「消えた年金問題」を追及する長妻昭・民主党衆院議員と、経済評論家の勝間和代さんが、年金問題をテーマに対談した。毎日新聞と毎日jpで連載している「勝間和代のクロストーク」で繰り広げられた読者との議論を受けての顔合わせ。長妻議員は、年金問題の現状や政官システムが生み出す非効率、政権交代の意義などについて幅広く語り、勝間さんは金融機関に勤務した自身の体験を交えて国の管理の甘さを厳しく指摘した。対談の内容を4回に分けて掲載する。【まとめ・塚田健太】
◇パンドラの箱、まだある
--年金不信が払拭(ふっしょく)できないのはなぜだとお考えですか。
長妻 政府、与党の政治家、大臣の腹に年金の意味が落ちていない。年金は、国が独占的、責任を持って運営している。介護、健保、医療は地方自治体にも任せているのに、年金は国家が直接、実施しているのは、年金制度が国家そのものであり、国家の信頼に直結する最低限の砦(とりで)の制度だからだ。
国家の基礎は安全保障と社会保障の二つの保障。社会保障の代表格が年金。その信頼が揺らぐということはイコール国家への不信につながる。私は現在の年金不信は大げさでなく国家の危機と言っているが、今の総理や大臣は年金という一部門を何とかしましょうという意識しかない。
どうしたらいいのかだが、今の政府・与党のやり方では、早期の補償は進まない。重要なアプローチは今ある納付記録8億5000万件の紙台帳をコンピューターと照合してデータを正しくすること。するとこちらから加入者に「あなたの記録見つかりましたよ」と働きかけられる。もうひとつは今政府がやっている通り、記録を送って確認いただくこと。しかし、5000万件の宙に浮いた記録の持ち主がほぼ1050万人確定されたが、政府は抜けている記録そのものはお知らせしていない。
もうひとつ重要なのは、早期の補償には、「年金審判所」とでもいう考え方がある。今、総務省第三者委員会の委員の皆様にがんばっていただいて判断を積み重ねてもらっている。それを判例化し、最終的にはたとえば点数制度にして、この時期が抜けていたとか、旧姓で加入していたとか、複数の判断基準を定めて、それが一定以上当てはまれば、一律に認める。ただしうそを申告したことがばれたときは罰則的なものと返金してもらう。事務局の人、モノ、カネを大幅増強して、迅速に対応しなければならない。また、失業者の方が今多くおられるんで、紙台帳照合の仕事などについて、景気対策といわないまでも短期間で人を雇って、記録問題を片付ける。
勝間 三つあって、一つはこれが社会保障の基礎的な問題、最優先事項として解決すべきだとのコンセンサスができていない。2番目はデータのトレースが非常に甘い状態で行われているので、特に間違ったデータの復活をやらなくてはならないということ、三つめはそれでも全員救えるわけではないので、スコアリングの仕組みを作って、もっとシステマティックに救う仕組みを作らなくてはならないということ。
長妻 もう一つは責任追及だが、なぜ必要かというと今のようなプロセスをたどるときは税金が必要になる。現在、社保庁の職員は、一人も責任を取っていない、厳重注意も誰も受けていない、責任は取らないけど金だけくれ、こんな理屈では、国民の皆さんの怒りは収まらない。やはり金を出すことと裏表で責任追及をする。00年以降も年金記録は消えており、責任追及は再発防止にもつながる。
また、世間では「消えた年金」問題はある程度、実態解明できていると思っているかもしれないが、私に言わせればまだ登山の一合目ぐらい。たとえば無年金者が日本に118万人いる。日本は皆年金の国なのにこれだけ放ったらかしになっている。社保庁が認めただけでも、少ないんですが62人は社保庁のミス等で無年金になっている。無年金は、今までの「受給額が少ない」のとはぜんぜん違う話。数が多いのでサンプル調査として3000件にあたって事情を聞けば、どういうメカニズムでそういう風になったのかや、本当にミスで無年金になった人の割合が分かる。今までサンプル調査を紙台帳でもやらせて、ミスの割合が分かり、厚生年金では入力ミスが1.4%ということで、560万件のミスがあるというのが分かった。サンプル調査を多用して無年金者の全容も明らかにしていくべき。しかし、政府は人手がないと拒絶している。聞こえてくるのは「パンドラの箱が開く」という声。また「作られた無年金者」とでもいうべき問題が出て来はしないかと不安なのだろう。
さらに年金特別便が送られたんですが、これは2種類ある。ひとつは宙に浮いた5000万件に該当するであろう1030万人に送った年金名寄せ便で、記録の抜けている可能性が高い人に送られた。もうひとつは念のために送った年金全員便。こちらの返送状況を聞くと、そのうちの数百万人が間違ってると返送してきている。正しいと思われる人からこのような返事があったことは、想定していない別の問題があることを示唆している。
勝間 私が勤めていた金融機関は、記録が命なので、かなり精査する。預金が消えたら大変ですから、ミスを防ぐシステムを全部作り、ミスしても記録は見つかるようになっている。ばく大な年金保険料を管理する仕組み自身が問題だったのではないでしょうか。
長妻 内部資料によると昭和39年の時点で、厚生年金の記録93万件が“記録事故”となっているとある。でも、結局はお上意識というか、年金は保険料を払った人が領収書をきちっと管理し、「それは違うよ」といってくれたら対応するというマインドが政府側にあった。5000万件の記録も、一番驚いたのは現職の社保庁の課長がテレビの生放送に出演し「それは死んだ人の記録だ」と言ったこと。
勝間 そんなはずはありませんよね。
長妻 たぶん安倍晋三首相(当時)にもそういう報告を上げていた。それをうのみにして、裏を取れない政治の能力不足もあり、結局は「野党とマスコミが騒いでいるだけ」という認識にとどまり、安倍首相の「不安をあおるな」という発言につながった。
(その2「官僚はメリハリつけて、いい加減」につづく)
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