健康に暮らす10歳若返る歩行術 -インターバル速歩-

遺伝子が決める?運動が続く人、挫折する人

能勢博 / 信州大学教授

 運動は体にいいことはわかっているけれど、それを続けるのは難しい。運動を続けられる人、すぐ挫折してしまう人、何が違うのでしょうか。最近の私たちの研究から、それには遺伝的な要因も含まれる可能性があることが分かってきました。今回は、それを紹介しましょう。

遺伝子多型は個性を決める

図1:ヒトの遺伝子は32億段の4種類の塩基(A、C、G、T)の対でできている。
図1:ヒトの遺伝子は32億段の4種類の塩基(A、C、G、T)の対でできている。

 体の設計図の原本は「DNA」です。DNAはA、T、C、Gという四つの化学物質(塩基)が数十億連なった糸です(図1)。全ての塩基配列が重要なのではなく、所々に特に大切な配列があります。これを「遺伝子」と呼び、ヒトでは約2万個あります。1つの遺伝子も数十塩基からなる小さいものもあれば、数千塩基からなる大きいものもあります。ある遺伝子について、すべての人が全くおなじ塩基配列をもっているのではなく、人によって1カ所だけ塩基の種類が異なります。これを一塩基多型といいます。目はあるが、その形が少し違う。鼻はあるが、その形が少し違う、といったように、各人の個性を反映するものです。

運動効果を反映しやすい遺伝子多型がある?

 私たちは20年前から長野県松本市を中心に中高年の健康運動教室「熟年体育大学」事業を実施しており、これまで6400人の方々が参加し、そのうち2200人の方々から遺伝子解析用の血液試料をいただきました。この遺伝子多型を解析することで、たとえば、同じように運動をしているのに、血圧が下がりやすい人、下がりにくい人、あるいは、痩せやすい人、痩せにくい人など、運動効果の表れ方の個人差が説明できるのではないか、と考えたわけです。

 その結果、まずひっかかってきたのがバゾプレッシンV1a受容体の一塩基多型です。なぜ、この遺伝子に注目したのかは話が込み入っていますので説明を省きますが、男性(224人)についてみてみると、この遺伝子のある箇所の塩基対が、CCの型が224人中42人、CT型が118人、TT型が64人おられました。そこで、この遺伝子の多型別に、トレーニング前の体格指数(BMI)、拡張期(最低)血圧、を見てみると、CC、CT、TT群の順番に高くなっていくのが分かります(図2左)。

図2:バゾプレッシンV1a受容体遺伝子のある部位の塩基対がCC, CT, TTであるヒトを比べると、TT群では、肥満指数が高く、収縮期(最低)血圧が高い。しかし、5カ月間インターバル速歩をするとTT群でもっともそれらの値が低下した。†,††, ‡は群間に, ***はトレーニング前と比較して、統計学的に有意な差(論じるに値する差)があることを示す。Masuki S et al., Hypertension 55: 747-754, 2010.
図2:バゾプレッシンV1a受容体遺伝子のある部位の塩基対がCC, CT, TTであるヒトを比べると、TT群では、肥満指数が高く、収縮期(最低)血圧が高い。しかし、5カ月間インターバル速歩をするとTT群でもっともそれらの値が低下した。†,††, ‡は群間に, ***はトレーニング前と比較して、統計学的に有意な差(論じるに値する差)があることを示す。Masuki S et al., Hypertension 55: 747-754, 2010.

 では、このような方々が5カ月間インターバル速歩トレーニングをするとこれらの値がどのように変化するのでしょうか。その結果を図2右に示しますが、CC、CT、TT群の順番で低下幅も大きくなっていきました。この際、トレーニング量は群間で差がありませんでしたので、TT群はインターバル速歩(運動)の効果を反映しやすい、遺伝子をもつ人たちといえるでしょう。

それは運動嫌いの遺伝子だった!?

