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特集:第78回全国盲学校弁論大会全国大会 言葉の力、存分に

 ◇代表9人が熱弁

 「第78回全国盲学校弁論大会全国大会」(主催=毎日新聞社点字毎日、全国盲学校長会、毎日新聞社会事業団、特別協賛=住友グループ広報委員会、日本公文教育研究会)が10月16日、東京都文京区の都立文京盲学校で開かれた。視覚に障害のある生徒が将来の夢や中途失明からの再出発にかける決意を、自らの言葉で語るこの大会。今年は全国7地区の予選を勝ち抜いた9人の代表が約200人の聴衆を前に熱弁をふるった結果、関東甲信越地区代表で筑波大学付属視覚特別支援学校高等部専攻科鍼灸(しんきゅう)手技療法科2年のファン・バン・ソンさん(32)が優勝し、文部科学大臣優勝旗、点字毎日杯などを手にした。【点字毎日部】

 大会に出場したのは、盲学校(特別支援学校)で学ぶ中学部以上の生徒。マッサージ師、はり師、きゅう師の国家試験受験資格が得られる職業教育課程には、人生の半ばで失明したり、病気で視力の低下した人たちも多く在籍している。今年は9人の弁士のうち8人が10代。一般の中高生と同じ年代の学生が自らの障害に対する思いに触れながら、将来への目標を語る弁論が目立った。その中にあって、審査員をはじめ聴衆の心を最も動かしたのは、ベトナムからの留学生によるスピーチだった。

 優勝したファン・バン・ソンさんは、日本のはり・きゅう・マッサージの技術を習得するため東京都文京区の筑波大付属視覚特別支援学校に留学中。弁論では「僕に続く後輩たちのために」の演題で、日本で学んだ成果を将来、母国の視覚障害者のために生かしたいという強い決意を滑らかな日本語で語った。四天王寺大学大学院教授で、自身も全盲の愼英弘審査委員長も「思いが伝わってきた。最後までその気持ちを忘れずにいてほしい」とたたえた。

 準優勝した大阪府立視覚支援学校(大阪市)の横井秀平さん(17)は、「僕が一番見たいもの」と題し、生まれつき全盲で見るという経験がない自身が持つ色のイメージを主題に弁論を展開。ユーモアを交えたリズミカルな口調で聴衆の笑いを誘いながら、結びに本当に見たいものが何かを語った。

 3位となった福岡県立柳河盲学校(福岡県柳川市)の緒方健人さん(14)は、今大会参加者の最年少。「過去の闇から未来の光へ」の演題で、地元の小学校から盲学校に転校した経験を感情を込めて語った。新しい環境で心を通わすことのできる友達と、ドラム演奏という生きがいを見つけた喜び、そして今後もそれを大切に生きていきたいという気持ちを素直に若々しく伝えた。

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 ■優勝

 ◆「僕に続く後輩たちのために」--筑波大付属視覚特別支援学校専攻科2年、ファン・バン・ソンさん(32)

 ◇自立に向けた学校を

 「目が見えないあなたが、いくら勉強しても、時間もお金も無駄」

 こんなことを、ベトナムで普通校に通っていたころ言われました。

 私は、幼いころから視覚に障害がありました。盲学校の存在を知らなかったため、学校は小学校からずっと普通校に通っていました。授業は主に耳で先生の説明を聞き勉強していました。

 しかし、徐々に視力が低下し、中学2年生になると、墨字(すみじ)(注・点字に対する一般の字)が全く読めなくなってしまいました。学校の先生はよく黒板に文字や図などをかいて、「これプラスこれイコールこれです」というような説明をされました。黒板の文字が見える生徒には何の問題もありませんが、私には先生の説明がわからず、授業を受けることが非常に難しくなりました。

 そこで、友達に教科書を読んでもらって、予習と復習を十分に行いました。また、目が見えなくても墨字や図などがかける簡単な道具を自分でいくつか工夫して作り、テストの時はその道具を使って書きました。例えば、墨字をまっすぐに書くために、紙の両端にひもを渡し、それをガイドにして書きました。

 しかし、道具にはいくつか問題がありました。字が間違っていても自分では分からなかったり、書いている途中で間違いに気づいても消すことができなかったりしました。そのため、テストの点数はいつも悪かったです。

