不正入試に関する記者会見で陳謝する東京医科大の行岡哲男常務理事(左)と宮沢啓介学長職務代理=東京都内のホテルで2018年8月7日、長谷川直亮撮影
不正入試に関する記者会見で陳謝する東京医科大の行岡哲男常務理事(左)と宮沢啓介学長職務代理=東京都内のホテルで2018年8月7日、長谷川直亮撮影

医療プレミア無難に生きる方法論

東京医科大だけじゃない?医療現場の“女性外し”

石蔵文信 / 大阪大学招へい教授

 東京医大を文部科学省の「私立大学研究ブランディング事業」対象校に選ぶ見返りに、息子を裏口入学させてもらったとして、同省の前科学技術・学術政策局長が受託収賄容疑で東京地検特捜部に逮捕された。続いて、同大医学部医学科の入試で女子合格者数が不正に抑えられていたことも判明し、こちらも騒ぎになっている。汚職をきっかけに、医療教育をめぐるさまざまな問題が表面化した感がある。

背景に大学経営の厳しさ?

 裏口入学はかなり昔の話と思っていたので、今も存在していたことに正直驚いている。いろいろ考えると、私はその背景に、医学部経営の厳しさがあったのではないかと思う。

 私大ではその昔、入試に合格していったん支払った入学金と授業料などの諸経費は、入学を辞退しても返してもらえなかった。しかし消費者契約法の施行を受けて返還を求める訴訟があり、最高裁は2006年、「入学金は返還不要、授業料や施設費は、原則3月31日までに入学辞退を申し入れれば全額返還すべきだ」という判決を出し、確定した。

東京医科大=東京都新宿区で2018年7月4日、手塚耕一郎撮影
東京医科大=東京都新宿区で2018年7月4日、手塚耕一郎撮影

 私立大医学部の入学金はかなりの高額だが、授業料はそれ以上(年500万円前後)なので、受験生とその親にとってはかなりありがたい話である。一方の大学側にはかなりの痛手である。

 私学では過去、補欠合格者に対して寄付金納付をちらつかせ、合否を決めるなどの“グレーな”運用もあったと聞いている。これも、入学前に寄付金を強要してはならないとの文科省の指導で姿を消し、収入減につながった。

 実際、7日に記者会見した内部調査委員会は、得点操作=裏口入学の背景について、「同窓会から子弟の入学者数を増やすようプレッシャーがあり、(大学の)財政上、一定の割合を占める同窓生からの寄付を期待して依頼に応じざるを得なかった」と説明している。

東京医科大学入試不正について記者会見する内部調査委員会の中井憲治弁護士(右)と植松祐二弁護士=東京都内のホテルで2018年8月7日
東京医科大学入試不正について記者会見する内部調査委員会の中井憲治弁護士(右)と植松祐二弁護士=東京都内のホテルで2018年8月7日

 大学にとってみれば、納付金や寄付金収入が減ったうえに、消費増税が経営を圧迫している現実もある。学費と医療費に消費税はかからないのに、医薬品や医療機器、設備導入には消費税が課税されるからだ。消費税が増税されると、特に医科系大学は出費が増える。このような背景があって経営が逼迫(ひっぱく)し、補助金を欲しがったのではないか、と考えてしまうのだ。

「がむしゃらに働く男性医師」を求める本音

 さらに東京医大は、過去の入試で男子受験者に加点する一方、女子と多浪生を一律減点するなど不正な得点操作を行い、女子合格者数を抑えていたことも発覚して「女性差別」と強く非難されている。

 近年、女性の医学部進学人気は高く、多くの国公立大学は女子学生の割合が40%近い。そのため女性医師の割合も徐々に増え、今は医師の5人に1人が女性という時代だ。

入試不正の報告のために文科省を訪れた東京医科大の高田治教育部次長(左)と市原克彦総務部長=同省で2018年8月7日、梅村直承撮影
入試不正の報告のために文科省を訪れた東京医科大の高田治教育部次長(左)と市原克彦総務部長=同省で2018年8月7日、梅村直承撮影

 一般に医師は医学部を卒業すると、その大学の付属病院や系列病院に就職することが多い。女性医師が増えると結婚、妊娠、出産で医師が不足することが心配されるため、大学が男子学生を多く合格させたいと考えたのではないか、と指摘されている。

 これは東京医大に限った話ではなさそうだ。女子の合格率が低い他の大学も、何らかの操作をしているのではないかと疑いの目を向けられている。このように世間では理不尽な「女性差別」に対する抗議の声が上がっているが、意外にも医学界では「なかば当然」のように受け止められている。

 私自身は、受験生全員に公平であるべき入試段階で、性別による不正操作が行われたことは大問題だと考えている。本人が知らぬまま性で差別されたのだから、どう考えても不公平だろう。

