
特集
学術会議任命拒否
日本学術会議が推薦した新会員候補6人を菅首相が任命しなかった。極めて異例の事態の背景や問題点を追います。
- ピックアップ
- 新着記事
- 基礎からわかる
-
任命拒否の撤回求める声明決定へ 学術会議総会始まる
4/21 12:01 -
学術会議「任命拒否撤回を」 「戦時中のような日本」危機感 97歳黒い雨研究者 6万人署名
4/20 06:26 -
学術会議、6人任命拒否 97歳元会員、抗議の署名 6万人超、内閣府に提出
4/20 02:00 -
「任命拒否撤回を」 97歳元学術会議会員、6万2000人署名提出
4/19 20:22 -
井上科技相「自民の意見、尊重するよう要請」 学術会議改革巡り
4/16 17:36 -
学術会議「現行形態が望ましい」 井上担当相に改革素案を提出
4/7 20:58 -
「任命拒否」5人参加 学術会議、連携会員で
4/7 02:01 -
「任命拒否」5人参加 学術会議、連携会員で 参加希望しなかった加藤陽子・東大教授の話
4/7 02:01
政府から独立した立場で政策提言をする科学者の代表機関「日本学術会議」が新会員として推薦した候補者105人のうち、6人を菅義偉首相が任命しなかったことが明らかになった。「学者の国会」と呼ばれ、高い独立性が保たれる学術会議の推薦者を首相が任命しなかったのは、1949年の会議創設以来、極めて異例の事態。

推薦されながら任命されなかったのは、小沢隆一・東京慈恵会医科大教授(憲法学)▽岡田正則・早稲田大教授(行政法学)▽松宮孝明・立命館大教授(刑事法学)▽加藤陽子・東京大教授(日本近代史)▽宇野重規・東京大教授(政治学)▽芦名定道・京都大教授(哲学)――の人文・社会科学系の6人。安全保障法制や「共謀罪」創設など、安倍晋三前政権の重要法案について批判的な意見を述べたという共通点がある。
ことば:日本学術会議
1949年に設立された内閣府の特別機関。理工学、生命科学、人文社会科学などの約87万人の研究者を代表し、政府への政策提言や海外の学術団体との連携などが役割。30の学術分野に分かれ、優れた業績のある科学者から選出される210人の会員と約2000人の連携会員が実務を担う。拒否された5人とインタビュー
氏名 | 所属(専門) | インタビュー&コメント |
---|---|---|
小沢隆一教授 | 東京慈恵会医科大(憲法学) | 独裁に向かう危惧を感じる |
岡田正則教授 | 早稲田大(行政法学) | 候補名を挙げる指名=推薦 |
松宮孝明教授 | 立命館大法務研究科(刑事法学) | 学者と学術会議なめている |
加藤陽子教授 | 東京大(日本近代史) | 前例ない決定、なぜしたか |
宇野重規教授 | 東京大(政治学) | 日本の民主主義信じている |
何が問題か
菅首相が任命をしなかった6人はいずれも人文・社会科学の専門家だ。安全保障法制や「共謀罪」創設など、安倍前政権の重要法案について批判的な意見を述べたという共通点がある。
過去の発言に基づいて意に沿わない学者を人事で排除する意図があったとすれば、憲法23条が保障する「学問の自由」を侵害しかねない。
学術会議は、優れた研究や業績のある科学者で構成される。全国87万人の研究者の代表機関であり、「学者の国会」とも呼ばれる。活動費は公費で賄われるが、日本学術会議法にその独立性が明記されている。
会員を改選する際は、学術会議が候補を選び、推薦に基づいて首相が任命するというルールが定められている。政府は従来、改選時には推薦の通りに任命してきた。
これは、学問の自由と自治を尊重するという思想に基づく。選考方法が選挙制から推薦制に変わった83年には、国会で学術会議の独立性について問われ、大臣は「任命行為は形式的なもので、推薦された者をそのまま任命する」と答弁した。
