病気を知る教養としての診断学

「騎士団長殺し」に見る時を味方にした診断学

津村圭 / 府中病院総合診療センター長

診断学は時空を超える【3】

 前々回、前回と2回にわたって、時間をさかのぼり、過去の人物(や過去に作られた架空の物語の人物)の病気について考えてきました。今回は、診断学における「時間」の考え方そのものを紹介したいと思います。

村上春樹「騎士団長殺し」で語られる「時間」

 今年2月に刊行された村上春樹の長編小説「騎士団長殺し」は、既に100万部を優に超えたベスト セラーになっています。村上作品はどれをとっても、読者に「これは自分のために書かれた物語だ」と感じさせる、と評されています。また毎回、独特な装置(異界、サブカルチャー、独創的な比喩)の中で物語が進み、読者はその世界観を楽しむことができるのですが、その作品解釈は人によってさまざまで、それ故に村上作品は難しいと言われることもあります。もっとも、著者自身は、解釈の「正解」を公表していませんから、読んだ人によって異なる解釈でよい、いわゆる「開かれたテクスト」(注1)の作品だ、と考えればよいのかもしれません。

 「騎士団長殺し」では、主人公と騎士団長が、「時」について繰り返し言及しています。例えば以下のような…

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津村圭

津村圭

府中病院総合診療センター長

つむら・けい 大阪府出身。1977年大阪市立大学医学部を卒業後、国立循環器病センター(現・国立循環器病研究センター)に心臓内科レジデントとして勤務。その後の28年間は大阪市立大学医学部教員として、学部学生、大学院学生、研修医、指導医、教員の指導と医学部カリキュラムの企画と作成に携わった。診療面では循環器内科をベースとしつつ、早い時期から原因疾患の判別が困難な症例で、診断を担当する総合診療医として従事。研究面では、各種疾病のリスクファクターについての臨床疫学研究を行い、ランセット(Lancet)など欧米医学誌で発表してきた。2014年1月から現職。総合診療医として地域医療に関わるとともに、初期、後期研修医の指導を担当、臨床研修室顧問も兼任する。地域医療を充実させるため院内に家庭医療専門医後期研修プログラムを立ち上げるなど、診療と教育をリンクさせた活動を現在も続けている。府中病院ウェブサイト

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