ビタミンCと健康・老化の気になる関係【前編】

 活躍が期待される女性アスリートの健康をサポートしようと、老化研究のエキスパートが共同研究に参加しています。アスリートと高齢者にどんな接点があり、研究から見えてきたこととは--。順天堂大学女性スポーツ研究センタープロジェクトメンバーで東京都健康長寿医療センター研究所老化制御研究チーム分子老化制御研究部長、石神昭人さんに聞きました。

病気ではない老化は、どうすれば防げるのか

 老化の原因は、なんだと思いますか。私たちは呼吸をして生きています。吸った酸素を利用して細胞でエネルギーを作り出すとき、その一部から体に損傷を与える「活性酸素」が発生します。そのため、老化は活性酸素が原因と思われていますが、実は科学的な根拠はありません。では、病気ではない老化を、どうしたら防げるか。活性酸素を取り除く成分の一つがビタミンCということは、間違いありません。老化と活性酸素をつなげる科学的な根拠がなかったことが、私たちがビタミンCの研究を始めたきっかけです。

マウスの寿命が4分の1に

 老化とビタミンCの関係について、私たちはマウスで実験しています。ヒトは体内でビタミンCを合成できませんが、マウスを含む多くの動物は合成できます。そこで、ビタミンCを作れないマウスを開発し、欠乏症である壊血病にならない量のビタミンCを与えて、普通のマウスと寿命を比較しました。

 その結果、ビタミンCを作れないマウスは6カ月で半数が死にました。これは普通のマウスの寿命の4分の1です。さらに、解剖すると臓器は萎縮して老衰で死んだ人と同じようになっていました。実際に人では実験できないため、これを人間に当てはめると、1日2.5mgしかビタミンCを摂取しない場合、10人中1人が3年後に亡くなり、13年後には半数が死亡することに相当します。ビタミンCを少量しか取らないと寿命が短くなります。

 また、ビタミンCは筋力の低下にも関わっています。東京都板橋区の高齢者(65~75歳)957人を対象にした調査から、血液中のビタミンCの濃度が高い人は、握力が強い、片足立ちの時間が長い、歩行速度も速いということが明らかになっています。最近、問題になっている高齢者の「サルコペニア(加齢により筋力や筋肉量が減少した状態)」や「フレイル(健常な状態と要介護の中間の状態)」は、ビタミンCが少ないことも要因だと思います。

衰える筋肉と女性ホルモンの影響を研究

 私の研究目的は老化で、対象は高齢者です。アスリートは若い人たちで接点は難しいところですが、これまでのビタミンCや筋肉の研究からプロジェクトに参加することになりました。筋肉はどのように衰えるのか。そのメカニズムが解明できればアスリートの筋力アップに応用できるのではないかと考えています。

 また、共同研究には、もう一つの目的があります。それはメスの研究データの蓄積です。これまで動物実験では、おもにオスが使われてきました。メスは性周期があり、ホルモンが結果に影響することがあるからです。そのため、メスの研究データが少ないのです。そこで、女性ホルモンの一つ「エストロゲン」を合成できないマウスを作って、閉経後にエストロゲンが低下するとどんな影響があるかを調べています。

食事制限は骨の老化を早める

 ハードな練習や食事制限をして、無月経になる女性アスリートは多いです。それは閉経後の女性と同じといえます。そのような女性は、若いうちは記録を出せても、寿命に明らかな影響が出てくると思います。また、骨の20%、軟骨の50%は、コラーゲンから作られます。コラーゲンを構成するたんぱく質の三重らせん構造はビタミンCがないとできないため、骨の健康に影響します。マウスの実験では、ビタミンCがないと背骨が曲がり、歩くだけで折れるほど骨がもろくなります。痩せるために食事を制限している若い女性は、老年期の病気である骨粗しょう症が、40~50歳の中年期で発症する可能性があるので気をつけてほしいと思います。さらに、閉経後、エストロゲンが低下するととくに肝臓に脂肪がたまりやすいことがわかっています。

 女性アスリートがベストなコンディションで競技に挑めるように研究でサポートしたいです。そして、メダルを獲得して選手寿命も長くする。リタイア後も、ふつうの女性と同じように健康でいられるようにすることが私たちの研究の目的です。【聞き手=医療ライター・阿部厚香】

  ◇  ◇  ◇

いしがみ・あきひと 1990年、東邦大学大学院博士課程修了。薬学博士。米国国立衛生研究所、同老化研究所、東京都老人総合研究所などを経て、2008年東邦大学薬学部准教授。11年、東京都健康長寿医療センター研究所老化制御研究チーム分子老化制御研究副部長、14年から現職。首都大学東京客員教授を兼任。老化研究は30年以上に及ぶ。最近の研究で、ビタミンCが長期的に不足すると寿命が短くなることを明らかにした。06年東京都職員表彰「知事賞」受賞。著書に「ビタミンCの事典」など。

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順天堂大学女性スポーツ研究センター

順天堂大学女性スポーツ研究センター

研究の視点から女性アスリートのコンディション管理を支援するため、2014年に設立された。学内と学外から医学とスポーツ健康科学の専門家が参画して女性アスリートを支援する方策や環境整備などを研究している。同年10月には、国内初となる「女性アスリート外来」を東京と千葉にある2か所の順天堂大学付属病院に開設。医師による診療や試合に向けたコンディションづくりのアドバイスなども行っている。センターウェブサイト

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