シンプルがいい

「ぼくは、基本的に物への欲、物欲がないんですよ」

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 東野圭吾さんへのインタビューは東京都内のシティホテル、上層階にある開店前のラウンジバーで行われた。徐々に傾いていく夕日から差し込む光をブラインドで遮った一角で、東野さんはアイスコーヒーを飲みながら静かに語り始めた。

 東野さんにとっての「お気に入り」や「こだわり」、あるいは「手放せないもの」というのは何でしょうか?

 「うーん、物ってことですかねえ?ぼくは、基本的に物への欲、物欲がないんですよ。物を集めるとか、どこかに置いて飾って眺めるとか、そういうのはまったくなくて……。

 ただ、そういうこだわりがない分、結果として長い間、買い替えていない、つまりずっと使っているものはありますね」

 たとえば?

 「スノーボードが趣味で、仲間と日帰りで行く時はいつも決まって、2002年日韓ワールドカップサッカーの決勝戦を観戦して、もらった小ぶりのバッグ一つをぶら下げていくんですよ。これに身の回りのものを詰めてね。何ということはないバッグですよ。2002FIFAワールドカップサッカーのロゴが小さく書いてあって……」

 「バッグといえば、うちに17歳、人間なら100歳くらいになるオスのネコがいるんですが、高齢なので定期的に病院に連れて行かなきゃならないんですよ。その時、ネコを入れていくのは高校時代から使っていた、たぶんナイロン製みたいな、これも何ということもないバッグなんですけどね」

 どこかがとても気に入って、捨てられないというわけではないのですね。

 「全然、そういう感覚ではないですね。

 今している、この腕時計の前に使っていたのは父親から大学生の時、就職祝いとしてもらったもので、25年くらいずっとしていましたね。

 実家は時計屋をやっていましたが、ぼくが初めてもらった新品の腕時計でした。それまでは中古ばかり。客が修理のためにうちに預けても、お金が払えなくて結局、受け取りに来ないものが出てくるんですよ。1年くらいもすると、もう取りに来ないなと、そんな中古をもらってました」

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