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体内時計狂わせる 夜のストレスに要注意

奥野敦史 / 毎日新聞 医療プレミア編集長

 夕方から夜にかけて受けたストレスは、午前中よりも激しく生物の体内時計を狂わせることを、早稲田大の柴田重信教授(時間生物学)、田原優助教らのチームがマウスでの実験で発見した。近年、体内時計の乱れは高血圧、糖尿病、がん、うつ病など難病を含むさまざまな病気の原因になることが解明されつつある。今回の成果はストレスが病気を引き起こすプロセスの解明や、ストレスのコントロールで体内時計を正常化し、病気の予防につなげる方法の開発などに道を開くものになりそうだ。【医療プレミア編集長・奥野敦史】

時計遺伝子によって刻まれる24時間のリズム

 人間を含む生物は、およそ24時間ごとのリズムを刻む体内時計を持っており、このリズムは「時計遺伝子」によって制御されている。動物の時計遺伝子は、脳の真ん中にある視交叉上核(しこうさじょうかく)という部分にあって体全体のリズムを制御する「中枢時計」と、体中の細胞の中にあり個々の臓器や細胞ごとのリズムを刻む「末梢(まっしょう)時計」の2種類に分けられ、中枢時計が体全体の末梢時計をコントロールする仕組みになっている。たとえると、オーケストラの楽器の演奏者が末梢時計、指揮者が中枢時計で、指揮者の指揮によって演奏全体が正確なリズムを生むという形だ。

夜になった直後のストレスで時計のリズム消失も

 柴田教授らは2012年に代表的な時計遺伝子PER2に発光する遺伝子を組み込み、生きたマウスの、どの臓器で時計遺伝子が発現しているかを見ることができる技術を開発。今回はこの技術を用い、ストレスを与えたマウスの時計遺伝子の発現状況を調べた。

 マウスを12時間ごとに照明で昼夜を切り替える環境に置き、さまざまな時間帯に狭い部屋に入れてストレスを与える実験を行った。夜行性のマウスが起き始める「朝」(暗くなり始める時間帯)にストレスを与えても、体内時計にはまったく影響がなかったが、「夕方」(明るくなり始める時間帯)だと体内時計は遅れ、「真夜中」(明るい時間帯)ならば逆に体内時計が進んで、いずれも「時差ぼけ」状態となった。

 もっとも激しい変化が起きたのは、マウスが眠ったばかりの「夜」のはじめ(明るくなったばかりの時間帯)にストレスを加えた場合で、肝臓と唾液腺の末梢時計が12時間もずれ、腎臓ではリズムが消失してしまった。しかしこれらのストレス負荷も週3日、5週間続けると、体内時計の乱れは起きなくなった。ストレスに慣れたことが理由だという。

早稲田大学・田原優助教提供を編集部で一部改変
早稲田大学・田原優助教提供を編集部で一部改変

夜間交代勤務中のストレスは健康リスクの可能性

 さらに狭い部屋に入れる代わりに、体が大きく攻撃的なマウスと対面させたり、高さ30cmの狭いステージに乗せたりという、心理的なストレスを与えても同様の体内時計の乱れが起きた。いずれの方法でもマウスの体内でストレスホルモンが分泌して、交感神経が活性化しており、それがリズムを変える引き金になっていた。

早稲田大学・田原優助教提供を編集部で一部改変
早稲田大学・田原優助教提供を編集部で一部改変

 この結果が直接ヒトに当てはまるかは、今後の研究によるが、同じように人間が活動を始める朝〜午前中のストレスは体内時計への影響が少なく、夕方〜夜だと激しい乱れを引き起こしている可能性がある。実際、慢性的なストレスから発症するうつ病患者には睡眠障害が多い▽夜間交代勤務の人はうつ病罹患(りかん)率が高い−−などの報告があるが、これらの背景にも夜間のストレスによる体内時計の大幅な乱れがあるかもしれないという。

運動による軽いストレスで体内時計の正常化も?

 これまで体内時計を制御する要素は、まず目から入る光、そして食事だと考えられてきた。今回の成果でストレスが食事と同レベルの強い影響力を持つことが初めてわかった。そして、ストレスホルモンの分泌や交感神経活性化は、ジョギングや筋力トレーニングでも起きるため、これらの運動で体に軽いストレスをかけ、体内時計を健康的に調整できる可能性も考えられる。

 柴田教授は「同じジョギングでもストレスを感じながら嫌々やるのと、楽しみながら取り組むのでは、体内時計の乱れ具合は異なり、ひいては肥満解消の効果も変わるかもしれない。今後、ヒトでの研究を進め、体内時計とストレスの関連性をさらに解き明かしたい」と話している。

 一連の成果は英のオンライン版科学誌「Scientific Reports」に今年6月15日、論文として掲載された。

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奥野敦史

奥野敦史

毎日新聞 医療プレミア編集長

おくの・あつし 1971年兵庫県生まれ、同志社大学卒。93年に毎日新聞社へ入社、岡山支局、奈良支局、大阪本社科学環境部、京都支局、東京本社科学環境部で科学・医療・学術取材を担当した。2010年デジタルメディア局に異動、医療を中心とした新規事業開発に携わる。15年6月より医療プレミア編集長。

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