物は1つか、2つあればいい

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 子どもはいろんなものを集めるのが好きなもんですが、物欲のなさは、小さいころからのことですか。

 「そうですね。だいたい家が狭く、自分の部屋はなくて、物を置いて飾っておくようなスペースがなかったんです。

 小さいころサンダーバードのプラモデルが好きで、よく作ったんですけど。母親がすぐに捨てるんですよ。『捨てていいか』とも聞かずにね。サンダーバードは1号から5号まであって、全部プラモデルを作ったけど、そろったことはなかったですね。片っ端から捨てられるので」

 お母さんのそういう躾けが今に生きているのですか?

 「躾けなのかな。ただ物は1つか、2つあればいいという考えを持つようになりましたね。そして、その1つ、2つを長く使っていると、それにまつわる多くの思い出ができるというのは好きですね。

 2002ワールドカップサッカーのバッグだって、人から見れば『まだそんなの使って』と滑稽だと思うけど、そのバッグにはいろいろな思い出があるんですよ。行った場所や会った人、やったことを思い出します」

 しかし、世の中にはこんなに物があふれていて、新しい物が次々に出てきます。たとえば、機能が一段とアップしたニューバージョンのスノーボードが登場したら、ほしくなりませんか。

 「なりませんね。そんなに機能がアップするはずはないと思っていますから。それよりも自分の腕をあげることの方が大事です。

 何も持っていないということが自分の基本なのだと思います。ないのが当たり前というか。住むところもないのが普通かもしれないとすら思います。物があるから便利、ないと不便ではなく、物があることの不自由、ないことの自由を考えてしまいます」

 あるとかえって不自由、ない方が自由だという考えですか。

 「ええ。たとえば、きょうもそうですが、ぼくはできるだけ物を持ち歩きたくないんですね。家の鍵と財布さえあればいい。携帯電話も別に必要はないと思ってます。携帯を家に忘れてしまって、途中で気がついても、まあいいやと思うだけで、取りに帰ったりはしません。

 たくさんの物に囲まれていると、なくしてもなくしたことに気がつかないんですよ。ところが鍵と財布しか持っていなければ、すぐに気がついて何とかします。できるだけシンプルにいたいのです」

  • JT
  • 日本推理作家協会