高齢者に冷たい「効率至上主義」と社会の荒廃

井上智洋・駒澤大学経済学部准教授
公園で清掃の仕事をする人たち=東京都江東区で2023年2月17日、和田大典撮影
公園で清掃の仕事をする人たち=東京都江東区で2023年2月17日、和田大典撮影

 社会保障費の負担が増すなかで高齢者の存在に矛先を向ける風潮がある。

 このような考え方はなぜ生まれるのか。経済学者の井上智洋・駒澤大学経済学部准教授に聞いた。

 ◇ ◇

 ――「高齢者が若者の負担になっている」という考え方があります。

 井上氏 よく1人の高齢者を何人かの現役世代で支えている図がある。高齢者1人あたりの現役世代の人数がどんどん少なくなり、将来は大変だというイメージがある。

 図自体は正しいが、見過ごされていることがある。AIやロボットのような技術の進歩だ。

 50年前と比べてみればすぐにわかる。高齢者1人あたりの現役世代の数は今よりずっと多かったが、50年前にくらべて生活は明らかに豊かになっている。

 日本が他の先進国並みに技術が進歩していくのであれば、高齢者が増えるスピードを補うことは十分可能だ。高齢者を支える人が足りない分、AIやロボットも立って支えているイメージで考えたほうがいい。

 「高齢者が増えて現役世代の負担が増える」という懸念ばかり言われるが、AIが仕事を奪って大量失業が発生し、現役世代もふくめて国民全員が年金生活者になる、つまりベーシックインカムの時代が来るかもしれない。

ひろがる「ネオリベ」

 ――若者の不満自体には根拠があるのではないでしょうか。

 ◆いわゆる「失われた30年」にはなにより普通の労働者の賃金が上がらなかった。不満は理解できるが、すべてを高齢者のせいにするのは間違っている。

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駒澤大学経済学部准教授

 慶応義塾大学環境情報学部卒業、早稲田大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。博士(経済学)。専門はマクロ経済学、貨幣経済理論、成長理論。『人工知能と経済の未来』(文春新書)、『ヘリコプターマネー』(日本経済新聞出版)、『純粋機械化経済』(日本経済新聞出版)、『AI時代の新・ベーシックインカム論』(光文社新書)、『MMT』(講談社選書メチエ)、『「現金給付」の経済学』(NHK出版新書)など。近著に『メタバースと経済の未来』(文春新書)。