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クローズアップ2009:準備進む排出量取引 削減、企業の義務に 「負担増」反発も

 <世の中ナビ NEWS NAVIGATOR>

 ◇11年度導入検討

 政府は企業が排出する温室効果ガスを市場で売買する「国内排出量取引制度」について、20年までに同ガスを90年比で25%削減する鳩山政権の目標達成に向け、11年度にも導入する方向で検討に入った。6日には関係省庁の副大臣級でつくるチームの初会合を開き、日本の試行状況などを確認した。政府の動きを受け、東京証券取引所グループなどは国内初の排出量取引所の開設検討を表明し、準備作業も加速してきた。しかし、当事者となる産業界の反発は強く、先行きは不透明だ。【赤間清広、後藤逸郎、坂井隆之、和田憲二】

 「社会的な器として、いずれ市場が必要になる。国際ルールの策定に、メーンプレーヤーとして参加するためにも今から準備が必要だ」。東証の斉藤惇社長は、取引が国内外で拡大するとの見方を強調する。政府は来年の通常国会に提出する温暖化防止の基本法案への反映をにらみ、検討を加速する方針だ。

 企業はこれまで、日本経団連が定めた「自主行動基準」に沿って省エネ化に自主的に取り組んできたが、参加企業の07年度の排出量は90年比1・9%減。家庭などの排出量は逆に増えている。日本は2度にわたる石油危機を経て、他国に先駆け省エネ社会を実現している。最近は削減も遅々として進まず、12年までに国内排出量を90年比6%減に抑える京都議定書の達成すら難しい状況だ。

 現状打開のため、政府は08年10月から排出量取引の試行を始めた。しかし、排出量の設定も参加も企業の任意としたため実効性に欠け、参加企業数は6月末で中小企業を含めても715社にとどまっている。12月の国連の気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)も目前に迫る中、急浮上したのが、本格的な排出量取引の導入だ。

 政府が検討しているのは、企業に強制的に削減義務を課す「キャップ・アンド・トレード」と呼ばれる方式だ。政府はまず国内の排出総量を設定、各企業、事業所ごとに排出上限を強制的に割り振る。達成できない企業は、排出枠が余った企業から、購入して穴埋めする。個々の事業所などにキャップ(上限)を設けることで、エネルギー効率の悪い老朽設備の更新など、企業の環境に対する努力を促す仕組みだ。

 これに対して、産業界には警戒感が強い。強制的な上限設定は、企業の負担増に直結し国際競争力の足かせになるとの見方が広がっているためだ。鉄鋼や電力業界の反発は強く、「(排出上限の)公平な割り当ては困難だ」(電気事業連合会の森詳介会長)との批判も出ている。

 導入検討のきっかけともなった鳩山政権による温室効果ガス「25%削減」への風当たりも強い。「極めて厳しい数値。産業界の取り組みを踏まえて、進めてほしい」。ホンダの青木哲会長ら大手自動車メーカー首脳は、10月29日に東京都内のホテルで開いた直嶋正行経済産業相との懇談で、「25%減」の制度作りに関し慎重な対応を求めた。排出が増えている家庭部門などの分まで、削減ノルマを押し付けられることへの警戒感もあるためだ。

 ◇「商機」の見方も

 ただ、産業界の一部は省エネ需要の拡大を見込み、「極めて高いハードルだが、ビジネスチャンスと考えるべきだ」(パナソニックの大坪文雄社長)と受け止めている。太陽光発電の開発といった、環境対応で優等生の電機業界などには、温室効果ガス削減への取り組みを商機とみる考えも芽生え始めている。

 ◇「キャップ・アンド・トレード」、先行する欧米 EU、上限未達成なら罰金

 海外ではキャップ・アンド・トレード方式の排出量取引制度の導入が大きな流れになっている。先駆けとなったのは05年に導入したEU(欧州連合)だ。発電所や鉄鋼などエネルギー多消費型産業で、一定以上の生産能力を持つ1万超の事業所ごとに、エネルギー消費量に応じて排出上限を設定。12年には域内で離着陸するすべての航空機も対象に追加する。13年以降、温室効果ガスの種類も広げる予定だ。

 排出上限を設定するEUの専門機関が毎年、上限を更新する。未達成の企業は排出量取引に参加しないと、二酸化炭素(CO2)排出量1トン当たり100ユーロ(約1万3500円)を政府に支払う義務を負う。市場の排出量取引価格(20ユーロ前後)より高額の罰則金とし、企業の市場取引への参入を促す仕組みだ。

 米国でも一部の州が発電所を対象に同様の制度を導入。オバマ大統領は2月の一般教書演説で、キャップ・アンド・トレードを国内全域に広げる方針を宣言。関連の環境法案は6月に下院を通過し、上院での審議が進む。オーストラリアも11年7月の制度開始を表明しており、日本は完全に水をあけられた格好だ。

 世界の08年の排出量取引総額は約1260億ドル(約11兆4000億円)で07年の約2倍に急拡大した。それでも東証の株式取引額(約580兆円)の50分の1以下で、今後の成長が期待される。

 ただ排出量取引の運用には注意が求められる。EUは排出量を過剰に割り当てた結果、07年には一時、CO2の取引価格が1トン=1ユーロ以下に暴落。今後は、排出枠の割り当てを厳しく制限し、多くを入札に切り替える方針だ。世界の取引の7割超はEUで行われ、欧米金融機関は手数料を荒稼ぎしている。「マネーゲームの過熱」も懸念される中、国内の仲介業者の育成も課題となりそうだ。

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 ■排出量取引をめぐる世界の動き

95年 米国が大気汚染対策で制度を導入

01年 デンマークが電力部門で温室効果ガスの排出量取引を導入

02年 英国が制度を導入

05年 EUが域内排出量取引を開始

08年 日本が排出量取引を試行。参加や排出枠設定は企業の任意

09年 米国内10州が発電所対象の制度を開始

    米オバマ大統領が制度導入を表明。6月に関連法案が下院通過

11年 オーストラリアが制度開始予定

毎日新聞 2009年11月7日 東京朝刊

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