先の戦争では、多くの科学者が政府に協力させられた。軍部が湯川秀樹ら物理学者に原爆開発を命じたことは広く知られる。思想統制を進める上で障害となる学者は排除した。京都大の法学者が弾圧された滝川事件や、「天皇機関説」を唱える学者が不敬罪で告発された事件がその典型だ。
こうした反省に立って、学術会議は作られた。あらゆる分野の専門家が立場を超えて集い、政府への勧告などを行ってきた。政府が今後、人事権を突破口に自然科学へも介入を始める可能性は否定できない。国立大の学長人事にも影響が及びかねないとの懸念が出ている。
理由を語らぬ政府
菅首相は、記者会見や衆参予算委において「人事に関することなのでお答えは差し控える」と繰り返し発言し、明確な説明を拒んでいる。また、首相は、官房長官当時から会員選出が限定的なメンバーで行われており「閉鎖的で既得権益になっている」との懸念を持っていたと強調した。ただ、6人の名前を以前から知っていたかを問われると「(東大教授の)加藤陽子先生以外の方は承知していなかった」と答弁。加藤氏以外の5人の著書なども読んだことがないと明かした。学術会議は任命要望
日本学術会議は、任命拒否の理由の説明と6人の任命を求める要望書を提出している。10月16日には菅義偉首相と梶田隆章会長が首相官邸で会談したが、首相は明確な回答をしなかった。一方、井上信治・科学技術担当相は11月26日、学術会議のあり方改革を巡り、「国の機関からの切り離しも検討すべきだ」と発言し、検討結果の年内報告を求めている。任命拒否問題を棚上げしたまま見直しを急ぐ姿勢に、会員らは「強引」「拙速」と困惑を強めている。

任命拒否巡りデマ次々
日本学術会議を巡っては、多くの誤った情報や不正確な情報がSNSを通して拡散されている。なかには、フジテレビの平井文夫上席解説委員やジャーナリストの桜井よしこ氏が事実を誤認して発言したものあった。
話題のキーワード
連載
新着記事
-
任命拒否の撤回求める声明決定へ 学術会議総会始まる
4/21 12:01 755文字日本学術会議(梶田隆章会長)の会員が参加する総会が21日午前に始まった。23日までの会期中、組織改革の方針についてまとめた報告書案を審議。また、菅義偉首相が明確な理由の説明なく会員候補6人の任命を拒否していることに対し、「首相は推薦に基づき任命することが法により義務づけられている」として、速やかに
-
学術会議「任命拒否撤回を」 「戦時中のような日本」危機感 97歳黒い雨研究者 6万人署名
4/20 06:26 1250文字日本学術会議の会員候補6人の任命を菅義偉首相が拒否した問題で、元学術会議会員で元気象庁気象研究所室長の増田善信さん(97)が19日、6人の任命と、政府による学術会議改革の要請撤回を求め、約6万2000人分の署名を内閣府に提出した。科学者が戦時中に動員された過去の教訓から今回の問題に危機感を抱き、オ
-
学術会議、6人任命拒否 97歳元会員、抗議の署名 6万人超、内閣府に提出
4/20 02:00 1198文字日本学術会議の会員候補6人の任命を菅義偉首相が拒否した問題で、元学術会議会員で元気象庁気象研究所室長の増田善信さん(97)が19日、6人の任命と、政府による学術会議改革の要請撤回を求め、約6万2000人分の署名を内閣府に提出した。科学者が戦時中に動員された過去の教訓から今回の問題に危機感を抱き、オ
-
「任命拒否撤回を」 97歳元学術会議会員、6万2000人署名提出
4/19 20:22 1250文字日本学術会議の会員候補6人の任命を菅義偉首相が拒否した問題で、元学術会議会員で元気象庁気象研究所室長の増田善信さん(97)が19日、6人の任命と、政府による学術会議改革の要請撤回を求め、約6万2000人分の署名を内閣府に提出した。科学者が戦時中に動員された過去の教訓から今回の問題に危機感を抱き、オ
-
