なぜ誰もやらないの

「誰もやっていないと感じると、じっとしていられなくなる」

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 江戸川乱歩賞受賞作「よろずのことに気をつけよ」の扉にあった和服姿ではなく、グレーのセーターにジーンズ、チェックのストールをまとって、取材場所のホテルのラウンジに現れた。デザイナーというもう一つの顔を持つ川瀬さん。当たり前だけど、「さすがにおしゃれだな」と思った。ところが話題が進むにつれて、「おしゃれな女流ミステリー作家」の隠れた素顔が少しずつわかってくる。奥深い、そしてちょっと怖くもある話にどんどん引き込まれていった。

 江戸川乱歩賞を受賞されて、変わったことはあります?

 「自分では変わったことはありませんが、文章を書いていることは家族と一部の人を除いて、一切言っていなかったので翌日の新聞を見て、ちょっとした騒ぎになりました。デザインの仕事関係の人には、ミステリーはまったく世界が違うことなので、『どうして?』『何が起きたの?』といった反応でしたね」

 「4年前に無性に何か書きたくなって、書き始めました。この4年間で20作くらい書いたでしょうか。だいたい原稿用紙800枚くらいの分量を一気に書き上げます。といっても家のこともやって、在宅でのデザインの仕事の合間を使ってです。『よろずのことに気をつけよ』は1カ月くらいかかりました」

 ミステリーを書いていたのも驚きだったでしょうが、山里にひっそりと息づく呪術が題材というのもまさにミステリアスだったでしょうね。きっかけは何ですか?

 「私は福島県白河市で生まれ育ちましたが、祖母が隣村にいて、よく遊びに行きました。昨年秋、その祖母の家で『よろずのことに気をつけよ』と書かれた祈とう念仏の紙を見つけたのがきっかけです」

 「祖母の家とその周辺の山にはよく行きました。山の中で遊んでも退屈はしなかったです。神社の裏でわら人形を見つけるとか、墓場に入るのもまったく怖くなかった。そんな子でした。家族では私だけですね、こういうタイプは。妹は極度な怖がり屋ですから。」

 デザイナーとミステリー作家に共通点はありますか。

 「何もないところから生み出していくこと、そして感性に頼るということでしょうか。小説を書くという作業も、私にとっては映像を文字化していくような感じなのです。だから、一気に早く書き上げないと勢いが弱まるというか、とにかく書き始めたら、先を急がないとイメージがどんどん薄まっていってしまうのです」

 デザイナーといっても子ども服のデザインですね。なぜ、そういう分野を選んだのですか?

 「学校を出て、デザイナーの仕事を始めようとしたころは、子ども服にデザインという考えはありませんでした。着心地、動きやすさといった機能面ばかりに目が向けられて。『もっと可愛く、もっとカッコよくできるのに、なぜ、誰もやらないのだろう』と思ったのがきっかけです」

 「誰もやっていないと感じると、じっとしていられなくなります。大人の服を子ども服にリメークするという発想、リサイクルではなくリメークですが、それを雑誌に持ち込み提案して連載にこぎつけ、最終的には本にしたこともあります。ちょっとした工夫で親も子も楽しくなるし、節約にもなるのです。その時もなぜ、誰もやらないのだろうと不思議でしたね」

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