「スポーツと栄養」--運動する人が知っておきたいこと【後編】

 前回はスポーツ栄養の基本や実際のアスリートに対する栄養サポートについて聞きました。では、スポーツを愛好する人や、ダイエットしたい人は、栄養や食事のどのような点に気をつけたらよいでしょうか。引き続き、「順天堂大学女性スポーツ研究センター」のプロジェクトメンバーで、神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科教授の鈴木志保子さんに聞きました。

 「いまの子供たちは、1時間半の練習が限界だ」。近ごろ、ジュニアスポーツの指導者からこんな話を聞きます。このようなパフォーマンスの低下は、たんぱく質の過剰摂取が要因として考えられます。トップアスリートのように、食べても補いきれないほどエネルギー消費量が高い場合を除き、スポーツをしたからといって食事での摂取量を大きく増やす必要はほとんどありません。ところが、「スポーツや運動をしたらたんぱく質をたくさん摂取しなくてはいけない」と思い込んで、多くの人はプロテイン剤や肉を取り過ぎています。実は、子供たちのパフォーマンス低下の原因はそこにあります。

プロテイン剤や肉の取り過ぎで肝機能低下

 これは肝臓の働きと関わりがあります。少し専門的になりますが、解説しましょう。

 私たちがたんぱく質を摂取すると、消化してアミノ酸に分解され、体内に吸収されます。大量に摂取した場合は、必要量以上に吸収されます。アミノ酸は分解されて、一部分はグリコーゲンや脂肪に作り替えられて貯蔵されます。また、別の部分(アミノ基)は分解されてアンモニアになりますが、毒性が強いため、さらに尿素に作り替えられて腎臓から排せつされます。たんぱく質を過剰摂取すると、肝臓ではこのような処理がずっと続きます。

 一方、運動することによって筋肉では糖質が消費されます。最初は筋肉内に蓄えられた「筋グリコーゲン」を利用しますが、運動時間が長くなって足りなくなると血液中の糖質を使い始めます。こうなると、血糖値を維持するために肝臓ではグリコーゲンを分解してブドウ糖を作らなくてはいけません。しかし、たんぱく質を取りすぎた肝臓では不要物の処理が延々と続いている。つまり、肝臓にダブルワークの負担がかかり、機能が低下するのです。

 運動している大人の場合でも、たんぱく質の摂取量を大幅に増やす必要はほとんどありません。なぜならたんぱく質はご飯やパンにも含まれ、おかずがしっかりしていたら主食の量で調整できるからです。大人では定期的に運動し、お酒も飲まない、健康的な生活をしているにもかかわらず、肝臓の数値が高いという人がいます。このようなときは、プロテイン剤や肉などを取り過ぎていることもあるので、食生活を見直してみましょう。

スポーツジムに通い始めて太る理由

 やせたいと思ってスポーツジムに通い始め、逆に太ってしまったことはありませんか。運動が嫌になって続かない理由の一つが、このようなケースです。運動で汗をかくと気分がすっきりして達成感があります。しかし、エネルギーの消費量はそれほど多くありません。60kgの人が1時間早歩きをした場合、約180kcal。ちなみにビール1缶(500mL)は、約200kcal。運動後にビールを飲むと20kcalプラスです。運動による達成感と消費されるエネルギー量は、同じではないと知っておきましょう。

リバウンドしない体と脳によいダイエット

 また、最近は短期間で結果を出すダイエットが流行しています。しかし、摂取するエネルギー量をいきなり減らして消費量を増やし、急いで減量すると体と脳では対立が起こります。

 体:「こんなに減らされたら、生きられない」

 脳:「エネルギーを取り過ぎると、太って病気になるよ」

 リバウンドしたくなかったら、こうした対立が起こらない「体と脳が共存できるダイエット」がいいと思います。体と脳の安心感はそれぞれ違うため、体はエネルギー不足を危機と感じ、脳は取り過ぎてはいけないと抑制に働きます。ダイエット中、脳が体の危機感を封じ込めているうちはいいのですが、「もう我慢できない!」と体が巻き返す反応がリバウンドです。リバウンドで過食してしまうのは、それだけ体が無理をした証拠です。体にとってエネルギーの蓄えがあることは、非常事態(飢餓)に対する備えがあること。その方が幸せなのです。

 では、リバウンドしないためには、どうしたらよいか。「これくらいなら減っても生きられる」と体が認識できる量を減らすことです。例えば、1日に20kcalを減らすと、1年で体重は1kg減量できます。その5倍の100kcalでは、2~3カ月で1kg減ります。100kcalは、間食のお菓子を控えると減らせるエネルギー量です。ゆっくりしたペースで目標体重を目指すダイエットをお勧めします。【聞き手=医療ライター・阿部厚香】

   ◇   ◇   ◇

すずき・しほこ 医学博士。管理栄養士。公認スポーツ栄養士。1988年、実践女子大学大学院修了。国立健康・栄養研究所研修生を経て東海大学大学院医学研究科を修了。2000年、鹿屋体育大学助教授を経て、03年から神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科准教授、09年から現職。トップアスリートからジュニアアスリートまで多数のスポーツ現場で栄養サポートや指導を行う。日本栄養士会理事、NPO法人 日本スポーツ栄養学会理事(前会長)。

「スポーツと栄養」--運動する人が知っておきたいこと【前編】はこちら

アスリートドクターに学ぶ 健康エクササイズ」は今回で終わります。

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順天堂大学女性スポーツ研究センター

順天堂大学女性スポーツ研究センター

研究の視点から女性アスリートのコンディション管理を支援するため、2014年に設立された。学内と学外から医学とスポーツ健康科学の専門家が参画して女性アスリートを支援する方策や環境整備などを研究している。同年10月には、国内初となる「女性アスリート外来」を東京と千葉にある2か所の順天堂大学付属病院に開設。医師による診療や試合に向けたコンディションづくりのアドバイスなども行っている。センターウェブサイト

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