 そのころ、たくさんの人から「学校をやめた方がいい」、また、「障害のない人が一生懸命に勉強しても就職できないことが多いのだから」と言われました。

 それでも、私は学校をやめようとは思いませんでした。将来、就職できなくても、習った知識は必ず自分の生活に役立つと考えていたからです。

 私は以前、ニワトリを寒い場所で飼ったために、たくさん死なせてしまうという経験をしました。その後、先生が教えてくださった通りに飼育したところ、寒さで死ぬことがなくなり、健康に育てることができるようになりました。

 高校を卒業してからは盲人協会に入り、点字を勉強しました。それから普通の専門学校で3年間、漢方薬や鍼灸マッサージを勉強していました。点字の教科書もなく、点字用紙を買うお金もなかったので、ほとんど耳だけで聞いて勉強していました。

 卒業後、障害のない人が働くリラックス・マッサージ・センターに就職のお願いに行きました。しかし、三つのセンターに行きましたが、結局、目が見えないという理由で断られました。

 そのため、村に帰り、お金を借りて治療室を開くことにしました。私は熱心に勉強をし、一生懸命仕事をしました。そこで、たくさんの人たちから信頼されるようになりました。

 そんななか、私は日本に行くことを決心しました。そのきっかけは、ベトナムでの数百人の視覚障害者との出会いです。ベトナムでは、盲学校は中学校までしかありません。高校は普通校に進学しなければなりません。そのため、高校を卒業していた人は、彼らのうちで数人だけ。仕事をもっている人も少なく、生活が困難な人がほとんどでした。

 私はその様子を見て、どうにかならないものかと考えました。

 そこで、日本で鍼灸マッサージの教育を受け、さらに視覚障害者への教育方法を学び、それらをベトナムに持って帰ろう。そして、視覚障害者であっても学習できる学校をつくり、自立できるようにしたいと考えました。

 それが日本に来るきっかけであり、今の私の夢です。

 夢をかなえるため、今、生理学などの教科書をベトナム語に翻訳しています。そして、5人のベトナムの視覚障害者にスカイプ(注・インターネット電話)で日本語を教え、同じ夢を追いかける同志を育てています。

 「視覚に障害があっても、勉強して一生懸命働けば道はひらける」

 この信念を持って日本で学び、少しでも古里の視覚障害者の役に立ちたいと思っています。

 「目が見えないあなたが、いくら勉強しても、時間もお金も無駄」と、後輩たちが二度と言われないように。

 ◇家族と会話、心の支え

 ベトナムのハノイで生まれ育った。視覚障害の原因となった病名ははっきりしないが、枯れ葉剤のダイオキシンが影響したという。

 幼いころから視力が弱く、中学校に入ると授業についていくのが難しくなった。それでも勉学への思いは断ち切りがたく、専門学校で鍼灸マッサージの技術を習得し、古里で治療院を開いていた。

 アジアやアフリカの視覚障害者を日本に招き、盲学校での学習を支援している社会福祉法人「国際視覚障害者援護協会」(東京都板橋区)の留学生として来日したのは07年の9月末。「日本の技術を勉強して、視覚障害者への指導法も学びたい」というのが動機だった。

 日本で3年間学んだ後は母国に戻り、質の高いマッサージ技術を指導する学校を開くのが目標だ。目の見えるマッサージ師と競い合うため、医学知識に裏打ちされた治療で地域の人々に貢献し、視覚障害者の地位向上につなげる狙いもある。

 「目が見えないあなたが、いくら勉強しても、時間もお金も無駄」。このように言われるのは自分たちの世代で終わりにしたいと心から願う。

 日本での暮らしは学校の寄宿舎。心の支えは、インターネット電話を通じた家族との会話。来日時に7カ月だった一人娘は、上手な歌を聞かせてくれるようになった。一緒に暮らせる日を楽しみに、後半戦に入った留学生活を続ける。【濱井良文】

 ◆特別審査員講評

 ◇現実の強さ、伝わった--作家・阿刀田高(あとうだ・たかし)

