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社説 視点・総選挙 雇用改善の実像 人を語らぬ政治が残念だ=論説委員・中村秀明

 「正社員の有効求人倍率が初めて1倍を超えた。正社員になりたい人がいれば必ず一つ以上の正社員の仕事があります」

     安倍晋三首相が衆院の解散を表明した記者会見で強調し、また街頭演説でもよく話す内容だ。経済政策「アベノミクス」の成果を誇っている。

     うそとは言えない。だが、数字を見て人を語らずである。

     確かに東京、福井、愛知、大阪、岡山などほぼ半数の都府県で1倍を超えた。だが、北海道、兵庫、高知、沖縄などは低く、地域間の差は大きい。

     職種の偏りもある。

     求人数(パートを含む)が5万人を超える主な職種で高倍率なのは、警備や交通整理などの保安7・70倍▽建築や土木5・16倍▽接客や給仕3・92倍▽介護サービス3・63倍▽トラックなどの運転手2・75倍▽保育士など福祉2・64倍--である。

     労働条件が厳しい割に待遇は良くなく、人が集まりにくい職種だ。職を探す人はどんな仕事でもいいわけではない。勤務時間がある程度定まった一般事務は0・34倍で奪い合う状況だ。

     震災復興やオリンピックなどの建設需要と、待遇改善が進まない介護や保育の厳しい現場が支える「初の1倍超え」ではないか。少なくとも「経済の好循環」ではないだろう。

     背後には過重労働や介護疲れ、待機児童など心身の健康にかかわり、人と人の関係も揺るがす難題が横たわる。

     「1強」の安定基盤に立つならば、果たせていない課題に向き合い、批判に耳を傾ける度量があっていい。統計に表れない問題もきちんと受け止め、より良い方向を目指す懐の深さを示してほしい。国の指導者のそうした態度は、人々の分断や対立をあおる動きも遠ざける。

     だが、首相が国会で、街頭で口にする多くは、何かをくみ取ろうとする思いや他者へのまなざしに乏しく残念だ。希望の党の小池百合子代表も「リセット」などとデジタル用語を使い、人を語ろうとしない。

     経済は回復しつつあるとしても、国の土台となる社会はきしみ、多様性を失い、弱くなっているように思える。政治に期待や切なる願いを抱くのは、いつの時代も社会的な弱者や大きな声を持たない市民なのだ。

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