健康に暮らすボストン発 ウェルエイジング実践術

モリモリ果物と野菜で心も体も健康アップ

大西睦子 / 内科医

 今回は、果物や野菜の健康にまつわるお話です。その前に果物と野菜の定義を整理してみましょう。まず、これらの定義は、1)植物学的2)料理・食文化的3)法的な要素--により異なります。そのため、なんと米国ではトマトが野菜か果物かをめぐって裁判で争われた歴史があります。本題に入る前に、そのてんまつを紹介しましょう。

米最高裁判所で争われたトマトの分類

 時は1893年、米国で「トマトは果物か野菜か」という裁判が最高裁判所まで争われました。この裁判の発端は、83年に制定された「輸入野菜に関税をかけるが、輸入果物には関税をかけない」という法律でした。当時のニューヨークのトマト輸入業者が「トマトは野菜ではなく果物」と、非課税扱いするよう関税の徴収官を相手取り訴訟を起こしました。最終的に、最高裁は「トマトは国民が野菜と信じているので植物学的には果実だけど、野菜と分類する」と判決を出したのです。

参考URL:http://caselaw.findlaw.com/us-supreme-court/149/304.html

参考URL:http://www.businessinsider.com/supreme-court-tomato-is-vegetable-2013-12

 植物学的には、植物の分子や構造によって、果物と野菜を定義づけます。また、英語ではいずれもfruitですが、日本語では「果物」ではなく「果実」という言葉が使われます。世界保健機関(WHO)のがん専門機関である国際がん研究機関(IARC)によると、植物学的な分類では「概して、植物の子房(被子植物のめしべの下端の膨らんだ部分)が成熟すると果実になる。食用であるかは考慮されない。食品については、肉質の果実(ブルーベリー、メロン、桃、カボチャ、トマトなど)、ドライフルーツ、雑穀、豆類やナッツが含まれる」とされています。

 一方、「野菜は、広義には、食用であるかどうかに関わらず、高木と低木、つる植物、維管束植物を含むあらゆる植物を意味する。食品については、野菜には二つの定義がある。一つは、食用に栽培された植物で、例えば、茎(セロリ)、根(ニンジン)、塊茎(ジャガイモ)、球根(タマネギ)、葉(ほうれん草、レタス)、花(アーティチョーク)、種子(豆)。二つ目の定義には、さらに果実(リンゴ、キュウリ、カボチャ、イチゴ、トマト)がサブセット(小集団)として含まれている」と定義しています。

参考URL:http://www.iarc.fr/en/publications/pdfs-online/prev/handbook8/index.php

 日本では農林水産省のホームページをみると、「野菜と果物(果実)の分類については、はっきりとした定義はない。国によってもその分類が異なる」「いちご、メロン、スイカなどは野菜に分類されますが、果実的な利用をすることから果実的野菜として扱っています」とあります。また、農畜産業振興機構の統計上の分類一覧では、トマトは農水省の分類では「果菜類=野菜」になっています。

参考URL:http://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/yasai/yasai_teigi/

参考URL:https://www.alic.go.jp/content/000093223.pdf

 それでは、栄養学的には、何が果物で何が野菜なのでしょうか?

 IARCは、「果実や野菜の植物学的な定義は、料理における定義よりも正確。ただし、料理の定義は食文化に基づいており、より一般的に受け入れられている」と説明します。そして、「果物は、甘みと酸味のある種子と果肉を包む植物の食べられる部分。一般に、朝食の飲み物、朝食とランチのサイドディッシュ、スナックまたはデザートとして摂取する。一方、野菜は、茎、根、塊茎、球根、葉、花および果実を含む植物の食べられる部分。一般的に、生や調理して、メインディッシュ、前菜またはサラダとして摂取する」とあります。

 結局、栄養学における果物と野菜の定義は、私たちの普段の食文化に基づきます。この分類でも、トマトは野菜になりますね。

果物と野菜どちらも摂取が足りない日本人

 厚生労働省・農水省は、1日に200g(ミカンなら2個、梨・リンゴなら1個)の果物と、1日に350g(小皿の野菜料理は一皿70g)の野菜の摂取を推奨しています。ところが厚労省の「平成28年国民健康・栄養調査」の結果によると、日本人はどの年齢も果物や野菜の摂取が足りていません(表参照)。

参考URL:http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/kekkagaiyou_7.pdf

