「『ユーモアと愛』は大人であることの必要充分条件」

3/3ページ
 

 ところで、柳さん本人は大人でしょうか。

「うーん。大人でありたいと思っていますが、なかなか……。

 小説家になって今年で11年目。ある意味、小説家という職業は大人であることが難しい職業だと、最近つくづく感じるようになりました」

 というと?

「作品に誠実であろうとすればするほど、一つの作品を書き上げる度に小説家は空っぽになります。その都度一から世界と向き合う新たな方法を模索しないといけない。これが例えば職人さんなんかだと、一度手に職をつければ、その技術を通じて世界とかかわりあうことができる。羨ましい気がします。小説家であり、かつ大人であり続けるのは至難の業です」

 何かこだわっている物はありますか?

「こだわっているわけではありませんが、推理作家協会賞の正賞として頂いた腕時計は大事に使っています。ちょうど前に使っていた腕時計が壊れたところだったので」

 今日のこの後のご予定は。

「一日の仕事が無事終われば、夜はたいてい飲みに出ます。今日も多分そうなると思います。たばこと酒は、高校生の頃に考えたように、大人の必要条件ではないですが、今でもまあ、十分条件ではありますね」

 最後に座右の銘があれば教えてください。

「『ユーモアと愛』。この二つも、私にとっては大人であることの必要十分条件です」

〈次回は10月3日(月)・佐々木譲氏掲載予定〉

 

柳 広司(やなぎ・こうじ)
1967年生まれ。2001年「黄金の灰」でデビューし、同年「贋作『坊っちゃん』殺人事件」で第12回朝日新人文学賞受賞。09年「ジョーカー・ゲーム」で第62回日本推理作家協会賞と第30回吉川英治文学新人賞を受賞。近著に「キング&クイーン」「最初の哲学者」「ロマンス」などがある。

次へ
  • JT
  • 日本推理作家協会