病気を知るER Dr.の救急よもやま話

子どもからお年寄りまで 熱中症の年代別注意点

志賀隆 / 国際医療福祉大学准教授/同大学三田病院救急部長

 夏の朝9時、佐藤さん(70歳女性)は、散歩中に足に力が入らなくなり、コンビニエンスストアの前で動けなくなってしまいました。お店の人が救急車を要請し救急外来に搬送されました。佐藤さんは頭痛と吐き気を訴えています。

 佐藤さんは救急外来で医師の診察を受けました。そして、外気温、運動中の出来事、症状から熱中症の診断となり点滴などの治療をうけました。夏の運動といえばやはり熱中症が心配ですよね。ということで、今回は暑い季節に向けて熱中症についてお話ししたいと思います。

熱中症が起こる3要素

 夏だから誰でも熱中症になるというわけではありません。では、熱中症になりやすいのは、どのようなことがそろった時でしょうか?

1.環境(気温・湿度・風速・日射輻射<ふくしゃ>などが関係)

2.からだ(高齢者、精神や心臓の病気を持つ方、普段の活動度の低い方にリスク)

3.行動(屋外でのスポーツ、運動や労働など)

 この三つの要素のバランスによって起きるものと考えるのがいいでしょう(参考1)。

 夏を中心に心配な熱中症は、体内における熱の産出と体外への熱の放散のバランスが崩れて、体温が上昇してしまう状態を指します。そして、夏以外でも気温が高ければ起きます。

 それではどのようなときに、熱中症を疑うべきでしょうか? 具体的には、暑い環境にいる、もしくはいた後に、以下のような症状が表れている場合、熱中症の可能性を考えます。

熱中症の症状とは

 めまい▽だるさ▽頭痛▽吐き気・嘔吐(おうと)▽失神(立ちくらみ)▽生あくび▽大量の発汗▽強い口渇感▽筋肉痛▽筋肉の硬直(こむら返り)▽意識障害▽けいれん▽高体温(深部体温 >40℃)--など(参考1)。

 前述のように暑い環境にいたあとに、これらの症状を呈しており、なおかつ感染など他の原因疾患が考えられないという場合には、熱中症と診断します。

どんなことが熱中症のリスクになるの?

 熱中症は、若年や中壮年の人が体を動かしているときになる「労作時熱中症」と、高齢者が暑い環境にいることでおきる「非労作時熱中症」に大別されます。平日にオフィスワークをしているみなさんは、普段あまり運動をしていないのに休日の炎暑の日中にサッカー・野球などのスポーツをしたといった時に注意が必要です。前述の環境、からだ、行動の要素が見事にそろうため、熱中症で調子が悪くなることが多いのです。こうした労作時熱中症は、「行動」の面から男性に多く起こります。

 熱中症が起こりやすい時間帯としては、正午ごろと午後3時前後に二つのピークがあるとされています。そのため、スポーツを行う場合は昼間の時間帯を避け、朝夕など比較的涼しい時間帯に実施しましょう。

▽高齢者の場合は?

 毎年夏になると、熱中症による高齢者の死亡例の報道があります。高齢化と温暖化に伴い、日本で増加している出来事です。

 高齢者の熱中症の多くは「非労作時熱中症」です。典型的には、気温の上昇とともにエアコンがない、またはあってもつけていない自宅内で重度の熱中症を発症するお年寄りが増えます。非労作時熱中症とは、文字通り「運動や仕事など」がなくても日常生活の中で徐々に進行する熱中症です。そして、労作時熱中症よりも重症化しやすいという特徴があります。室内で発症する非労作時熱中症は、高齢の1人暮らしの人に多く、精神疾患や高血圧、糖尿病、認知症などの持病があると重症化しやすいと報告されています(参考2)。

 認知症患者さんのご家族は、このタイプの熱中症があること、気温の上昇とともに注意が必要なことを知っておいてください。

▽子どもの場合は?