 ではなぜ、TT群ではトレーニング前に、BMI、拡張期血圧が他の群に比べて高いのでしょうか。私たちは「TT群の人たちは運動嫌いなのではないか」と考えました。そこで、2005、06、07年の4月または10月からインターバル速歩を実施した男性(196人)の定着率を、その後、22カ月間にわたり遺伝子多型別に解析しました。この際、用いた遺伝子多型として、上記の部位だけではなく、もう一つの多型の部位(microsatelliteといいます)も考慮して解析しました。

 その結果、図3で示すように、TT型とmicrosatellite の特定の型を併せもつ男性が全体の15%おられるのですが、彼らではインターバル速歩の定着率が急速に低下することが分かりました。すなわち、この遺伝子多型をもつ方々は無精で、あきやすい性格といえるかもしれません。

図3:バゾプレッシンV1a受容体について、多型1のTT、多型2のmicrosatellite の特定の型の両方を保有する群では、他の多型群に比べ、22カ月間のトレーニングの定着率が悪い。図中のP値は、その差が統計学的に有意な差(論じるに値する差)であることを示す。Masuki et al., J. Appl. Physiol. 118: 595-603, 2015.
図3:バゾプレッシンV1a受容体について、多型1のTT、多型2のmicrosatellite の特定の型の両方を保有する群では、他の多型群に比べ、22カ月間のトレーニングの定着率が悪い。図中のP値は、その差が統計学的に有意な差(論じるに値する差)であることを示す。Masuki et al., J. Appl. Physiol. 118: 595-603, 2015.

 以上をまとめると、この遺伝子多型をもつ男性は、日ごろから無精な性格で運動しない、だから肥満気味で血圧も高い。でも、一念発起して、短期間でも運動すれば、それらの値が著しく改善する可能性があるのです。

 一方、女性では、男性でみられたような遺伝子多型間での違いは認められませんでした。

 今後、より多くの人たちについても研究を進め、より詳細に検討したいと考えています。

医療プレミア・トップページはこちら

能勢博

能勢博

信州大学教授

のせ・ひろし 1952年生まれ。京都府立医科大学医学部卒業。京都府立医科大学助手、米国イエール大学医学部博士研究員、京都府立医科大学助教授などを経て現在、信州大学学術院医学系教授(疾患予防医科学系専攻・スポーツ医科学講座)。画期的な効果で、これまでのウオーキングの常識を変えたと言われる「インターバル速歩」を提唱。信州大学、松本市、市民が協力する中高年の健康づくり事業「熟年体育大学」などにおいて、約10年間で約6000人以上に運動指導してきた。趣味は登山。長野県の常念岳診療所長などを歴任し、81年には中国・天山山脈の未踏峰・ボゴダ・オーラ峰に医師として同行、自らも登頂した。著書に「いくつになっても自分で歩ける!『筋トレ』ウォーキング」(青春出版社)、「山に登る前に読む本」(講談社)など。

イチ押しコラム

無難に生きる方法論

季節の変わり目の「めまい、耳鳴り」は気象病かも

 秋が深まり、冬の寒さに切り替わる11月は寒暖の差が大きく、体調を崩す人が多い。寒暖の差が大きいと自律神経が乱れ、めまいや耳鳴り、…

人類史からひもとく糖質制限食

糖質含むカロリー制限食では糖尿病を防げない?

 福岡県久山町は、福岡市の東に隣接する人口約9000人の町です。九州大大学院のチームが1961年以来、40歳以上の町民を対象に脳卒…

旅と病の歴史地図

「海外出張183日」高裁が過労死を認めた理由

 ◇首相の外遊は過重労働? 政治家の海外出張を「外遊」と呼びます。その字を見ると遊びのようにとられますが、この「遊」は「旅」を意味…

超高齢化時代を生きるヒント

「痛みと医療費」二重に苦しむ若年がん患者たち

 高齢化社会をどう生きるか、高齢化社会を支える仕組みが今後どうなるのか--本連載はこれらを中心にお伝えしていますが、若い人から「高…

医をめぐる情景
ドクターヘリで搬送され、救命救急センターに移される負傷者=ドラマのロケ地でもある千葉県印西市の日本医科大千葉北総病院で

障害があっても強く生きる患者と、勇気もらう医師

 ◇ドラマ「コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-」第3シーズン(2017年) 事故で突然、大切な身体機能を失うことがある。不意に…

Dr.林のこころと脳と病と健康

演技性パーソナリティー障害のうそが肥大する土壌

 ◇うそつきは病気か【5】 自分を実際よりよく見せるためにうそをつくのは、誰でもある程度までならすることです。ではそういう普通の人…

Dr.米井のアンチエイジング・セルフチェック チャートでわかる、あなたの機能年齢 北海道大学COI×医療プレミア