蚊の生態を知って対策するジカ熱、デング熱【後編】

 ジカ熱やデング熱のウイルスを媒介する蚊、ヒトスジシマカが今年も日本各地で飛び始めた。国内感染が起きて広がる可能性は低いがありうること、また、ヒトスジシマカは日本で最も普通に都市部周辺で見られる蚊の一つで、主に日中に屋外で活動することなど詳しい生態を前編では伝えた。後編では、虫よけ剤を選ぶポイントや、流行地域への渡航予定がある人が注意すべきことを具体的に紹介したい。

虫よけ剤はディートの濃度がポイント

 まず、屋外での対策は蚊忌避剤(虫よけ剤)の使用、長袖、長ズボンの着用が基本だ。では、虫よけ剤を選ぶ際にはどのようなことに注意すればよいのだろう。ポイントになるのが忌避成分であるDEET(ディート)の濃度だ。濃度50%以上では効果は変わらないとされるが、それ以下では濃度が高ければ高いほど効果持続時間が長くなる。海外では20〜30%のものがドラッグストアやスーパーなどで一般に販売されているが、日本で販売されているもので最も高いのは12%だ。なぜか。

なぜか広まっている誤解「日本ではディートの濃度、上限12%」

 「日本では薬事法で上限12%と決められている」という言説を見聞きしたので、厚生労働省の担当者に確認した。「そのような法律はないし、通知をしたことも過去一度もない。なぜ広まったのか分からない間違い。上限は特に規定していないので、申請があって効果や安全性が確認できれば承認される」という。メーカーなどで作る日本家庭用殺虫剤工業会に聞くと「一般的に有効成分の濃度が高くなると価格は高くなる傾向はあるが、温暖化などで需要が高まれば、高濃度の製品が開発される可能性はあるだろう」と話した。

 持続時間は諸説あるが、20%で4時間程度とする研究がある。しかし国内の製品が表示している持続時間について調べると、12%で4〜12時間と幅が広く、濃度の割に高い傾向だと感じた。厚労省の担当者によると「汗で流れ落ちにくくする添加剤などの違いはあるが、基本的にはディートの濃度が同じであれば、持続時間もほぼ同じと考えてよい」らしい。承認審査に必要な日本での実地試験では、どの製品も10%で6時間の効果は確認されているという。ただ「気温や湿度、紫外線の強さによって変わるので、海外でも同じように有効かは分からない」と話した。汗や水遊びで流れてしまった場合は、塗り直す必要があるとのことだ。熱帯地域などの流行地域に渡航予定のある人は、高濃度のものを現地で調達することを検討してもよいかもしれない。

 ディートは一般的に毒性が低いとされるが、高濃度のものが販売されている海外では、副作用としてまれに皮膚のかぶれなどが報告されている。厚労省は6カ月未満の乳児には使用しないように定め、12歳未満は1日の使用回数を制限している(米疾病対策センター=CDC=は2カ月未満の乳児には使用せず、小児には濃度30%以下とするよう推奨)。子どもに使用する時は大人が一度手に取って塗り、目や口に入らないように気を付けることが必要だ。また、虫よけ剤にはスプレータイプと、液体やジェルを塗るタイプが販売されているが、国民生活センターが2005年に発表した調査によると、薬剤の付着効率が高いのは塗るタイプだった。露出した皮膚や衣服に使用するのが正しく、衣服の下の皮膚に塗る必要はない。

注目の日本新登場の虫よけ成分はディートより効果的?

 昨年新たにイカリジンという忌避成分を主体にした虫よけ剤が国内で承認され、今年から国内メーカーが発売した。1946年に米国で開発されたディートと比べると歴史は浅いが、98年にベルギーで発売されて以来、欧州、オーストラリア、米国など54カ国以上(昨年1月時点)で販売されている。承認審査で提出されたデータによると、イカリジン5%の製品とディート10%の製品はほぼ同じ効果がある。また匂いが少なく、衣類を傷めにくいというメリットがあるという。現在のところ子どもへの使用制限はないので、新たな選択肢として注目される。

 また、植物由来の虫よけとして、シトロネラールなどの虫よけ効果のある成分が含まれたレモンユーカリ油やシトロネラ油など精油を使った製品も多く販売されている。低濃度のディートと同様の効果を示したとの研究もあるが、どの程度有効かについてはよく分かっていないので、汗などで流れ落ちたらこまめに塗り直す必要があるだろう。また一概に「植物由来だから優しい」というわけではない。CDCはレモンユーカリ油について、3歳未満の小児に使用してはいけないとしている。

屋内では殺虫剤や蚊帳の利用を

 屋内では、蚊取り線香などの殺虫剤の利用が効果的だ。液体式やマット式の電子蚊取り、最近は薬剤を一度噴射するだけで室内に薬剤を広げる“虫がいなくなるスプレー”も人気だ。いずれも虫の神経に作用してマヒさせて殺虫するピレスロイド系薬剤が使われている。哺乳類など恒温動物は体内に入っても分解できるので、使用法上の注意を守れば安全という。一方で殺虫剤の使用に抵抗のある人は、エコで効果的な昔ながらの蚊帳を見直してもよいかもしれない。

流行地域に渡航予定の人は帰国後も対策が必要

 蚊が媒介する感染症が流行している地域に渡航予定の人が、気を付けるべきは現地滞在中だけではない。厚労省は国内感染を起こさないよう、帰国してからも少なくとも2週間は、特に防蚊対策を取ることを推奨している。

 また、妊婦の感染と胎児の小頭症の関連が報告されているジカ熱については、世界保健機関(WHO)が妊婦に、五輪・パラリンピックが開催されるブラジルをはじめとした流行地域に渡航しないよう呼びかけている。性行為による感染疑い例も報告されているため、流行地域から帰国した人は最低1カ月(パートナーが妊娠中の場合は妊娠期間中を通して)性行為の際に、コンドームを使用するか、性行為を控えることを推奨している。感染しても症状が出ない人が、感染源になりうるかどうかはよく分かっていない。これらは症状の有無にかかわらず気を付けることが大切だという。

(参考URL:厚生労働省 ジカウイルス感染症に関するQ&Aについて

 感染症や旅行医学に詳しい太融寺町谷口医院の谷口恭院長によると、海外で盲点となるのがビーチや繁華街でも刺されることがあること。「特にビーチやプールサイドで無防備になり蚊の犠牲になる人が多い印象がある」という。国立感染症研究所名誉所員の小林睦生さんによると、ビーチやプールサイドの近くにある、日差しや風を遮るための木陰や茂みが特に要注意という。必要以上に怖がる必要はないが、感染症や蚊の生態について知って対策を取り、旅行や夏のレジャーを楽しみたい。

【蚊の生態を知って対策するジカ熱、デング熱【前編】はこちら

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中村好見

中村好見

毎日新聞 医療プレミア編集部

なかむら・よしみ 1984年生まれ。2008年に毎日新聞社へ入社、高松支局などを経て14年にデジタルメディア局異動。ニュースサイトの編集に携わり、新しいニュースの見せ方、伝え方について日々研鑽中。幼少時に家族がくも膜下出血で倒れた経験から、医療とそれを取り巻く社会問題に興味を持つ。

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