余録

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余録:鏡の国の与野党対立

 アリスは暖炉の上の鏡をのぞきながら子猫のキティに語りかける。「あの鏡のお家(うち)に住んでみる気はない?」。こっちから見えるところはこちらとそっくりさかさまだけど、見えないところはまるで違うかもね。さぞ、すてきなものがあるに違いないわ▲L・キャロルの「鏡の国のアリス」で、アリスは鏡の向こう側の世界に入り込む。見えなかった死角は確かに大違いで、暖炉脇の絵は生きているみたいだし、裏しか見えなかった時計の文字盤ではおじいさんの顔がにっこり笑っていたのだ▲ファンタジーの作家は、日常の暮らしのちょっとした死角からいくらでも不思議な物語と世界をつむぎだす。だが与野党が逆転し、攻守所を変えたわが永田町の「鏡の国」は、がっかりするほど何から何まで「そっくりさかさま」であった▲与党の採決強行と野党の委員長解任決議案の連発や審議拒否--見なれた光景だが、むろん与野党が逆転した鏡の国だ。審議不十分を理由に採決を「暴挙」とする野党の非難も、野党の審議引き延ばしを批判して「粛々と採決する」との与党の主張も、そっくり入れ替わっただけだ▲政権のみならず、政治の形そのものの変化に期待が寄せられた政権交代である。国会審議でも官僚依存から政治主導へという看板にふさわしい質の高い論戦を期待していたら、のっけからこれだ。会期末をにらんでの恒例の駆け引きである▲与野党それぞれに言い分はあろう。だが、共に政治家なら鏡の国の与野党対立にあきれる国民の失望をこそ心底おそれてもらいたい。政策論争最優先の国会改革はファンタジー作家の何百分の一かの想像力があればできるはずだ。

毎日新聞 2009年11月21日 0時00分

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