

朝、起きるのがつらい。前夜から思い悩むことがあって、眠りも浅い。ひと眠りしたいが、うまく眠れそうにない。そのうちまた悩み事が頭をもたげてきた。こういう時、どうするか。布団をけって跳ね起きることだ。
十数年前のことになるが、ぼくは布団の中で難題を抱え、うつうつとなる日がしばしばあった。当時、「サンデー毎日」の編集長だった。うつうつの中心はその週の号の売り上げ不振だ。ほかに仕事上の人間関係もあった。
面白くない日の夜は布団をかぶって寝ることにしていた。しかし、これが簡単ではない。そういう自分を見透かしたように、あれやこれやが思い浮かんでくる。どうすればサンデーの売り上げを伸ばせるか、などと考えだすともういけなかった。
どうにか寝つけても、快眠とはほど遠い。眠りが浅いと目覚めても頭はすっきりしない。そのまま布団にくるまっていると、前夜同様の負の世界に落ち込んでしまう。同じ悩みのうつうつではあっても、朝の方が体もだるく、気分も重いぶん、よりしんどい。
こういう夜と朝を重ねていると、ストレスもどんどんたまってくる。悪循環である。ある日、船底で横たえた体が揺れているような症状に見舞われたかと思うと、周囲がぐるぐる回りだした。自律神経失調症と診断されたのは、それからしばらくして胃がんになってからだった。胃がんの方は早期だったので切ってすんだが、自律神経の不調はそのまま残った。
この経過をビデオを巻き戻すように元に戻してみると、布団の中のくよくよに問題があることがわかる。人間は布団というと何か心安らぐイメージで受け止めがちだ。もちろん快眠が得られれば布団さまさまなのだが、悩みと共にある布団の中は要注意である。
ぼくは心に命じた。布団の中ではあれこれ考えない。思い悩まない。目覚めたら大きく伸びをして布団をけって跳ね起きよう。
大正解だった。早起きした翌日はよく眠れ、自律神経の具合も日々よくなり、めまい、ふらつき、不安からくる発作も激減した。朝日が希望の光に思える日もあった。
ひところのぼくと同じように布団にくるまってうつうつとしている人、仮にAさんがそうだとすると、ぼくは言いたい。起きろ、Aさん!
起きてからどうするかは次回のテーマとしたい。(夕刊編集長)
毎日新聞 2010年7月9日 東京夕刊
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