 子どもの難しいところは、コミュニケーションです。「調子が悪い」「普段と違う」ということを大人のように自ら伝えられないことが多いからです。そのため、家族や大人が子どもの様子を観察し、「普段と違うのでは?」と気付けることが大切です。

 気温が上昇した時に「いつもはとっても元気なのにだるそう」「頭が痛いといって機嫌が悪い」「食欲がなくてだるそう」などというサインを子どもが出していたら、家族や大人が見つけてあげてください。なかでも、水分が取れない、歩けないなど状態がより悪い場合には、医療機関を受診する必要があるでしょう。医療関係者も、ぐったりしているお子さんが来院した場合には熱中症を疑い、鑑別診断にあげることが肝要になります。

予防で大切なことは?

 熱中症は重症化してしまうと入院なども必要になるため、高温多湿な環境で働いている人は日ごろから予防を徹底することが大切です。労作時熱中症の特徴は、今まで元気だった健康な人が、気温の高い外気にさらされることで短時間のうちに発症するということです。中壮年の場合は仕事中の発症頻度が高く、屋外の工事現場などで作業している人や、分厚い衣服を着て訓練を行う消防士などに多くみられます。

 以下に、仕事中の熱中症予防のためにできることをあげます。

●涼しい服装をする

●体調を整える、体調の悪いときに無理しない

●炎天下での行動を避ける、慣れない運動などを控える

●休憩の頻度を増やす

●こまめに水分と電解質(ナトリウムなど)を補給する

●夜しっかりと寝て疲労回復に努める

●飲酒は疲労・脱水の原因となるため控えめに

どんな飲みものがいいの?

 熱中症の対策の飲み物としては、経口補水液やスポーツドリンクなど、水分と電解質の補給に適した市販飲料を取ることをおすすめします(参考3、4)。スポーツドリンクは糖分が多すぎるのではないかという意見もありますが、普段健康な人であれば、私はあまり気にしなくていいと考えています。こまめに水分をとって脱水にならないようにすることを重視してください。

 また、高齢者は自身の脱水に気づきにくい傾向があり、さらに、水分補給の際、塩分が少ない「お茶」を飲む傾向があります。そのため、水分を取っているつもりでも、熱中症対策に必要な電解質が十分に補えているとは限りません。

 いかがでしょうか?

 「環境」についてはコントロールできませんが、「からだ」「行動」についてはコントロール可能です。これからの気温が上がる季節に向けて、良い対策をして楽しい夏を過ごしていただければと思います。

   ×   ×   ×

(参考)

1)厚生労働省のガイドライン「熱中症診療ガイドライン2015」

2)熱中症のリスクファクターについて検証した論文:Zhangら Risk factors of direct heat-related hospital admissions during the 2009 heatwave in Adelaide, Australia: a matched case–control study  BMJ Open. 2016 Jun 2;6(6)

3)運動中の飲み物について検討した論文:von DuvillardらSports drinks, exercise training, and competition. Curr Sports Med Rep. 2008;7:202-8.

4)サッカー選手の運動時の水分摂取(水 VS スポーツドリンク)の効果を検証した論文:Shaleshら The effect of sport drink on some functional variables for soccer players  International Journal of Advanced Research (2014), Volume 2, Issue 2, 868-875

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志賀隆

志賀隆

国際医療福祉大学准教授/同大学三田病院救急部長

しが・たかし 1975年、埼玉県生まれ。2001年、千葉大学医学部卒業。学生時代より総合診療・救急を志し、米国メイヨー・クリニックでの救急研修を経てハーバード大学マサチューセッツ総合病院で指導医を務めた救急医療のスペシャリスト。東京ベイ・浦安市川医療センター救急科部長などを経て17年7月から国際医療福祉大学医学部救急医学講座准教授/同大学三田病院救急部長。安全な救急医療体制の構築、国際競争力を産み出す人材育成、ヘルスリテラシーの向上を重視し、日々活動している。「考えるER」(シービーアール、共著)、「実践 シミュレーション教育」(メディカルサイエンスインターナショナル、監修・共著)、「医師人生は初期研修で決まる!って知ってた?」(メディカルサイエンス)など、救急や医学教育関連の著書・論文多数。

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