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論点

外国人が見た衆院選

 今回の衆院選には、海外メディアや日本に暮らす外国人も関心を寄せた。突然の解散を受け、一時は政界再編が進むかに見えたが、ふたを開けてみれば自民党の大勝。与野党の力関係に大きな変化は起きなかった。「一体、何のための選挙だったのか?」。理解しにくい日本の政治は外国人の目に、どう映っているのか。

    朴喆熙氏

    日中露、1強政権時代に 朴〓熙・ソウル大国際大学院長

     自民、公明の与党で憲法改正の発議に必要な3分の2議席を確保した衆院選結果について韓国では、日本が改憲を経て「戦争ができる国」になり、核・ミサイル開発を進める北朝鮮問題を武力で解決するのではないかという警戒心が強まっている。だが、改憲は国外からとやかく言われる筋合いの問題ではない。今後本格化する改憲手続きで「何のための改憲か」を安倍晋三首相はまず日本国民に説明する必要がある。ただ、それに加えて、疑念を持つ韓国、中国などに対して安倍首相が「誤解」を解く努力をしていかなければ近隣諸国の対日不信は高まるだろう。

     衆院選では北朝鮮政策が争点の一つとなった。制裁強化を公約に掲げた自民党が大勝したことで、安倍政権は今後もトランプ米大統領と連携して制裁と圧迫を強めると予想される。これに対し韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領は、現在の日米韓の協調関係に波風が立たないよう慎重に対応していくとみられる。

     日韓の北朝鮮政策は根本的な立場では大きな差はない。文政権も今が対話のタイミングではないことは分かっている。圧力を通じて北朝鮮が対話の場に出ざるを得ない状況を作ろうとしている。具体的なシナリオで日韓の違いが少しあっても、圧迫は金正恩(キムジョンウン)体制打倒のためではないという点で日韓の利害は共通している。日韓戦略対話のレベルを今よりも高め、安倍官邸と青瓦台(大統領府)で直接、しっかりと話す必要がある。

     日本の衆院選が、習近平体制を強化する中国共産党大会開催中に行われた点は興味深い。日中の指導者がほぼ同時に権力基盤を強化した。プーチン露大統領を含め、韓国の周辺国は強いリーダーばかりになった。一方、文政権は少数与党で、韓国社会は保革対立がかなり厳しい。このため、文政権は周辺国と敵対関係になるのを避け、米国、日本、中国、ロシアのどこか1カ国とべったりと連携するのではなく、戦略的な柔軟性を保たざるを得ない。文政権は北朝鮮問題解決のために各国のシナリオをどう組み合わせるのが有効か、周辺国指導者と対話を重ねる努力をいま以上にしていくと考える。

     日韓対話を進める上で安倍首相に二つ聞きたい点がある。一つは、北朝鮮に対する制裁モードの後、有利な条件で交渉に持ち込む道筋をどう描いているのかが見えないことだ。朝鮮半島に力で介入することも選択肢として考えているのか。もう一つは歴史問題だ。今は北朝鮮政策の連携に集中しているので争点になっていないが、火種がなくなったわけではない。再燃したら、公約通り断固として日本の立場を貫くつもりなのか。

     安倍政権が強固になったことは、日韓関係にとって悪いことではない。政権浮揚のため人気取りをする必要がなく、大きな外交戦略に取り組みやすくなるからだ。これまでの安倍政権はグローバル外交と言いながら、東北アジア外交では問題を先送りし、対立を避ける「管理」で終わっていた。しかし、これからは、安定政権の政治的資源を日本国内だけでなく、北東アジアの平和と安定に向けた新局面を開くためにも使ってほしい。【聞き手・堀山明子】

    スティーブン・R・リード氏

    曖昧なリベラルの立ち位置 スティーブン・R・リード、中央大教授

     衆院選は野党第1党だった民進党が希望の党、立憲民主党、無所属の三つに分裂し、多くの小選挙区で野党候補が票を奪い合ったため、自民党が圧勝した。政権交代は民主主義をより良く機能させる可能性がある。衆院選が2回連続で「政権交代があるかもしれない」と思わせる構図にならなかった。野党の責任は大きい。

     当初、期待された希望の党は、小池百合子代表が民進党のリベラル派を排除する姿勢を示したのに加え、本人が衆院選に出馬しなかったので首相候補不在になった。政権を選択する衆院選。選挙後の首相指名選挙で誰に投票するかわからない政党が国民の期待を集めることはできない。

     今後、野党が政権交代を目指すためには二つの選択肢がある。「自民党と違う第2の保守政党を作る」と「リベラル政党として自民党への対抗軸を打ち出す」のいずれかだ。野党の保守政党は過去に新進党、みんなの党、次世代の党などが作られたが、いずれもうまくいかず、保守政党で政権交代を目指すのは難しいのではないか。

     リベラル野党が共産党も含めて他党と選挙協力するのが現実的だと思う。米国ではリベラル政党は民主党。社会保障を手厚くし、弱者を擁護するという姿勢だ。一方、日本のリベラルの立ち位置は曖昧だ。昨年の参院選で、民進党は共産党と安全保障関連法の廃止などを掲げて協力を進め、多くの「1人区」で自民党候補を破った。今後は野党第1党になった立憲民主党を軸に野党再編が進む可能性がある。

     安倍晋三首相が衆院を解散したのは、森友・加計(かけ)学園問題を隠そうとする意図が一部にあったのかもしれない。スキャンダルが長引くと、内閣支持率が低下する。第2次安倍政権以後、安倍首相は問題を起こした閣僚を早めに辞任させるなど、スキャンダルへの対応が素早かった。しかし、森友・加計学園問題では対応が後手後手になったように見える。衆院選で勝利しながら、世論調査で内閣支持率が上がらないのは首相個人への不信感が尾を引いているのではないか。

