東日本大震災時、ある避難所では震災3日後からラジオ体操を始めた。適当な運動は脳梗塞、心筋梗塞などの予防になる=岩手県大船渡市で2011年4月4日午前6時59分、矢頭智剛撮影
東日本大震災時、ある避難所では震災3日後からラジオ体操を始めた。適当な運動は脳梗塞、心筋梗塞などの予防になる=岩手県大船渡市で2011年4月4日午前6時59分、矢頭智剛撮影

特集・ニュース紙面より

避難生活 脳梗塞、心筋梗塞で命を奪われないために

医療プレミア編集部

被災地へ 東日本大震災の教訓から【1】

 14日夜に発生した熊本地震では、多くの人が住み慣れた家を離れ、避難所などでの生活を続けています。心身に負担のかかる避難生活では感染症などの病気にかかったり、元々抱えていた疾患が悪化したりして、深刻な状態に陥る人が少なくありません。「医療プレミア」では、同様に多くの人が長期間の避難生活を送った東日本大震災時の記事アーカイブから、被災地での疾患予防、健康維持に役立つ情報をピックアップ、再掲します。まずは心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞予防の予防法から。(数字、年齢、肩書き等は紙面掲載時のものです)【医療プレミア編集部】

   ◇   ◇   ◇

高齢者に多発 脳梗塞、心筋梗塞

 被災地で避難生活を送るお年寄りが、脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞など重大な病に見舞われている。引き金となるのは、ストレスや睡眠不足による高血圧や免疫力低下などだ。現状や予防法を探った。

 「手足のしびれや言葉のもつれが出た脳梗塞の患者さんを、何度も緊急搬送しました」

 宮城県石巻市の保健師、伊藤桂子さん(56)は、避難所での生活が始まったころを振り返る。しかし病院は満床で入院できず、処置後に避難所に戻るしかなかったという。冷え込みもきつくほこりの舞う避難所で、巡回医療チームが推移を見守ったが結局、亡くなった人も出た。

 「落ち着いて治療を受けられなかった方々は心細かったろうと思う。ご家族が『やるだけのことをやってもらった』とは言ってくださいましたが……」と伊藤さんは無念そうな表情になった。

 当時は避難所に十分な水や食べ物が行き渡っていなかった。体力が落ちて立ち上がれなくなり、トイレに行かずにすむよう飲食物を控えて低栄養になり、寝たきりに近くなる人もいたという。

「阪神」でも ストレスと高血圧が原因

 95年の阪神大震災のときも、脳卒中や心筋梗塞などの発症が数多く報告された。

 兵庫県・淡路島の津名郡医師会(当時)によると、発生から3カ月半で、脳梗塞など脳卒中が58人▽心筋梗塞など心臓疾患が45人の計103人が郡内で死亡した。前年同期の62人に比べ、大幅に増えていた(津名郡医師会調べ)。

 死亡者は避難所生活の人に多く、60歳以上が大半を占めた。主な要因は、避難所生活の不自由さや将来への不安からくるストレス。そして、睡眠不足や食生活の乱れなどで生じる高血圧だという。

 淡路島で治療にあたった苅尾七臣・自治医科大教授(循環器内科)は「不眠や精神的な不安定が続くと自律神経の働きが乱れ、腎臓の働きが落ちる。ナトリウムの排せつ機能がうまく働かず高血圧になったり、血液が固まりやすくなったりして、血栓が起きる」と説明する。

 苅尾さんは阪神大震災の経験から、心血管疾患になりやすいかどうかを判断する危険度スコア(表・上)を作った。あてはまる項目が多いと要注意だ。また、予防のための八つの実践スコア(表・下)も作った。「健康は自分で守るという強い気持ちで取り組んでほしい」と訴える。

■心血管疾患の危険度スコア(四つ以上あてはまれば要注意)

(1)年齢=75歳以上か

(2)家族=死亡・入院しているか

(3)家屋=全壊したか

(4)地域社会=全滅したか

(5)高血圧=最高が160mmHg以上か治療中

(6)糖尿病=あるか

(7)循環器疾患の既往=心筋梗塞、狭心症などを起こしたか

■心血管疾患の予防実践スコア(六つ以上あてはまるよう目指す)

(1)睡眠=6時間以上眠れているか

(2)運動=1日に20分以上歩いているか

(3)食事=塩分の摂取が少なく、野菜、果物はとれているか

(4)体重=震災前の体重に比べ、プラスマイナス2kg以内か

(5)感染予防=マスク、手洗いをしているか

(6)血栓予防=水分を十分にとっているか

(7)薬の継続=以前から服用している薬をやめていないか

(8)血圧管理=定期的に測定し、最高140mmHg以上は受診しているか

(苅尾七臣・自治医科大教授作成)

高血圧予防に大切な「眠り」

 自治医科大の災害派遣チームは2011年3月25日〜4月2日、岩手県大船渡市で被災者の治療にあたった。約380人の血圧を測ると、最高血圧180mmHg以上が25%、160〜179mmHgが約33%おり、高血圧ぎみの人が多かった。

高齢者にとって長期間にわたる避難所での生活は大きな負担になる=岩手県山田町で2011年3月16日、久保玲撮影
高齢者にとって長期間にわたる避難所での生活は大きな負担になる=岩手県山田町で2011年3月16日、久保玲撮影

 血圧が120〜170mmHgあった女性(82)は震災後に不安が強まり、不眠で悩んでいた。睡眠導入剤の処方でよく眠れるようになると110〜148mmHgとほぼ正常になった。苅尾さんは「高血圧の防止には、塩分の摂取を減らし、カリウムの多い緑黄野菜や果物、海藻類を取ること。そして何より大事なのは、よく眠ることだ」と指摘する。

 しかしベッドもプライバシーもない避難所で、夜十分な眠りを確保するのは難しい。

 車いすの生活を送る宮城県東松島市の千葉哲夫さん(67)は、自宅が津波で全壊し、避難所で暮らしている。床ずれ防止のため体位を変える必要があり、夜は1時間から1時間半に1回、目を覚ますという。手伝う妻のせつ子さん(61)も「家のことが心配なこともあって寝付けません」と訴える。せつ子さんは巡回してくる医師に頼み、精神安定剤をもらって床につくようになった。

 自宅ではリハビリのため手すりにつかまって運動していたが、避難所では難しい。なんとか普段通りの生活を維持しようと、哲夫さんは「窓につかまって立ち上がったり、トイレに行った時に手すりにつかまって動いたり意識的に運動している」と話す。

日々の動作をゆっくりにするだけでも効果あり

 「なぜ、『これ』は健康にいいのか?」(サンマーク出版)著者の小林弘幸・順天堂大学医学部教授(スポーツ医学)は、リラックスすることの重要性を訴える。高血圧などが生じるのは、不自由な生活で自律神経の働きが乱れるためで、心身をバランスよく保つ努力が必要だという。

 「食べるときも歯を磨くときも、ゆっくりした動作を心がけたい。すわったままでよいので、息を1回吸ったら、2回はき、1対2のリズムでゆっくりと呼吸すれば、副交感神経の働きが高まりストレスが軽くなる」と小林教授はアドバイスする。

 他にも「1日20〜30分歩く」「仲間と話す」「朝コップ1杯の水を飲む」「こまめに足首を回す」「よく笑う」−−を心がけるのがよいそうだ。【小島正美、澤木政輝】

(毎日新聞2011年4月27日掲載)

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