健康に暮らす10歳若返る歩行術 -インターバル速歩-

スポーツドリンクのブドウ糖が持つすごい力

能勢博 / 信州大学教授

なぜスポーツドリンクに糖分?

 いよいよウオーキングに最適な季節の到来です。今回は、ウオーキング後に飲むスポーツドリンクについて、お話ししましょう。

 スポーツドリンクは元々、厳しい暑さの中で、脱水によって運動パフォーマンスが低下するのを予防するために開発されました。ですから、スポーツドリンクの主体は汗の成分と同じナトリウムイオンやカリウムイオンなどの電解質です。でも、汗の成分ではないブドウ糖などの糖分も多く含まれています。なぜなのでしょうか。

 これには二つの理由があります。

腸管での水分吸収を促進

 一つは、ブドウ糖を含んでいないと腸管から水分が吸収されにくいからです。私が大学生の頃の生理学実習で、0.9%の食塩水(体液と同じ浸透圧)を1L飲み、その後の尿の量を測定する実験がありました。摂取後数時間にわたって尿の量はほとんど増加せず、おなかにもたれ、吐き気や頭痛までして大変でした。一方、真水1Lを飲むと、おなかのもたれ感も少なく、30分程度でほとんどが尿として排泄されてしまいました。

 この理由は腸管の水分吸収メカニズムにあります。水分の吸収は腸管内外の浸透圧差(電解質濃度差)によって行われます。真水が腸管内に入ってくると腸管内側(水や食物が流れる側)の浸透圧は腸管外側(具体的には腸管の周囲を巡っている血管側)の浸透圧よりも低くなります。水は浸透圧の高い方へ流れるため、腸管の中から外の血管へと吸収されます。

 一方、0.9%の食塩水を飲んだときは、腸管内外の浸透圧が等しくなるので、このメカニズムは働きません。それでは水分が吸収されないので、おなかがもたれます。そこで腸管の細胞にある「イオンポンプ」を使って、電解質(この場合はナトリウムイオン)を腸管内側から腸管外側に向けて移動させます。その結果、腸管内外に浸透圧の差ができて水分が吸収されるのです。でも、時間がかかります。

 そこでブドウ糖の登場です。ブドウ糖はこの腸管細胞のイオンポンプを活性化します。ナトリウムイオンやカリウムイオンなどが溶け込んだ「電解質溶液」に1%の濃度になるようにブドウ糖を加えるだけで、真水並みの吸収速度が得られるのです。

きつい運動時のエネルギー源

図1:体重の2%の脱水後、3種類の飲料を摂取した際の血漿量変化を飲料摂取前の値を0%とし、その変化量で示す。時間0から30分かけて飲料を摂取した。*, vs. 電解質溶液条件;†, vs. 低糖質+電解質溶液条件をそれぞれP<0.05のレベルで表す。Kamijo et al.: Enhanced renal Na+ reabsorption by carbohydrate in beverages during restitution from thermal and exercise-induced dehydration in men. Am. J. Physiol. 303: R824-R833, 2012.
図1:体重の2%の脱水後、3種類の飲料を摂取した際の血漿量変化を飲料摂取前の値を0%とし、その変化量で示す。時間0から30分かけて飲料を摂取した。*, vs. 電解質溶液条件;†, vs. 低糖質+電解質溶液条件をそれぞれP<0.05のレベルで表す。Kamijo et al.: Enhanced renal Na+ reabsorption by carbohydrate in beverages during restitution from thermal and exercise-induced dehydration in men. Am. J. Physiol. 303: R824-R833, 2012.

 スポーツドリンクにブドウ糖が入っているもう一つの理由は、運動時に消費されるグリコーゲン(ブドウ糖)の補給のためです。「インターバル速歩」の速歩時に消費されるエネルギー源は、主に筋肉内に蓄えられているグリコーゲンで、これを補う目的で加えられているわけなのです。でも、スポーツドリンク内の糖分濃度が高いと胃にもたれますし、何よりも甘すぎて飲みづらいです。これらを考慮して、現在の市販品は糖分が6%程度になっています。

 ところで、最近、スポーツドリンクに含まれる糖分が上に述べた二つのメカニズム以外にも脱水回復に有効であることが分かってきました。

腎臓での塩分再吸収を促進

図2:体重の2%の脱水後、3種類の飲料を摂取した際の血漿ブドウ糖および血漿インスリン濃度変化を表す。時間0から30分かけて飲料を摂取した。*, vs. 電解質溶液条件;†, vs. 低糖質+電解質溶液条件をそれぞれP<0.05のレベルで表す。Kamijo et al.: Enhanced renal Na+ reabsorption by carbohydrate in beverages during restitution from thermal and exercise-induced dehydration in men. Am. J. Physiol. 303: R824-R833, 2012.
図2:体重の2%の脱水後、3種類の飲料を摂取した際の血漿ブドウ糖および血漿インスリン濃度変化を表す。時間0から30分かけて飲料を摂取した。*, vs. 電解質溶液条件;†, vs. 低糖質+電解質溶液条件をそれぞれP<0.05のレベルで表す。Kamijo et al.: Enhanced renal Na+ reabsorption by carbohydrate in beverages during restitution from thermal and exercise-induced dehydration in men. Am. J. Physiol. 303: R824-R833, 2012.

