秋カンリポート

総合優勝は阪南大・水野ゼミ 商品化でビジネスを体感

 10月9日、「スチューデント・イノベーション・カレッジ(Sカレ)」の秋カンファレンスが、立命館大学の大阪いばらきキャンパス(大阪府茨木市)で開かれた。秋カンは、26大学31ゼミがコンセプト1位を目指してプレゼンテーションを繰り広げるとともに、昨年の冬カンで商品化の権利を得たチームによる、総合優勝が決まる場でもある。

 プラン優勝に輝いたチームのうち、商品化が決まったのは5チーム。上位3チームは、いかにしてその栄誉を勝ち取ったのか。企業担当者の話とともに紹介する。【江刺弘子】

1位「もらってウレシい段ボール小物」阪南大・水野学ゼミ「B-SKET」

確かなユーザー目線、ニーズの裏付けが評価

 組立式簡易乾燥ベース「B-SKET(ビスケット)」は、美販(東大阪市)と上新電機(大阪市)とのBtoB(企業間取引)で計5000個の実績を上げた。BtoB向けの商品はSカレでは初。また5000個という販売実績も最高の数字だ。「1000個ぐらいと想定していたので、びっくりした」と水野ゼミチームは語る。

 冬カンの前に企業を訪問し、「優勝する自信がある。その際はぜひ商品化に協力してほしい」とPRしたという。

 「B-SKET」は、塗装したプラモデルを乾燥する際の道具だ。プラモデル初心者が困ることの一つは、塗装したものをどこで、どうやって乾燥するかだ。「ユーザーに一番近い感覚があった」と水野チームの西川貴之さん。ユーザーと企業の双方の視点が求められ、アイデアとコストとの調整に難しさを感じた。

 協賛企業の美販は、「彼らはどういう人が買うかをイメージし、ユーザーがこういう目的で、こういうふうに役に立つ」としたビジョンの明確さを評価した。同社の尾寅将夫さんは、好成績を残すチームとそうでないチームの違いについて、「『こういったところにニーズがあると思うのですが』と相談に来る学生が多い。そこで『ニーズがあると確認したのか』と聞くと、『思っただけ』と話す。しかし水野チームは、ニーズの裏付けがあった」と話す。

 商品化が決定した後、企業同士の交渉の場に同席した水野チームの2人は、自分たちが思っている以上にお金が動いているのに驚き、実際の商取引の会話にどこまでついていけるのかと緊張したという。交渉の場に学生の立場で入ることができ、「社会人の空間を味わったのは財産」と語る。さらにBtoBの知識を得ることもできた。

 「学生には、見たこともない商品を期待している」と美販の尾寅さん。「変わった段ボールでも、心に響けば難しくても作っていきたい」と語り、「ユーザー目線と、気付きをアクションに起す。この両輪が必要」と力説する。

 企業の求めを見事に商品に反映させた水野チーム。「自分たちはここまでできるんだと改めて喜びが生まれた。全国の大会で優勝し、阪南ブランドの名誉となったことが一番うれしい」と素直な感想を寄せた。

阪南大学・水野学教授の話

 優勝の決め手は「作り手の魂がこもった本気の商品」だったからと思う。水野ゼミには、すべてのゼミ生が言えるスローガンがある。それは「結果=才能×努力」。やる気のある学生たちが目覚め、結果を出すための方法論はこれだけ。学生は「自分で勝つんだというモチベーションを高め、そのための自己分析と努力をしていかなければ、長期戦であるSカレを勝ち抜けません。

 今回の優勝によって、彼らは大学に戻れば英雄扱いです。これは頑張ったごほうびです。頑張ったからといって常に結果が出るとは限りませんが、頑張らなければ、決して結果は出ません。

2位「介護福祉に役立つマグネット商品」法政大・西川英彦ゼミ「わってダース」

業界が見逃していた「音」に着目

 「わってダース」は薬管理ケースだ。美しい千代紙に包まれた、手のにひらに収まる丸い形。上面の中央にマグネットがふたのように設置され、左右に開くと、半月形の内側に薬を入れる仕組み。マグネットは冷蔵庫などにも付けておけるので、ケースそのものをなくす心配も少ない。

 ニチレイマグネット(東大阪市)の福岡重隆さんは、「ケースを開く時の『パカッ』という音の心地よさがユーザーの感性に働きかけている」と評価する。この「パカッ」という音こそ、商品化の決め手となった。

 西川ゼミのチームも、「開ける時の心地よさ」はポイントの一つと語る。既存のものは、つめを使うなど指先の動作が求められ、高齢者にとっては使いづらいものも少なくなかった。

 「『パカッ』は、マグネット屋にとっては当たり前の感覚なんです」と福岡さん。当たり前だったために、これまで気付かなかった領域だった。パッケージに千代紙を使った点についても、「既存のものは機能性を重視しており、いかにも管理されている感じ。千代紙のパッケージは圧倒的にかわいく、高齢者に喜んでもらえるものになっている。薬管理ケースからまさかこんなにかわいく、インパクト大のものが登場するとは思ってもみなかった」と評価する。

 実は「わってダース」は、秋カン以降に誕生したもの。秋カンでは、全く別のものを発表し、コンセプト2位に終わった。「マグネットだからこそ」なし得る商品を目指し、身近なテーマを模索したという。そこに出てきたのが、残薬問題だった。

 薬の飲み残しを防ぐために、持っていて楽しくなるケースを。「わってダース」のネーミングは「舞い降りてきた」そうだ。

 福岡さんは学生に対して「『メーカーはこう考えるだろうから』ということは気にせず、いいと思ったことを提案してほしい」と語る。

 「わってダース」の丸い形状も、「丸は接触する部分が点でしかなく、展開図が描けない。作るとややこしくなるので、もし自分たちが考案しても八角形になっただろう」とする。しかし実際に作ってみると、丸のほうが断然美しく、「これまできれいな道を閉ざしていたのかもしれない」と振り返る。

