病気を知る新・真健康論

知っていますか? 胃の本当の役割

當瀬規嗣 / 札幌医科大学教授

 私たちが生きていくのに欠かせない臓器。ところが普段、その存在を意識することはありません。大半が無意識のうちにせっせと仕事をしてくれています。でも例外の臓器があります。胃です。心臓と並んで、何かの折に、存在を意識する臓器の代表格だといえます。

 例えば、空腹感を感じた時には「胃が空っぽだ」と思う人が多いと思います。逆に満腹感を感じた時は「胃がパンパンだ」と思うはずです。そして、心配事があると実際に胃が痛くなる人がいるように、食事がおいしくて胃の調子が良く、自分は健康だ、と実感する人も多いですね。そういう意味で、胃は健康のバロメーターの一つだといえます。

 このように、なじみの深い胃ですが、どんな役割を持っているのかご存じでしょうか。それは食べ物を貯蔵することです。

 胃の出口には幽門と呼ばれる部分があります。言い方を変えれば、小腸につながっていく場所です。普段、この出口は閉じられています。私たちが食事をして、のみ込まれた食べ物は次々と胃に入っていっても、そのまま腸に入ることはなく、一度ためられていくことになります。

 食べ物がたまった胃は次第に運動を強め、幽門にかかる圧力が高まります。そうすると幽門は開きますが、その大きさは小指1本がかろうじて通過する程度です。ですから、大きな食べ物の塊は、幽門を通過できないので、依然として胃にとどまることになります。

 そこで、この狭い幽門を通過するために胃の中では胃液の作用によって食べ物はドロドロに溶かされます。こうして流動的になった食べ物は、初めて幽門を通過して、小腸へ送り出されるのです。このドロドロの食べ物なら小腸で栄養を吸収することが容易になります。

 一方、飲料やスープ、おかゆなど初めから流動性の高い食べ物は、比較的速やかに幽門を通過できます。いち早く腸に到達して栄養素が吸収されます。流動食が「消化に良い」といわれるのは、こうした理由があるのです。

 ここで、強調しておきたいことは、胃では栄養素の吸収が一切行われないということです。糖分も脂肪もたんぱく質も、胃では吸収されません。栄養素の吸収はあくまでも小腸で行われます。

 ただし、アルコールだけは胃で吸収されることが分かっています。でも、胃にアルコールを吸収する仕組みがあるからではありません。実はアルコールは体のどこからでも吸収されます。ですから、プロ野球などで優勝チームが行う恒例のビールかけでも、選手たちは飲まなくても酔っぱらってしまうのです。

 胃からアルコールが吸収されると言われるのは、お酒を飲んだら、とりあえずたまるのが胃で、そこから吸収されるからなのです。

 胃は自ら栄養素を吸収しませんが、小腸が消化吸収を行うために最大のおぜん立てをしている臓器なのです。存在を意識させる胃ですが、その役割たるや、意外と地味で渋いわき役といった感じです。

ことば:胃液

 胃で分泌される消化液のこと。胃には胃腺といわれる、目で見えないような小さな分泌腺が、粘膜一面に分布している。ここから胃液が分泌されている。胃液の主な成分は、ペプシノーゲンというたんぱく分解酵素と、豊富な水素イオン(すなわち胃酸)である。胃酸は、ペプシノーゲンの働きを高め、それと共同して食べ物をドロドロに溶解させる作用を持っている。このような強力な胃液の作用から胃の粘膜そのものを保護するために、胃液には粘液成分(ムチン)が含まれている。

(毎日新聞2014年5月25日掲載)

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當瀬規嗣

當瀬規嗣

札幌医科大学教授

とうせ・のりつぐ 1984年北海道大医学部卒、88年北海道大学大学院修了、医学博士。北海道大医学部助手、札幌医科大医学部助教授、米シンシナティ大助教授を経て、98年札幌医科大医学部教授(細胞生理学講座)に就任。2006~10年、同医学部長。医学部長就任時は47歳。全国に医学部は国公私立合わせて80あるが、最年少の学部長。「40代は驚きで、加速し始めた医学部改革の象徴」と話題になった。専門は生理学・薬理学で、心拍動開始の起源を探求している。

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