井上科技相「自民の意見、尊重するよう要請」 学術会議改革巡り
4/16 17:36 534文字日本学術会議のあり方を検討する自民党プロジェクトチーム(PT)座長の塩谷立・元文部科学相らが16日、井上信治・科学技術担当相と会談した。学術会議がまとめようとしている組織改革の報告書について「現状維持のように見える。改革するつもりがあるのか」などと批判的な意見を伝え、井上氏は「自民党の意見を学術会
-
-
学術会議「現行形態が望ましい」 井上担当相に改革素案を提出
4/7 20:58 854文字日本学術会議の梶田隆章会長は7日、内閣府で井上信治・科学技術担当相と会談し、内部で検討している組織改革報告書の素案を提出した。素案では焦点の組織形態の見直しについて、内閣府の一機関である現行の形態が最も望ましいとする一方、もし政府から独立する場合は特殊法人化することも選択肢として示し、引き続き検討
-
「任命拒否」5人参加 学術会議、連携会員で
4/7 02:01 913文字日本学術会議の会員候補として推薦されながら、菅義偉首相に任命されなかった6人の研究者のうち、5人が学術会議の「連携会員」「特任連携会員」として活動に参加することになった。梶田隆章会長ら執行部は残る1人の加藤陽子・東京大教授(歴史学)にも特任連携会員への就任を打診したが、任命拒否問題が解決していない
-
「任命拒否」5人参加 学術会議、連携会員で 参加希望しなかった加藤陽子・東大教授の話
4/7 02:01 444文字◇菅氏の決定、歴史に刻む 特任連携会員になることを希望しなかった加藤陽子・東京大教授は、毎日新聞の取材に対し以下のコメントを寄せた。 人文社会系の第1部の会員の方々とともに、学術会議として望ましい運営をお手伝いするのは、特任連携会員になることのメリットであり、また学術第一に考えれば、そのようなかた
-
学術会議、任命拒否の5人は連携会員に 加藤陽子氏は希望せず
4/6 18:24 1365文字日本学術会議の会員候補として推薦されながら、菅義偉首相に任命されなかった6人の研究者のうち、5人が学術会議の「連携会員」「特任連携会員」として活動に参加することになった。梶田隆章会長ら執行部は残る1人の加藤陽子・東京大教授(歴史学)にも特任連携会員への就任を打診したが、任命拒否問題が解決していない
-
学術会議、組織改革案は4月に 梶田会長が井上担当相と面会
3/23 19:21 473文字日本学術会議の梶田隆章会長は23日、井上信治・科学技術担当相と会談し、4月8日に臨時の幹事会を開いて学術会議の組織改革について素案をまとめる方針を伝えた。今月中に素案を井上氏へ示す予定だったが、会員から菅義偉首相による任命拒否問題の解決を優先すべきだとの声があり、間に合わなかったという。井上氏は「
-
-
学術会議にお墨付き、どこへ 15年有識者報告「国機関ふさわしい」 元会長「独立要求は約束の否定」
3/5 12:37 2562文字日本学術会議の推薦会員候補6人の任命拒否問題に関し、自民党のプロジェクトチーム(PT)は学術会議を内閣府の「特別の機関」から外し、独立させるよう政府に求めた。ところが、安倍政権時代の2015年に内閣府の有識者会議が取りまとめた報告書は「期待される機能に照らしてふさわしい」として、国の機関としての組
-
学術会議・梶田会長「任命問題の対応に苦慮」 井上担当相と面会
2/27 19:21 759文字日本学術会議の梶田隆章会長は27日、井上信治・科学技術担当相と会談し、組織のあり方改革の方向性を3月下旬にまとめる方針を伝えた。会談後に報道陣の取材に応じた井上氏によると、梶田会長は「会員からは『まずは任命(拒否)問題を解決してもらいたい』という意見が多く、苦慮している」と話したという。梶田会長は
-
学術会議6候補任命求める声明 山陰の研究者ら175人 /島根
