北海道の大雪山系トムラウシ山(2141メートル)でツアー登山の客ら8人が死亡した遭難から3カ月余り。悪天候下でツアーを続行したガイドの判断ミスが原因の一つとみられ、道警の捜査が続く中、ガイドの数や質が実態に追いついていない現状が浮き彫りになってきた。悲劇を繰り返さないために、山岳・旅行業界や行政は再発防止の仕組みづくりを急ぐべきだ。
ツアーは旅行会社「アミューズトラベル」(東京都千代田区)が企画。本州の50~60代の客15人と男性ガイド3人が参加し、7月14日に旭岳から入山した。遭難した16日は雨だったが、ガイドのうち、このルートを唯一経験していた32歳ガイドが「午後から晴れる」と判断し、早朝から出発した。だが雨はやまず、約5時間後に女性客の1人が体温低下のために動けなくなった。その後、女性客と61歳ガイドを残したメンバー16人が下山を再開。しかし、動けなくなる人が相次ぎ、残った2人を含む8人が低体温症で死亡した。
登山では1人に起きたアクシデントが他のメンバーに危険を及ぼすことがある。ツアーの場合、参加者の経験や体力がばらばらであるため、危険性はいっそう高くなる。ガイドは女性客の体調変化を早めに見抜くべきだったが、初対面同士のために普段の状態が分からず、難しかったのかもしれない。出発を見合わせてツアーを中止すれば客と会社の金銭トラブルにつながる可能性があり、ガイドには予定通りに遂行しなくてはならないプレッシャーもあっただろう。そのように考えていくと、ツアー登山のガイドには独特の難しさがある。今回の遭難は特殊事例ではなく、広くツアー登山に潜む危険性があらわになったと言える。
ところが、国内ではガイド資格の取得者が圧倒的に少なく、無資格者がツアーを引率するケースが目立つという。今回の場合、ガイド3人のうち61歳ガイドは日本山岳ガイド協会認定の資格を持っていたが、他の2人は無資格。しかも、61歳ガイドが今回のルートを案内するのは初めてで、結果的にガイドの知識を十分に生かせなかった。
日本旅行業協会によると、近年のツアー登山参加者は年間約30万人。ツアー数は数千に上るとみられる。だが、日本山岳ガイド協会認定のガイド資格取得者は、現在の内容に改正された04年以降わずか約130人。試験では危機対応力を問われるなど難易度が高く、合格率は2割前後に過ぎない。山岳の多い北海道が独自に設ける資格の取得者は約130人、長野県認定の資格者は約500人しかおらず、日本トレッキング協会の越谷英雄理事は「現状ではガイドをすべてのツアー登山に同行させるのは困難」と言う。現在のツアー登山は、資質のあるガイドが確実に引率しているとはいえず、トムラウシのような「本州の3500メートル級に相当する」(越谷理事)とされる山では一つのミスが致命的な結果につながる。
こうした状況を打開する一案として、ガイドのレベルをランク分けし、山の難易度に合わせて適材適所に配置するのはどうだろう。難しい山にはレベルの高い資格を持つガイドを充てるよう旅行業者に義務付け、比較的簡単な山についてはワンランク下のガイド資格を新設して対応する。そうすればガイド不足を解消でき、危険性の高い山には優秀なガイドを集中して投入できるかもしれない。北海道の担当者も「山の特性を制度に取り込んでいく議論が必要かもしれない」と指摘している。
さらに欠かせないのが、参加者の危機意識だ。トムラウシ山では02年7月にもツアー登山客1人が凍死し、業務上過失致死罪に問われた元ガイドが旭川地裁で有罪判決を受けている。山岳遭難に詳しい青山千彰・関西大教授(危機情報論)は「旅行業者が過去に同様の事故が起きたことを知らせていれば、今回の参加者は悪天候下の出発に異議を唱えられたのではないか」と指摘。「ツアーとはいえ、自分が歩くコースの危険性を知らずに業者やガイドにすべてを任せる考え方は危ない」と訴え、業者に対して募集要項へのリスク情報掲載を義務付けるよう提唱している。
今回の遭難事故では、日本山岳ガイド協会と、青山教授が会長を務める団体「日本山岳サーチ・アンド・レスキュー研究機構」(IMSAR)も検証作業を始めた。生還者らから事情を聴くほか、参加者のカロリー摂取量などの聞き取りも行う。協会は年内にも、IMSARは来年2月までにそれぞれ報告書をまとめ、専門家の視点から再発防止策を探る予定だ。
トムラウシ山は日本百名山として人気がある。来夏も多くのツアーが組まれるのは確実だ。無論、遭難の危険は百名山に限らないし、季節も選ばない。実効性のある対応策が早急に打ち出されることを期待したい。(北海道報道部帯広)
毎日新聞 2009年10月22日 0時17分
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