 だが、大学経営側が「産休もなく、がむしゃらに働いてくれる男性医師の方がありがたい」という気持ちを持っていることも、また確かだ。

 というのも、忙しい大企業の総合職以上に医師の仕事はハードで、夜間の緊急呼び出しが多く、急に休めないことが多いからである。そのため、結婚や出産を考える女性医師や女子学生には急患で呼び出されないような診療科を選ぶ傾向があり、外科系や循環器、救急部門を避けがちだ。

東京医科大入試の内部資料。加点されているのがわかる(画像の一部を加工しています)
東京医科大入試の内部資料。加点されているのがわかる(画像の一部を加工しています)

 女性医師が増えるということは男性医師が減ることでもあり、厳しい職場環境の診療科を選ぶ男子学生が減って、医療現場の質を維持するのが厳しくなっている現実がある。女性に優しい職場づくりをする病院もあるが、男性医師に無理を強いている場合が多く、男性医師の不満は大きい。

夫が女性医師を支えれば質の高い仕事を続けられる

 諸外国はどうなのか。欧州の多くの国ではすでに女性医師の方が多い。経済協力開発機構(OECD)加盟36カ国の女性医師割合は平均45%で、半分に迫ろうとしている。米国は約35%だ。断然低いのが韓国と日本で、女性医師割合は約20%。多くの国は女性医師が多くても特に大きな問題とはなっていない。では何が違うのだろうか。

 医者の数が足りないとの指摘もあるが、日本の人口1000人当たりの医師数は2.4人で、欧州よりは少ないものの、英国の2.8人、米国の2.6人と比べて大きな差はない。それよりも医療体制の問題が大きいようだ。

 その一つは、日本の病院が採用する主治医制。海外も主治医制が多いが、複数主治医を置いて、緊急時に必ずしも主治医を呼び出さなくてもよい体制を取っている。日本でも複数主治医制の病院が増えてきたが、患者の容体が急変したら夜中でも主治医が呼び出されることが多い。

東京医科大学の記者会見に詰めかけた報道陣=東京都内のホテルで2018年8月7日、長谷川直亮撮影
東京医科大学の記者会見に詰めかけた報道陣=東京都内のホテルで2018年8月7日、長谷川直亮撮影

 私が留学していた米国の病院では、医師は午前8時に出勤し、午後5時には当直医以外はほとんどが帰宅する。症例の検討会やカンファレンス、会議もすべて就業時間内に行われる。患者への説明も就業時間内に行う。たとえ、夜中に患者の容体が急変しても当直医が対応し、主治医がかけつけることはあまりなかったと記憶している。

 一見薄情に見えるかもしれないが、主治医と当直医の医療レベルがほぼ同じで、主治医も患者への対応を当直医に申し送っているので、問題ないという考え方だ。当然女性医師も定期的に当直や救急待機が回ってくるが、予定がわかっているので、子供の世話などはパートナーに頼める。たまには自分の両親に頼むこともあるようだが、女性医師が当直中、基本的にはパートナー(夫)が家事や育児を分担する。

 2018月3月の記事「“超優秀”女性医師にも「働き方改革」が必要だ」で紹介したが、女性医師の方が男性医師より優れているというデータがある。だから、医療レベルを落とさないで、女性医師が結婚・妊娠・出産後も同様に働き続ける方法を考えた方が、女性医師抑制よりも建設的だ。そのためには第一に女性医師のパートナーのサポートが重要だろう。

 そこを踏まえたうえで、主治医を頼る患者の意識を変え、時間外は主治医ではない当直医師が対応する体制を取ることも必要なのではないかと思う。

 医療現場だけでなく、あらゆる職場で女性が働きやすくなることは、男性の過重労働を防ぐことにもつながる。働き方改革が進むなか、特に男性はこの問題と真剣に向き合ってみてほしい。

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石蔵文信

石蔵文信

大阪大学招へい教授

いしくら・ふみのぶ 1955年京都生まれ。三重大学医学部卒業後、国立循環器病センター医師、大阪厚生年金病院内科医長、大阪警察病院循環器科医長、米国メイヨー・クリニック・リサーチフェロー、大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻准教授などを経て、2013年4月から17年3月まで大阪樟蔭女子大学教授、17年4月から大阪大学人間科学研究科未来共創センター招へい教授。循環器内科が専門だが、早くから心療内科の領域も手がけ、特に中高年のメンタルケア、うつ病治療に積極的に取り組む。01年には全国でも先駆けとなる「男性更年期外来」を大阪市内で開設、性機能障害の治療も専門的に行う(眼科イシクラクリニック)。夫の言動への不平や不満がストレスとなって妻の体に不調が生じる状態を「夫源病」と命名し、話題を呼ぶ。また60歳を過ぎて初めて包丁を持つ男性のための「男のええ加減料理」の提唱、自転車をこいで発電しエネルギー源とする可能性を探る「日本原始力発電所協会」の設立など、ジャンルを超えたユニークな活動で知られる。「妻の病気の9割は夫がつくる」「なぜ妻は、夫のやることなすこと気に食わないのか エイリアン妻と共生するための15の戦略」など著書多数。

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