 「介護の現場でお世話になった方々に届けたい」「自分の作ったものを祖母にあげて、亡くなった祖父に報告したい」「マーケターになる夢を実現するため、就活に役立てたい」「商品企画に携わっていたという経験をアピールしたい」。Sカレの先を見据えて取り組んだという4人のメンバー。それぞれの思いが結実した。

法政大・西川英彦教授の話

 ニチレイマグネットは、新規事業の立ち上げのためにSカレに協賛し、その初年度に商品化を実現した。その意味では「わってダース」によって、ニチレイマグネットの新規事業の支援ができたことは、すごいと思う。

 ゼミ生が足でかせいだことが結果につながったと思う。ゼミでは、ニチレイマグネットはもちろん、デザイナーとの交流、そして巣鴨でのリサーチなど、現場に足を運ぶことを、ずっと推奨してきた。試作品を早めに着手して、何度もブラッシュアップできたこともよかったと思う。

 プレゼンテーションで学生は、どうしても調べた順番に発表していく傾向がある。ゼミではアップルのスティーブ・ジョブズ氏など、スピーチの上手い人のYouTube(動画)を見せて、ストーリーで相手に伝えることの重要性を説いた。

 Sカレを通して、「わってダース」の4人は全員成長したと感じる。きっと自信を持ったのではないだろうか。社会に出てからの励みにもなったはずだ。

3位「キットパスで『楽がき文化』の創造」関西大・徳山美津恵ゼミ「ASOBody」

イベント企画しプロモーション活動

 海外ではポピュラーになっているボディーペイントだが、日本での普及度はいま一つ。徳山ゼミのメンバーは、ボディーペイントがより多くの人の目にふれるよう、商品開発だけでなくイベントの企画も同時並行で進めていった。プロ野球のオリックスバファローズの協力を得て、7月に高槻萩谷バファローズ球場で開いたベストボディーペイントコンテストもその一つだ。

 協賛企業の日本理化学工業(川崎市)もその点を大きく評価している。キットパスポータル運営管理者の池辺孝さんは、「秋カンの時にフェースペイントやそれに近い企画は複数あったが、関西大チームは、イベントに積極的に参加をして、いろいろな人にペイントを体験してもらいながら、頭の中で考えた企画を体験型リサーチによって磨いてきた」とし、評価の上で大きなポイントになったと話す。

 ボディーペイント普及の観点から、商品には使い方がわかる動画の二次元コードを埋め込み、付録にはハウツー本をつけるなど、初めての人にもわかりやすいよう工夫している。企業側が肌への負担を心配していることに気付くと、同じくSカレの協賛企業であるDHCにアドバイスをもらい、パッチテストも行った。

 現在、「ASOBody(アソボディー)」は東京と大阪のロフトで先行発売され、来年2月以降は全国発売の予定だ。商品化決定後、さまざまな企業をプロモーションでまわり、ロフトでの販売にこぎつけたという。「1〜2カ月ぐらいの間に、約8社はまわった」とゼミ生の堺さん。

 当初、大学生をターゲットに開発したが、ふたを開けてみると、ファミリー層に人気という。店頭で体験した子供が保護者に購入を促すという流れのようで、リピーターも少しづつだが増えているという。

 堺さんは、商品化決定前は「自分たちが楽しむことが全面にあって、お金が動くという実感は薄かった」と明かす。しかし商品化が決まり、実際に企業人と事を進めていくにつれ、「やらないといけないという覚悟ができた」と語る。協賛企業の日本理化学工業だけでなく、卸会社や販売するロフトなど、「いろいろな企業をまきこんでいることが肌にしみた」。今では商品を見ては、「ここに置かれるまでには、すべての人のたいへんさが込められ、さまざまな人が深く絡んでここに至っているのだ」と感じるようになったという。

関西大・徳山美津恵教授の話

 ボディーペイントの商品は世にいくつも出ているが、手軽に使える初心者用の商品はなかったので、ASOBodyの商品価値は高いと思っていた。プロトタイプの時点で完成度は高いと感じていたので、ボディーペイントの面白さをいかに伝えるかに注力するよう指導した結果、音楽ライブでのイベント実施や、動画配信などプロモーション活動に力を入れてくれた。

 大学時代にメーカーだけでなく、卸、小売りの方々と交渉し、イベントを重ね、商品を売った経験は、これから必ず生かされてくると思う。交渉やイベントを数多くこなせる、フットワークの軽い行動力のあるチームだったので、この行動力を武器に社会人でも活躍してくれると思っている。

秋カン コンセプト1位は次のとおり。

「就職情報サイト『マイナビ』キラーコンテンツ」
大阪市立大学 小林哲ゼミ「自分地図」

「キットパスで『楽がき文化』の創造」
法政大学 西川英彦ゼミ「Kitpas Heartful」

「枡技術商品」
関西大学 岸谷和広ゼミ「Photomasu」

「もらってウレシい段ボール小物」
法政大学 杉浦未樹ゼミ「ガンボルダー」

「アスレジャー」
南山大学 川北眞紀子ゼミ「ママレジャー」

「DHCフイットビューティー・バック」
滋賀県立大学 山田歩ゼミ「美しく歩けるトート」

「大学生が思わず使うスマホアプリ」
大阪市立大学 小林哲ゼミ「タスクフル」

「チャックが主役になる商品」
日本大学 横山斉理ゼミ「カマタリ」

「介護福祉に役立つマグネット商品」
南山大学 川北眞紀子ゼミ「くるりっぷ」