病気を知る新・真健康論

どうして、お風呂に入ると疲れが取れるのか

當瀬規嗣 / 札幌医科大学教授

 言うまでもなく、日本人はお風呂が大好きです。健康維持の上でも大切な役割を持っていると考えられています。実際にどんな効用があるでしょうか。

 まず健康に関連して思いつくのは、お風呂は体を清潔にすることでしょう。でも、体のあかや汚れを落とすということでは、シャワーも同様でしょう。ところが、日本人は湯船につからないと、満足感を得ないようです。つまり、お風呂の効用としては、お湯につかることによって生み出されていると考えられます。

 「ゆったりとお風呂に入ると疲れがとれる」といえば、多くの方が賛同してくれると思います。では、疲れがとれるというのは、どういうことでしょうか。

 最近の研究によると、疲労は体にある種の疲労物質が増えることによると考えられています。とすれば、お風呂に入ることで、その疲労物質が体外に出たりするのでしょうか。

 答えはおそらく「ノー」です。皮膚からそんな物質がしみ出ることも、汗の成分に物質が混じることも、科学的には考えにくいのです。それに、長湯をするとむしろ疲れてしまうことは、誰でも知っています。「疲れがとれる」のは、どうやら別な原因があると考えられます。

 入浴に対する自律神経の反応の研究では、お風呂につかると、初めは交感神経が活動的になり、引き続いて副交感神経が働くようになると言われています。この仕組みは、温度に対する皮膚の反応と密接な関係があります。

 通常のお風呂の温度は41度程度ですが、この温度は入浴前の皮膚温度(36度程度)より高いので、湯船に入ると温かさや熱さを感じることになります。この感覚は脳に伝えられ、脳は緊張します。

 そして体温の急激な変化を避けるために交感神経が働き、皮膚の血管を収縮させ、お風呂の温度が血液を介して体の中に伝わるのを防ごうとします。交感神経には同時に心拍を増やし、血圧を上げる働きもあります。これが、あまり熱いお風呂に入ると血圧に良くないとされる理由でもあります。

 このあと、ぬるめのお風呂なら体が慣れてきます。皮膚表面の温度が上がるためと考えられます。そうすると熱さを感じなくなり、脳の緊張がとれます。

 熱いお風呂ではこうはいきません。脳の緊張がとれると交感神経の活動は低下します。全身が心地よい温度に包まれ、脳の緊張がなくなると、全身はリラックスした状態になります。さらに入浴を継続すると、脳のリラックスに伴い副交感神経が働き、心拍が緩やかになります。このリラックスの状態を感じた人は、疲れがとれたと感じるのです。

 こうしてリラックス感を味わい、脳の緊張がとれた状態で風呂から上がると、そのリラックス状態は維持されるので、すんなりと睡眠に入ることができます。こうして、翌朝には確かに疲れがとれてしまいます。

 お風呂で疲れを取るには、リラックスできるようにぬるめのお湯にすること、湯上がりは、湯冷めして緊張状態が復活する前に、なるべく早く床につくことがポイントです。

ことば:自律神経

 環境の変化に応じて、内臓の働きを調節する役割を持つ神経系。意識、意志とは別個に活動するため、「自律」と名付けられた。交感神経系と副交感神経系の2系統からなる。活発に活動している時やストレスがかかっている時には交感神経系が働き、心拍を増やし血圧を上げて全身の循環を促し、活動に対応する。休息、食事、排せつなどでは副交感神経が働いて、消化管や泌尿器などの活動を促す。よく、交感神経が脳を緊張させるとか、副交感神経が脳をリラックスさせるとか言われるが、原因と結果を取り違えた誤りである。

(毎日新聞2013年9月29日掲載)

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當瀬規嗣

當瀬規嗣

札幌医科大学教授

とうせ・のりつぐ 1984年北海道大医学部卒、88年北海道大学大学院修了、医学博士。北海道大医学部助手、札幌医科大医学部助教授、米シンシナティ大助教授を経て、98年札幌医科大医学部教授(細胞生理学講座)に就任。2006~10年、同医学部長。医学部長就任時は47歳。全国に医学部は国公私立合わせて80あるが、最年少の学部長。「40代は驚きで、加速し始めた医学部改革の象徴」と話題になった。専門は生理学・薬理学で、心拍動開始の起源を探求している。

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