ビタミンCと健康・老化の気になる関係【後編】

 栄養素であり、活性酸素を取り除く抗酸化物質でもあるビタミンC。前回は、骨や寿命との関連を伺いました。このほかに、最新研究ではどのようなことが明らかになっているのでしょうか。引き続き、順天堂大学女性スポーツ研究センタープロジェクトメンバーの東京都健康長寿医療センター研究所老化制御研究チーム分子老化制御研究部長、石神昭人さんに聞きました。

ビタミンC不足で筋力低下

 ビタミンCは、体のいたるところにあります。臓器の中で最も多く貯蔵されているところが、腎臓の上にある副腎です。ストレスがかかると、副腎からアドレナリンというストレスホルモンが分泌されます。ビタミンCは、このアドレナリンの合成になくてはならないものです。また、ビタミンCは、筋肉にも貯蔵されています。私たちはマウスの実験で筋肉中のビタミンCと酸化ストレスの関連を調べています。その結果、筋肉中にビタミンCがないと、活性酸素の量はビタミンCがある場合の倍に増えることがわかりました。運動すると筋肉中で活性酸素が増えます。ビタミンCがない場合、酸化によって筋肉の細胞が損傷し、筋力の低下を起こすと考えられます。

ビタミンCとの関連が明らかなCOPD

 活性酸素は、増え過ぎると病気を引き起こします。たばこを吸うとビタミンCが減ることが知られていますが、高齢者に多いCOPD(慢性閉塞<へいそく>性肺疾患)は、ビタミンCとの関連が顕著な病気です。私たちは研究によって▽ビタミンCが不足した状態でたばこを吸うと肺が破壊されて、COPDになりやすいこと▽実際の患者さんでは、血液中のビタミンCの濃度が低いこと▽喫煙前にビタミンCを取ると肺の破壊が予防できること--を明らかにしています。COPDのおもな原因は、喫煙です。禁煙が最も大事ですが、なかなかやめられない場合は、喫煙前にビタミンCを取った方がよいでしょう。

難治がんの治療に注目されている

 ビタミンCと病気では、最近、大腸がんに対する効果に注目が集まっています。また、難治性の卵巣がんなどに対して、ビタミンCの点滴で生存期間が延びるという報告があり、アメリカで臨床試験が行われています。ただ、ビタミンCのみで治療してがんが治るということではありません。ビタミンCの化学構造はブドウ糖と非常によく似ており、がん細胞にビタミンCが入った場合、ブドウ糖とは少し違う構造が増殖を抑える方に働くのではないかと、いまのところ考えられています。

やせ願望が引き起こす現代の壊血病

 ところで、ビタミンCの欠乏症である壊血病を知っているでしょうか。昔の病気と思われている壊血病の早期兆候が、現代の20歳前後の若い人に多く見られます。ちょっとぶつけただけで内出血しやすいのが、壊血病の早期兆候の典型的な症状です。血管にはコラーゲンがあるのですが、ビタミンCが足りないとコラーゲンが丈夫に形成されず、血管がもろくなることで内出血が起こるのです。いまの若者の壊血病の早期兆候は、やせるために食事を制限していることが原因でしょう。

 多くの動物は、体内でビタミンCを合成することができます。しかし、ヒトは作ることができません。ビタミンCの合成経路の最後にある酵素の遺伝子に変異があるからです。そのため、食べ物から摂取する必要があるわけです。健康に生きるためには、3大栄養素(炭水化物、たんぱく質、脂質)とビタミン、ミネラルが必要で、これらの栄養素をすべて取るために毎日の食事が最も大切です。日本の若い人はやせた人が多い。もっと食べた方が病気に対する抵抗力が高くなって、元気に生きられると思います。

 また、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準2015」では、15歳以上のビタミンCの推奨量は1日100mgです。しかし、この量では足りないのではと思います。壊血病以外の病気予防まで考慮した場合、私が推奨するビタミンCの量は、1日500~1000mg。アスリートや高齢者ではもっと多く必要です。1日1000mg程度を目安にした方がいいと考えています。ビタミンCだけを取ればいいということではありませんが、不足すると血管、筋肉、骨、ホルモンの合成など全身に波及し、寿命の長さまで影響することを知ってほしいと思います。【聞き手=医療ライター・阿部厚香】

  ◇  ◇  ◇

いしがみ・あきひと 1990年、東邦大学大学院博士課程修了。薬学博士。米国国立衛生研究所、同老化研究所、東京都老人総合研究所などを経て、2008年東邦大学薬学部准教授。11年、東京都健康長寿医療センター研究所老化制御研究チーム分子老化制御研究副部長、14年から現職。首都大学東京客員教授を兼任。老化研究は30年以上に及ぶ。最近の研究で、ビタミンCが長期的に不足すると寿命が短くなることを明らかにした。06年東京都職員表彰「知事賞」受賞。著書に「ビタミンCの事典」など。

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順天堂大学女性スポーツ研究センター

順天堂大学女性スポーツ研究センター

研究の視点から女性アスリートのコンディション管理を支援するため、2014年に設立された。学内と学外から医学とスポーツ健康科学の専門家が参画して女性アスリートを支援する方策や環境整備などを研究している。同年10月には、国内初となる「女性アスリート外来」を東京と千葉にある2か所の順天堂大学付属病院に開設。医師による診療や試合に向けたコンディションづくりのアドバイスなども行っている。センターウェブサイト

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