 図1は、体重の2%(約1.4L)に相当する脱水をさせた被験者に、脱水量と同程度の▽電解質溶液▽低糖質(糖分濃度3%)+電解質溶液▽高糖質(同6%)+電解質溶液--を30分以内に飲ませた際の血漿(けっしょう)量の変化を調べたものです。脱水前の値を0%としています。血漿は血液の液体成分で、量が増加すると脱水から回復していることを示します。

 その結果、それぞれの飲料摂取後の最初の60分は、糖質を含んだ電解質溶液を飲んだ方が糖質を含まない電解質溶液を飲んだ場合より血漿量の増加は大きくなりました。しかし、その後、「低糖質+電解質溶液」と「糖質を含まない電解質溶液」の差がなくなります。一方で、「高糖質+電解質溶液」は他の2条件に比べ高いレベルを維持しています。

 図2は、3条件の飲料摂取後のブドウ糖とインスリンの血漿中濃度を調べたものです。溶液中の糖質濃度が高いほど、血漿インスリン濃度が高くなっています。

 図3は、血漿インスリン濃度変化に対する腎臓の近位尿細管(注1)、遠位尿細管(注2)でのナトリウムイオンの再吸収速度です。血漿インスリン濃度に比例してナトリウムイオンの再吸収速度が上昇していることが分かります。このメカニズムによってナトリウムイオンが体内に保持されると、水分摂取による血漿浸透圧の低下を抑制し、尿量の減少や口渇感(のどの渇き)の維持、水分摂取促進につながります。その結果、脱水回復(血漿量増加)が促進するのです。

図3:体重の2%の脱水後、3種類の飲料を摂取した際の血漿インスリン濃度に対する腎臓の近位尿細管(上図)、遠位尿細管(下図)におけるナトリウムイオンの再吸収速度を示す。灰色のラインは回帰式の95%信頼限界を示す。C.D. (critical difference) は、X軸、Y軸でバーの長さ以上に各データポイントが離れていればP<0.05のレベルで有意差のあることを示す。Kamijo et al.: Enhanced renal Na+ reabsorption by carbohydrate in beverages during restitution from thermal and exercise-induced dehydration in men. Am. J. Physiol. 303: R824-R833, 2012.
図3:体重の2%の脱水後、3種類の飲料を摂取した際の血漿インスリン濃度に対する腎臓の近位尿細管(上図)、遠位尿細管(下図)におけるナトリウムイオンの再吸収速度を示す。灰色のラインは回帰式の95%信頼限界を示す。C.D. (critical difference) は、X軸、Y軸でバーの長さ以上に各データポイントが離れていればP<0.05のレベルで有意差のあることを示す。Kamijo et al.: Enhanced renal Na+ reabsorption by carbohydrate in beverages during restitution from thermal and exercise-induced dehydration in men. Am. J. Physiol. 303: R824-R833, 2012.

 激しいスポーツ競技では5Lもの脱水が起こります。その完全回復には、水分と電解質だけを補給するのではなく、ブドウ糖を大量に含む「食事」と合わせて摂取することの重要性が明らかになったのです。

   ×   ×   ×

 注1:近位尿細管は腎臓の尿細管にある。糸球体でろ過された尿の50~70%を再吸収し、尿中の糖やアミノ酸のほとんどを血液中に再吸収する。

 注2:遠位尿細管は腎臓の尿細管にある。糸球体でろ過された尿の10~20%を血液中に再吸収するが、体液量に応じてその吸収量は変化する。

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能勢博

能勢博

信州大学教授

のせ・ひろし 1952年生まれ。京都府立医科大学医学部卒業。京都府立医科大学助手、米国イエール大学医学部博士研究員、京都府立医科大学助教授などを経て現在、信州大学学術院医学系教授(疾患予防医科学系専攻・スポーツ医科学講座)。画期的な効果で、これまでのウオーキングの常識を変えたと言われる「インターバル速歩」を提唱。信州大学、松本市、市民が協力する中高年の健康づくり事業「熟年体育大学」などにおいて、約10年間で約6000人以上に運動指導してきた。趣味は登山。長野県の常念岳診療所長などを歴任し、81年には中国・天山山脈の未踏峰・ボゴダ・オーラ峰に医師として同行、自らも登頂した。著書に「いくつになっても自分で歩ける!『筋トレ』ウォーキング」(青春出版社)、「山に登る前に読む本」(講談社)など。

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