<福岡賢正>
福岡 中東地域に象徴的に表れている恨みの連鎖、それに起因する報復の連鎖という問題が、世界平和を構想する上で、大きな課題として我々の前に横たわっています。
見田 その民族対民族、宗教対宗教、国家対国家の憎み合いや、いずれ暴力となって爆発するかもしれない反発関係の深刻さを全体として深いところから押さえたのが、D・H・ロレンスの「アポカリプス論」という本です。
福岡 福田恆存(つねあり)さんが訳されて「黙示録論~現代人は愛しうるか」というタイトルで、ちくま学芸文庫に収録されていますね。今も本屋で買えるんですが、非常に面白い本でした。
見田 古代バベルの塔以来、つまり旧約聖書の時代以来の民族対民族、宗教対宗教の抗争というものを深くとらえている非常に優れた本です。
福岡 ロレンスがあの本でテーマにしている「ヨハネの黙示録」というのは、実は9・11の同時多発テロそのものなんですよね。
見田 「ヨハネの黙示録」は新約聖書の一番最後のところに置かれているものですが、逆にもっともユダヤ教的性格、つまり旧約的な性格を宿したものだと言われています。日本ではあまり読まれていなくて、クリスチャンもあんまり読んでいません。でもキリスト教国ではものすごく愛読されていて。特にロレンスの父親もそうだったんですが……。
福岡 確か貧しい炭坑夫だったんですね。そういう虐げられたような立場にある人たちに熱狂的に愛読されてきたんですね。
見田 ええ。ロレンスの父親もあの章を何度も仲間と一緒に読んで、感動したりしているんです。で、何が書かれているかというと、凄(すさ)まじい復讐劇(ふくしゅうげき)です。
福岡 まるで9・11テロを描いているんじゃないかと思うぐらいで。
見田 ウサマ・ビンラディンは「世界貿易センターはバベルの塔である」と言っているのね。
福岡 じゃあ分かっててやってるわけですね。
見田 つまりそういう構図があるわけです。
福岡 黙示録が書かれた当時の原始キリスト教の抑圧された民というのが、今はオレたちなんだと主張しているわけですか。
見田 そうです。今、富み栄えているものは必ず滅んでひどい目に遭うと。それは黙示録ではバビロンの都と比喩(ひゆ)されているんですが、当時のローマ帝国の都、ローマを指していたわけです。それが1930年没のロレンスの時代になると、彼が書いているようにロンドン、パリ、ニューヨークの三つの都市になる。そして20世紀のいろいろな転変があって……。
福岡 9・11当時はアメリカ一極集中でニューヨークになった。
見田 だから世界貿易センターはビンラディンらにとって、まさにバベルの塔になるわけです。
福岡 ああ。
見田 だけど、黙示録が書かれた時代にあってはローマだった。近代においてはロンドン、パリ、ニューヨークだった。そしてその黙示録を世界の不遇なクリスチャンたちは熱狂的に読んでいたわけです。いずれ、あそこは滅びると。=次回は25日掲載予定
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■人物略歴
1937年、東京生まれ。東京大学名誉教授。専攻は比較社会学、現代社会論。著書に「宮沢賢治~存在の祭りの中へ」「現代社会の理論」「社会学入門」など。真木悠介の筆名でも「気流の鳴る音~交響するコミューン」「時間の比較社会学」「自我の起源」など多くの著作を持つ。
毎日新聞 2009年11月18日 西部朝刊
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