シートから薬を押し出す機器「トリダス」=吉永磨美撮影
シートから薬を押し出す機器「トリダス」=吉永磨美撮影

薬の飲みづらさを克服する【後編】

 高齢や病気が原因で薬が飲みづらくなったり、使いづらかったりすることがある。前編では、薬の飲みづらさに困る人たちの現状と、飲みづらさから生じる薬の飲み残し「残薬」の問題を紹介した。後編では、飲みづらさを解決する具体的な方法とサポート機器を取り上げる。服薬支援に詳しい昭和大学の倉田なおみ教授に聞いた。

高齢者は「嚥下障害予備軍」

 −−薬について、「飲みづらさ」を感じるのはどのような人でしょうか?

 まず、脳梗塞(こうそく)や高齢になって嚥下(えんげ)障害が起き、「薬がうまく飲めない人」です。また、関節リウマチやパーキンソン病などの運動障害がある人なども飲みづらくなります。

 健康な人が食べ物や薬が気管に入る誤嚥(ごえん)をすると通常むせますが、脳梗塞の患者さんなどまひがある人、認知症の患者さんなどでは、誤嚥でむせないことがあります。「サイレントアスピレーション(不顕性誤嚥)」といい、気管に異物が入ってもむせません。このような人は、食べ物や薬が気管に入ってしまって周囲も気付かぬ間に肺炎を引き起こすリスクもあり、注意が必要です。

 そして特段の病気がなくても、高齢者は「嚥下障害予備軍」といえます。本来、物を飲み込む時は、喉が上がって気道が細くなったところに喉頭蓋(こうとうがい)という部分がふたをして気道に物が入らないようにしますが、加齢によりその周囲の筋力が低下すると、しっかりとふたができず、気道に隙間(すきま)が生じます。それが誤嚥や嚥下障害を引き起こすのです。

つぶさないと飲めない人も

 −−錠剤などをうまく飲めない人への対応は?

 嚥下障害がある人には、錠剤をつぶしておかゆにかけたり、水に混ぜてとろみをつけて食べてもらう方法があります。錠剤は本来、錠剤のまま水で飲む方法を前提に安全性が確保されていて、砕いて水に混ぜる方法の効果や安全性はしっかり確認されていません。また、つぶした薬は耐え難いほど苦く、刺激があるものも多いです。しかしつぶさないと飲めない人がいるのが現実です。私は現在、人の体温よりすこし熱いお湯に薬を入れ、薬を“崩す”「簡易懸濁法」の研究、普及を進めています。この方法は胃ろうや鼻からチューブを入れている人などで広く使われるようになりました。

シートから取り出す機器開発

 −−家族などが「薬がうまく飲めていない」と気付いたらどう対応すればよいでしょうか?

 疑いを抱いたら、医師や薬剤師に相談してください。うまく飲み込めるかどうかを見分ける簡単なスクリーニングテストがあります。家族の方が見ただけで判断できないことが多いので注意してください。「飲み込めないなら口の中に残るから気付くだろう」と思われるかもしれませんが、うまく飲めない人は錠剤や粉薬が口に残っても気付かないことがよくあります。「残留」といい、歯科医や耳鼻科医が見つけたりするのです。まひはなくても、高齢になると唾液が減り、口の中の感覚が鈍くなるために起きます。若い人でも残留することがあります。

 −−飲み込めないばかりか、薬を袋やシートから取り出せず、口に入れることができない人もいるようですね。

 そうです。高齢で手が震え、小さな錠剤やカプセルを指でつまめないケースもあります。また、疾患によっては、爪の形が変化したり、指や手の筋力が衰えたりして、シートから錠剤を押し出せなくなることもあります。

 そんな悩みを抱えた人のためにシートから楽に錠剤を押し出せる機器「トリダス」を調剤機器メーカーの「大同化工」(大阪府)と一緒に開発しました。錠剤やカプセルのシートを所定の位置に差し込み、レバーを押すだけで薬が取り出せます。

 開発のきっかけは、薬剤師として病院に勤務していた頃、入院している脳梗塞の患者さんが薬を飲むのに大変苦労されている姿を見たからです。商品化まで10年ほどかかりました。

 −−他にも服薬をサポートする機器はありますか?

 機器を使って薬の袋を開ける方法を提案しています。1日分の薬を入れた小分けの袋も、腕や手にまひがあって、はさみも使いづらい人はうまく開けられません。そのような場合は、封筒の封を開ける電動機器「レターオープナー」をすすめています。文房具コーナーなどで手に入ると思います。100円ショップなどで売っているすべり止めのゴムを下に敷いてください。

目の位置に手が届かなくても目薬がさせるように、棒や消しゴムなどを使って作った自助具=吉永磨美撮影
目の位置に手が届かなくても目薬がさせるように、棒や消しゴムなどを使って作った自助具=吉永磨美撮影

 絞り出しにくいチューブ薬には、練り歯磨き用に売られているチューブの絞り出し器を利用してみてはいかがでしょう。このほか、簡単に錠剤を半分にできる「はんぶんこ」(大同化工)という機器も開発しました。

 患者の家族が、道具を手作りし、工夫されているケースもあります。関節リウマチの妻のために点眼をサポートする自助具を作った男性もいます。関節リウマチになると、関節の軟骨が侵され、指や腕が短くなることがあります。その女性は、手が目の位置まで届かなくなり、自分で目薬がさせなくなりました。しかし、そのお手製の自助具で誰かに頼まなくても自分で目薬がさせるようになりました。

飲みづらくて残薬が増える

 −−飲みづらさと残薬の関係をどう見ておられますか?

 残薬は飲み薬とは限りません。自分で注射をしなければならない骨粗しょう症の薬も在宅で使われないまま見つかっているようです。注射が自分でうまくできないため、数万円もする高価な薬でも残薬になってしまいます。飲みづらさ、使いづらさは残薬が増える大きな要因だと考えています。

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吉永磨美

吉永磨美

毎日新聞 医療プレミア編集部

よしなが・まみ 1972年生まれ。98年に毎日新聞社入社。横浜支局、東京本社地方部、社会部、毎日RT編集部、生活報道部などを経て、2016年4月からデジタルメディア局。近年は、「おんなのしんぶん」を担当しながら、難聴など見えない障害や女性をテーマに記事を執筆してきた。

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