2/5 07:15 296文字日本学術会議が推薦した会員候補6人の任命を菅義偉首相が拒否した問題で、山陰両県の研究者らが4日、松江市内で記者会見し、6人の任命を求める声明文を発表した。「会員選定に対する政府による干渉は学問の自由に対する侵害」とし、拒否の説明も求めた。大学のほか在野の地域史研究者らを含め175人が賛同した。 学
-
拒否6人の任命、学術会議の要求に応じず 加藤官房長官「手続き終了」
1/29 13:49 240文字加藤勝信官房長官は29日の記者会見で、日本学術会議の幹事会が、菅義偉首相が任命を拒否した会員候補6人を4月の総会までに任命することを首相に求める声明を全会一致で決定したことについて、「一連の手続きは終了している」と述べ、要望に応じない考えを改めて示した。 加藤氏はまた、拒否した理由の説明と6人の任
-
首相拒否の会員候補6人、4月総会までに任命を 日本学術会議が声明提出へ
1/28 19:11 717文字日本学術会議は28日に開いた幹事会で、菅義偉首相が任命を拒否した会員候補6人について、4月の総会までに任命することを菅首相に求める声明を全会一致で決定した。近く井上信治・科学技術担当相に提出する。4月には学術会議の今後のあり方改革の方針を議論する総会が予定されており、梶田隆章会長は幹事会後の記者会
-
-
野党「コロナ後手」「政治とカネ」に照準 次期衆院選にらみ攻勢 支持拡大なるか
1/18 20:25 1449文字立憲民主党など野党は、18日召集の通常国会で、菅政権による新型コロナウイルス対策の遅れや「政治とカネ」を巡る問題に照準を合わせている。菅義偉首相の指導力不足や自民党政権の長期化に起因するとして、「政治の転換」を訴える。秋までに実施される次期衆院選をにらみ、政権への対決姿勢を強める方針だ。 「感染症
-
「菅語」を考える
緊急事態なのに「あいさつ」 響かない首相会見 青木理さんが考えたメディアの責任
1/18 07:30イチオシ 2962文字菅義偉首相の言葉が相変わらず響いてこない。新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからず、首都圏などに2度目の緊急事態宣言も発令された。その記者会見で菅首相は「全力で乗り越える」などと言うのだが、具体的な道筋は示されないのだ。鋭い分析で日本社会を見つめてきたジャーナリストの青木理さんは「言葉なき政
-
通常国会、18日召集 焦点は新型コロナ対策 野党「政治とカネ」で徹底追及
1/17 18:14 1321文字第204通常国会が18日召集される。緊急事態宣言下で始まる初の国会で、新型コロナウイルス対策が最大の焦点だ。政府・与党は時短営業に応じない事業者への罰則を設ける特別措置法改正案や、2020年度第3次補正予算案、21年度当初予算案の早期成立を目指す。野党は政府対応の「後手」批判とともに、吉川貴盛元農
-
「菅降ろし」発言が波紋 自民・下村氏に問われる調整力と政局センス
1/11 11:00深掘り 1633文字自民党の下村博文政調会長が発信力強化に腐心している。プロジェクトチーム(PT)を次々と発足させて政策通をアピールし、求心力を高める狙いだ。「ポスト菅」を見据え最大派閥・細田派の総裁候補を狙うが、「菅降ろし」と受け取られかねない発言が波紋を呼んだ。調整力が課題とされる中、本格化する新型コロナウイルス
-
社説
日本政治 この1年 異論を封じる手法の限界
12/31 02:00注目の連載 1643文字新型コロナウイルスの感染拡大に世界中が揺れた1年が終わる。 国内では、7年8カ月に及んだ安倍晋三前政権が幕を閉じ、菅義偉政権に交代した。 しかし、新型コロナへの対応では、前政権と同じように菅政権も後手に回っている。 最近の報道各社の世論調査では菅内閣の支持率は、発足当初に比べて軒並み急落している。
-