勝間和代のクロストーク

<宮本太郎×勝間和代>対談 終身雇用制度(その1)

2009年6月28日

 終身雇用制度について、宮本太郎・北海道大大学院教授(福祉政策論)と勝間さんとの対談の全文を3回に分けて、紹介します。毎日新聞と毎日jpで連載している「勝間和代のクロストーク」で繰り広げられた読者との議論を受けての顔合わせ。宮本教授は中大大学院法学研究科博士課程満期退学。ストックホルム大客員研究員、立命館大教授などを経て現職。政府の安心社会実現会議メンバーも務めています。 【まとめ・塚田健太、写真・津村豊和】01.jpg
 

--終身雇用制度についてどうお考えですか。
  
 宮本 日本はこれまで、社会保障支出をけちってきたにもかかわらず、相対的に安定した格差の少ない社会でした。理由の一つが終身雇用、もう一つは、建設とか流通業を中心に、会社をつぶさないためのさまざまな保護の規制があり、大企業であれ、中小零細企業であれ、その恩恵を受けてきたことです。社会保障頼みで格差を抑制するよりは、多少非効率でも、みんなが働ける条件があって、社会が安定していることは悪いことではありませんでした。
 
--安定した社会のために必要な制度だった。
 
 宮本 弊害もあります。一つは、雇用の提供が主に男性稼ぎ主に限定されている。だから、主婦の場合は、夫を通して会社に依存する構造の中にありました。一方、男性が万々歳だったかというと、必ずしもそうではなくて、会社組織の水に合った人は良かったが、自分の資質とかやりたい人生プランとは違うなと思っても、いったん会社にはまりこんだら、そこから離脱するのは大きなリスクがあるということ。うまく入れば生きる場になるが、違和感があれば逆に束縛になってしまいます。それから、最近顕著なことですが、正社員と非正社員の身分制社会を作り出してしまいました。これらの弊害をうまく改革していけないかというのが終身雇用に対する私の考えです。
 
 勝間 終身雇用の仕組みそのものは壊さない中での改革なんでしょうか。
 
 宮本 勝間さんのおっしゃっていることは、僕が勉強してきたスウェーデンモデルと似ています。スウェーデンは、非常に流動的な労働市場です。同一労働、同一賃金が、かなり実現されています。そうすると、生産性の低い、利潤率の低い企業でも、生産性の高い、利潤率の高い企業と同じ職種は同じ賃金になり、生産性の低い企業は、労働コストが利潤を上回ることすらあります。当然、経営難に陥るのですが、国は救わず、つぶしてしまいます。その代わり、職業訓練で、生産性の高いところに人を移し、完全雇用を達成します。日本なら、たとえばトヨタ自動車は労働組合の要求に応じて、利潤率の高さに見合った賃金を払わなければなりません。それに対してスウェーデンのボルボは、2次、3次下請けの中小企業と同じ労働コストで済んでしまい、その分、余剰が出ます。余剰を生かして国際競争力を高めてもらうのと、もう一つはこの余剰から一定の負担金をお支払いいただいて、それを福祉に生かしていく。ただ、残念ながらスウェーデンモデルは今、うまくいかなくなっています。つまり、生産性の高い部分があまり人を吸収してくれなくなっているのです。
 
 勝間 ITとかグローバリゼーションによって、企業が雇用を必要としなくなっていると考えられます。
 
 宮本 省人化が進んでいます。そうなると、そこに人を移していくといっても、限界が出てくる。スウェーデンはだんだん、80年代ぐらいからその現実に直面してきていて、公共部門で余剰労働力を吸収してきました。その結果、労働人口の3人に1人が公務員という社会ができてしまいました。
 
 勝間 ゆがみですよね。
 
 宮本 限界です。それでいっぱいいっぱいになってしまっていて、今、地方などでは、潜在的失業率が高まっていて、今までスウェーデンは一般にイメージされているのと違って、働かなくてはいけない社会でした。そうじゃないと、あんな大きな国家が維持できるはずがないのであって、国家はみんなが働ける条件を作ってきました。でも、今、先端部門に人を送り込むのが難しくなってきて、特に地方に過剰な労働力が生まれてきています。その結果、福祉に頼るようになり、国民の中に、「あいつらちゃんとやっていないのに、たくさんもらっている」という不協和音を生んでいます。福祉国家でこういう疑惑が生まれるのは相当やばいことで、これが大きな揺らぎの要因になっている。これは今、どこの国でも起きており、ここを勝間モデルでどう解決していくのかなということに関心があります。
 
 勝間 生産性が高く、国を支えるような産業と、それ以外の私たちの生活を支える産業に分けて、余剰人員は生活を支える産業の方に吸収して、なおかつ残ったものは福祉で対応するという構造にならざるを得ないと思います。
 