 盲学校弁論大会ということで、非常に難しい審査でした。障害の苦しみをどう乗り越えるかを考え、ポジティブな意気込みを語るのはいいのですが、きれいごとだけでない現実をそこへどう包み込ませるか。一般の方の場合はあまりかっこいい話ばかりだと減点ですが、障害のある方には厳しい状況があるわけで、意気込みを切々と訴えるのも分かる。そのへんの案配に苦慮しました。

 弁論でも作文でも多くの人に訴えるなかで、ユーモアというものはたいへん重要です。ユーモアは自分を冷静にみるという作用につながる。状況がシビアであればあるほど、ユーモアは相手に伝え訴える力になるということです。

 弁論発表の順に一人ひとりの講評をいたします。まず、横井秀平さん。笑いを取りながら自分の「見たいもの」について訴える弁論は、話芸として一つの領域に達している、みごとなものでした。鎌田あいりさんは、切実な意気込みを語られた力のある弁論でした。精いっぱい意気込みを表現されており、気持ちよく聞けました。前田咲綺さんは、「朗読をやってみたい」という内容にふさわしい力強い声と表現力で、朗読家として有望だなと聞いていました。植竹昭江さんは、体をゆらしながら優しい独特の声で意気込みを訴えておられた。ちょっと耳に残る名調子でした。川元慶太さんは、ゆっくりものを考える人でしょう。途中で迷うように話すのを聞きながら、弁論大会には必ずしも向いてないかもしれないけれど、年齢にふさわしく考えていく姿勢は好感を持ちました。緒方健人さんは、最終的には自分なりに方向性を見つけてお話しになっているのですが、障害者の持っているどうしようもない怒りを、論旨に込められたというのが素晴らしいところでした。前田瞳さんは、今回、一番文学的な弁論でした。素朴に文学へのあこがれを語っておられて、おもしろく思いました。ファン・バン・ソンさん。これは、「現実の強さ」です。社会の中で、どう生きていくか同じ障害のある後輩にどう伝えていくかを実践しておられる。体験に裏付けられた言葉の持つ強さを示しました。坂部成さんは、今大会一番静かな語り方で自分が自立していくには何を考えたらいいか表情も切々と訴えておられて、とてもすてきと思いました。

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 ◇大会成績(敬称略)

 【優勝】「僕に続く後輩たちのために」関東甲信越地区代表、ファン・バン・ソン(32、筑波大学付属視覚特別支援学校高等部専攻科鍼灸手技療法科2年)

 【準優勝】「僕が一番見たいもの」近畿地区代表、横井秀平(17、大阪府立視覚支援学校高等部本科普通科2年)

 【第3位】「過去の闇から未来の光へ」九州地区代表、緒方健人(14、福岡県立柳河盲学校中学部2年)

 【優秀賞(順不同)】「キラキラ」北海道地区代表、前田瞳(18、北海道高等盲学校普通科3年)▽「レールをのばす」東北地区代表、鎌田あいり(16、福島県立盲学校高等部普通科2年)▽「学校と私」関東甲信越地区代表、植竹昭江(16、栃木県立盲学校高等部普通科2年)▽「共感とやさしさ」関東甲信越地区代表、川元慶太(16、神奈川県立平塚盲学校高等部普通科1年)▽「自分を信じて」中部地区代表、前田咲綺(さき)(15、静岡県立静岡視覚特別支援学校中学部3年)▽「ふくらむ蕾(つぼ)み」中国・四国地区代表、坂部成(なるみ)(17、香川県立盲学校高等部普通科2年)

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 ◇弁論収録テープ、来月初旬に発売

 第78回全国大会に出場したすべての地区代表の弁論を収録したカセットテープ(120分、1300円=税・送料込み)を12月初旬に発売します。また、11月5日号の「点字毎日活字版」に、すべての弁士の弁論を掲載します。1部250円。問い合わせは、点字毎日営業係(06・6346・8388)。

 ◇住友グループ協力、3位まで中国派遣

 特別協賛の住友グループ広報委員会の協力で、全国大会3位までの入賞者を海外研修旅行として中国へ招待する予定です。また、点字と活字を併記した弁論集を作製し、全国の盲学校、点字図書館、主な公共図書館などへ寄贈します。

毎日新聞 2009年11月5日 東京朝刊

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