     自民党は衆院選公約に憲法9条に自衛隊を位置づけることなど憲法改正4項目を掲げたので、今後、改憲に取り組むだろう。自民、公明両党に希望の党、日本維新の会を加えた「改憲勢力」は衆院の3分の2を大きく上回り、絶好の機会だ。

     しかし、公明党が9条に自衛隊を明記する9条加憲に応じるかどうかは不透明だ。一方、野党第1党の立憲民主党は「違憲」と主張する安全保障関連法をそのままにして、9条加憲に応じることは難しい。9条改憲に前向きな希望の党は党全体でまとまるかどうかわからない。

     仮に衆参両院で3分の2の賛成を得て改憲案を発議したとしても国民投票が高いハードルになる。国民投票は改憲案を主導した安倍政権への信任投票になるからだ。昨年12月、イタリアのレンツィ首相(当時)が推進した改憲案は国民投票で否決され、首相辞任に追い込まれた。安倍首相は改憲に慎重に取り組まざるを得ないだろう。【聞き手・南恵太】

    西村・プペ・カリン氏

    改めて思う「不思議な国」 西村・プペ・カリン、仏ジャーナリスト

     日本で15年ほど暮らしているが、改めて「不思議な国だ」と実感した。まず安倍晋三首相がなぜ突然、衆院を解散したのか、いまだによく分からない。フランスでは大統領に国民議会(下院)解散権があるが、1997年以来、行使していない。議会運営が困難になるなど、よほどの時にしか行使されない。安倍首相は「少子化対策のため消費増税の使途を変更したい」と説明したが、適当な理由だろうか。それよりも働き方改革や保育所の拡充を急いだ方が早い。

     解散発表の直前に小池百合子東京都知事が新党「希望の党」の代表への就任を宣言しながら選挙に出なかったのも、民進党が自ら解党状態を選んだのも不思議だった。さらに、選挙中も内閣支持率は支持よりも不支持の方が高かったにもかかわらず、与党で3分の2以上の議席を獲得した。記事で起きたことを書くことはできても、「なぜなのか」という解説を書くのが難しくて困っている。

     「台風の目」となった小池代表だったが、「上から目線」と見られがちな性格で、「排除」という言葉を使ったのが誤算だった。どれほどの女性票が(小池氏支持に)動いたのか気になる。ただ魅力ある政治家ではあり、将来の首相候補になる可能性はあると思う。

     選挙を通して感じたのは、やはり日本では若い政治家の台頭は難しいということだ。39歳で当選したマクロン仏大統領や43歳で就任したカナダのトルドー首相など主要7カ国(G7)諸国でも近年、若い世代がトップに就いているが、日本では当面はないだろう。入社して20年しないと管理職になれないような年功序列型の古い習慣が根強く残っているためだ。しかし、インターネットの普及で世界は劇的に変化している。グローバルな動きに対応するにはある程度、若い世代でないと難しい。

     若者の政治や社会への関心が薄いのも問題だ。フランスでは子どもも家庭や学校、クラスの中で政治を議論する。10歳の時にミッテラン大統領が当選した際の盛り上がりは今でも覚えている。だが、日本では子どもが政治を語るのはタブーだ。

     昨年から18歳投票が始まったのはいいことだが、今回、若者の約5割が自民党に投票したという。自民党の政策を支持しているというより、現状で満足しているようだ。これは安心、安定、安全を重視し、リスクを取ろうとしない若者の傾向の表れではないか。しかし、リスクがあるからこそチャンスもある。リスクがない人生はつまらない。もっと自信を持って自分の考えで人生を選べる環境を作ればいいのではないかと思う。

     今後、憲法改正が大きな政治テーマになるだろう。何をどう改正するのか。外国人が介入することではないが、9条の存在は他国にはない「強み」であることだけは指摘しておきたい。その上で日本国民が決めることは尊重したい。国民投票は選挙以上に国民一人一人の考えが直接、結果に反映される。安易に政府に任せるのではなく、しっかりと自分の考えを持って投票する。意見を政策に生かす貴重な機会を有効に使ってほしい。【聞き手・森忠彦】


    自民大勝に警戒感も

     米英首脳からは安倍晋三政権の継続を歓迎する声が寄せられた。トランプ米大統領は「強いリーダーが強い支持を得たのは非常に重要なことだ」と祝意を伝え、メイ英首相も「勝利」を祝福した。一方、韓国、中国からは憲法改正の動きとの関連で懸念の声も。韓国MBCテレビは「日本を『戦争ができる国』に変えるプロセスに弾み」と報じ、中国外務省は「中身のある行動を取り、両国関係を改善させることを望む」と注文を付けた。


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     ■人物略歴

    パク・チョルヒ

     1963年生まれ。ソウル大卒。米コロンビア大で博士号(政治学)取得。2012~16年ソウル大日本研究所長。今年1月から現代日本学会会長。専門は現代日本政治。著書に「代議士のつくられ方」など。


     ■人物略歴

    StevenR.Reed

     1947年生まれ。米ミシガン大博士課程修了。アラバマ大教授などを経て93年より現職。専門は比較政治学。著書に「日本の政府間関係:都道府県の政策決定」など。


     ■人物略歴

    ニシムラ-Poup〓e Karyn

     1970年フランス生まれ。2002年から日本在住。04年からAFP通信の東京特派員。仏雑誌などにも執筆。近著に「不便でも気にしないフランス人、便利なのに不安な日本人」。

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