほど低下していなくても、加齢により質の悪いコラーゲンでできたコラーゲン架橋が増えると、骨全体の骨質は悪くなってしまいます。つまり、ビルの鉄筋と梁(コラーゲン繊維とコラーゲン架橋)が劣化して、ビル全体(骨)が脆弱(ぜいじゃく)化するというイメージです。

 このコラーゲン架橋ですが、大きく分けて二つあります。コラーゲン繊維を規則正しくつなぎ合わせてしなやかで強靱(きょうじん)な骨の構造を作る「善玉架橋(生理的架橋)」と、コラーゲンを無秩序にバラバラにつなぎ合わせ、弾力がなくもろい骨の構造にしてしまう「悪玉架橋(AGEs架橋)」です。善玉架橋は体内の酵素によって作られるのですが、悪玉架橋は老化など、体が衰える時に起きる酸化反応、糖化反応によって作られます。ちなみに糖化反応というのは、酵素の働きとは関係なくたんぱく質と糖が結びつく作用で、その結果生まれる物質AGE(終末糖化産物)は、老化のほか認知症や動脈硬化、がんなどさまざまな病気に関連していることが最近指摘されています。つまり、善玉架橋が悪玉架橋に置き換わっていくことにより、骨のしなやかさが失われ、もろくなっていくのです。

 悪玉架橋は、鉄骨をつなぐ梁やねじがさびてしまった様子をイメージしてください。さびさせてしまう要因が、酸化や糖化なのですが、その詳しいメカニズムは現在研究が進められています。この減少は主に、加齢によって増えるものなので、それを完璧に防ぐこともできません。ただし悪玉架橋が特に増えやすい人のタイプはわかっています。まず、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、高血糖症の患者さん、またステロイドを使用している方がそうです。また血液中にアミノ酸の一種であるホモシステインという物質が多い人も悪玉架橋が増えます。ホモシステインが多い方は、ビタミンB6やB12、葉酸を取るとよいとされています。このように、骨質の老化については骨量とは違い、男女差はありません。

 次回は、骨の老化によって起こる代表的な病気のひとつ「骨粗しょう症」についてお話します。【聞き手=編集部・西田佐保子】

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萩野浩

萩野浩

鳥取大学教授

はぎの・ひろし 1982年鳥取大学医学部卒業。同学部整形外科助手、講師、付属病院リハビリテーション部長などを経て現在、医学部保健学科教授(付属病院リハビリテーション部長兼務)。専門は骨粗しょう症、関節リウマチ、運動器リハビリテーション。特に骨粗しょう症治療の経験が深く、国際骨粗鬆(しょう)症財団(IOF)アジア太平洋地域代表、日本骨粗鬆症学会理事など要職を務める。保健師、看護師、臨床検査技師などを対象に骨粗しょう症診療のコーディネイター役「骨粗鬆症マネージャー」を養成する日本骨粗鬆症学会のレクチャーコースでは講師役も務める。著書に「骨粗鬆症治療薬の選択と使用法―骨折の連鎖を防ぐために」(南江堂)など。

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