 宮本 同時にどういうふうに人を動かしていくのか。その場合、生産性の高いところは基本的に労働条件が良くなることが確約できたから、これまではスウェーデンでもみんな、職場は変わりたくないけれども、良くなるからということでむしろ、労組が率先してお尻をたたいてきたんですね。
 
 勝間 そうですね。こちらに移りましょうと。
 
 宮本 ところが、今、その条件が崩れてきて、場合によっては雇用の条件が給料を含めて下がっていくと。派遣の問題なんか典型ですけども、生産性の高いところから低いところへ移らなくてはいけないという場面が生じてくる。ここをどう納得してもらうのか、というのが難しい問題です。
 
 勝間 終身雇用を定義すると、新卒一括採用の比率が非常に高くて流動性がない。その中で一回採用されてしまうと生産性にかかわらず、かなり長期的な身分が保障される一方、非正規雇用の人たちは生産性がどんなに高くても、そのコミュニティーに入れないという不公平が一番いけないと申し上げています。
 
 宮本 今、4年制の大学で教えていますが、学生たちは、二度と交わらない二つの道を選択することを迫られています。一方は超過労働を強いられる。他方では、働く場がない。どちらもまったく不合理ですよね。これを交わらせないといけません。
 
 勝間 一つの軸として考えていますのが、地域コミュニティーの活性化でして、たとえ、生産性の低い賃金の少ない仕事に移ったとしても、別な形での生きがいをコミュニティーで得ることによって、本人はより短い労働時間で、生活は多少きつくなるかもしれないけど、人生の充実があるというモデルが望ましいのではと考えています。
 
 宮本 一つは、終身雇用から囲い込み的な性格をとっていくことが大事ですよね。もう一つは、勝間さんのおっしゃったコミュニティーでの活動ということですけれども、英国のコリン・ウィリアムズという社会経済学者が「完全雇用から完全参加へ」ということを言っています。
 
 勝間 いい考え方ですね。
 
 宮本 おそらく、すべていい条件の仕事に移っていくことは難しい。労働時間が短くなるなどということがあっても、その分地域社会に溶け込むとか、新しい活動の場を広げて、みんながみんな高効率のエースストライカーになるんじゃなくて、地域を守るディフェンダーがいて、そこをある程度、公的な資金が支えていたりする。米国のように「小さな政府、大きな監獄」では困るわけですね。米国には200万人ぐらいの収監者がいて、そこに投入されているコストはすごいもの。日本はまだ9万人ぐらい。多少非効率な部分があっても、ディフェンダーとして地域社会のニーズに応える雇用をつくりだすことが大事です。終身雇用に代えて、働く場を社会全体で守っていくかたちが必要なのです。
 
 勝間 さほど難しくない、と思っています。たとえば、学校を中心とした地方分権の試みは進められていますし、その視点がまさに子供たちに必要なのかなと。少子化の解決と実は両輪なんですね。結局、子供を育てるリソースがあまりに足りないので、子供を産もうとしない。だったらその時、余剰リソースがあった場合には、子供を育てる方に振り向ける仕組みを作って、それは学校や地域が起点になるんじゃないかという発想なんです。
 
 宮本 そうですね。ちょうど、待機児童が4万人を超えて、それがまさに全員参加型社会の足を引っ張っています。たとえばおそらく勝間さんがイメージされているのは、高齢者が保育のサポートに回るなど、少し手厚くすることで好循環が生まれてくるということですよね。その場合の担い手というのは、具体的にどこを想定していますか。
 
 勝間 地方公共団体、地方政府が一番いいと思います。
 
 宮本 公益を志向しながら事業性の高い「社会的企業」を、公共性と営利性を両立させながら地域にどう根付かせるのか。公的なサポートはどこまでやるべきかがポイントになるのでは。
 
 勝間 そこは循環する仕組みを作らないといけないと思っていまして、単に終身雇用を崩すだけじゃなくて、そこでより生産性の高いところに行ってエースストライカーでがんばる人と、より低いところに行ったんだけど、時間的な余裕が出たので、その分を違うリソースに振り向ける方という循環になっていくと思うんですよ。
 
 宮本 今、ワールドバリューサーベイなどさまざまな国際的調査を見ても、各国の幸福度(と比べて)、日本は、低いんですね。
 
 勝間 地域とのかかわりが低い。
 
 宮本 幸福度の高い国を見ていると、地域参加がすごく大きいんですね。
 
 勝間 地域に友達がたくさんいる。話し相手がたくさんいる。
 
 宮本 そこは、幸福度を上げる一つの方向かもしれない。
 
 勝間 実際、やってみたら面白い、やってみたらできた、ということで変わりますし、難しいことを言っているわけではないですから。

<宮本太郎×勝間和代>対談 終身雇用制度(その2)へつづく

 
 
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