参考URL:http://www.maff.go.jp/kyusyu/seiryuu/yasaikudamono/pdf/2505yasai2.pdf

参考URL:http://www.maff.go.jp/kyusyu/seiryuu/yasaikudamono/pdf/200gundo_1.pdf

 これまでの研究で、より多くの果物や野菜を食べる人は、より心臓血管系が健康的で、いくつかのがんのリスクが低く、寿命が長くなることが示されています。さらに最近、果物や野菜が心の健康にも良いとの研究結果が公表されました。

2週間、新鮮な果物や野菜を食べると元気に

 ニュージーランド・オタゴ大学のタムリン・コナー博士らは、2017年の科学雑誌「PLOS ONE」に、興味深い論文を報告しています。

参考URL:http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0171206

 コナー博士らは、18~25歳の171人の参加者を三つのグループに分けて、2週間にわたり観察しました。一つ目のグループ(コントロール)は通常の食生活を続けました。二つ目のグループには、果物と野菜の商品券を渡し、1日少なくとも5サービング(1サービング=食品のサイズを示し、1回分、1人分の分量)の果物や野菜を食べることを奨励するために、1日2回テキストメッセージを送信しました。三つ目のグループには、2週間分の新鮮な果物と野菜(ニンジン、キウイフルーツ、リンゴ、オレンジ)の袋を手渡し、毎日の果物と野菜の摂取に、さらに2サービング(果物と野菜を一つずつ)を追加するように依頼しました。そして研究の始めと終わりに、参加者は気分、元気、やる気、うつや不安の症状の心理的な評価を受けました。また参加者は、2週間にわたって毎晩、スマートフォンで果物や野菜の摂取量を報告しました。

 すると、三つ目のグループの人は、2週間にわたって受け取った果物と野菜をほとんど摂取(毎日3.7サービング)し、元気とやる気が高まり、心理的な幸福感が大きく改善しました。またこのグループの人は、新鮮な果物と野菜を調理せずにそのまま食べていました。ところが、二つ目のグループの人々は、蒸し焼きにしたり他の食事と混ざったりした調理済みの野菜を食べる傾向が強く、心理的にも三つ目のグループの人のような改善は認められませんでした。ちなみに、コントロールのグループは、毎日2.8サービングの果物と野菜を摂取していました。一方、どのグループにおいても、うつおよび不安の症状には改善が見られませんでした。

 この研究から、ほんの2週間、新鮮な果物と野菜の摂取を増やすことで、幸福感が改善することが示唆されました。また、果物や野菜の摂取を増やすためには、単にメッセージや商品券で推奨するのではなく、直接、新鮮な果物や野菜を提供しなければならないようです。

 コナー博士は学内ニュースに対して、「寮に住む人、託児所の子供、病院の患者さん、職場の従業員には、新鮮な果物や野菜を定期的に提供することができます。うつ病などの病気の人への、新鮮な農産物の影響は、さらなる研究が必要です。これらが変化するには、もっと時間がかかるのかもしれません」と述べています。

参考URL:http://www.otago.ac.nz/news/news/otago635014.html

 ただ、この研究では、メカニズムまでは解明されませんでした。研究者らは、微量栄養素のビタミンCとカロチノイドの血中濃度を測定しましたが、どちらも心理的な変化に関与していませんでした。博士らは「一つの微量栄養素が心の病の予防に大きな役割を果たすとは考えにくい」ことから「広範囲のビタミン、ミネラルや抗酸化物質の累積的な影響によって、より良い心の健康が生じる可能性がある」と考察しています。また、今後の研究では「ポリフェノールのような血管の健康を高める食品による脳血流の改善や、食品による腸内細菌叢(さいきんそう)の変化などを調査すべきだ」と考えています。

 最後に、果物は太ると誤解している方がいるかもしれませんが、ハーバード大学公衆衛生大学院の研究者らの15年の医学雑誌「PLOS Medicine」の報告では、果物やデンプン含有量の少ない野菜を多く取ると健康的な体重の維持につながることが示されています。

参考URL:http://journals.plos.org/plosmedicine/article?id=10.1371/journal.pmed.1001878

 心と体の健康のために、今日から新鮮な果物と野菜を、ぜひ「そのまま」、モリモリと食べてください!

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大西睦子

大西睦子

内科医

おおにし・むつこ 内科医師、米国ボストン在住、医学博士。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部付属病院血液・腫瘍内科にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。08年4月から13年12月末まで、ハーバード大学で、肥満や老化などに関する研究に従事。ハーバード大学学部長賞を2度授与。現在、星槎グループ医療・教育未来創生研究所ボストン支部の研究員として、日米共同研究を進めている。著書に、「カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側」(ダイヤモンド社)、「『カロリーゼロ』はかえって太る!」(講談社+α新書)、「健康でいたければ『それ』は食べるな」(朝日新聞出版)。

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