壮麗なムダをやる

20歳のころ熱中したパイプ作り。「趣味というより自分との対話だね」

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 仕事場にしている東京都内のホテルの一室で、白いドレスシャツにジーンズの北方さんに会った。机上にはマス目の原稿用紙に万年筆。葉巻の香りが部屋に漂っている。「さあ、何でも聞いてくださいよ、どうぞ」。その見た目と、立ち居振る舞い自体がハードボイルドとも言える人だ。作品と同様に血わき、肉躍るようなエンターテインメントにしたいと、大それた思いでインタビューに臨んだ。

北方さんの若いころ、20歳のころはどんなことに熱中されていましたか?

 「今みたいに楽しむものは世の中にあまりなかった時でしたね。だから、ささいなものに一生懸命でした。ブライヤーの原木をやすりで削ってパイプをこしらえるのに熱中していたんですよ。1本に3カ月か4カ月くらいかけて」

 「小さいころから手先を使うのが好きだったんですね。小刀の『肥後守ひごのかみ』って知ってます? あれを使って、竹の刀だけでなくさやまでこしらえてました。近所の農家にあった砥石といしで肥後守を研いで、切れ味をよくしてね。でも、そんな上等な鋼は使ってないから、研ぐとすぐにちびちゃうんだ」

 パイプ作りの魅力は何だったのですか。

 「やすりで少しずつ削り出して形にしていくのですが、削るにつれて浮かび上がってくる木目がきれいでした。原木によって、原木のどの部位かによって、出てくる木目は違ってきますから一つとして同じものはない。それも削り進んでいくと新しい木目が現れたり、木目の様子が急に変わったり、まさに千変万化ですよ」

 「すべての作業が楽しかった。続けていくことが、その過程がとにかく楽しくて仕方なかった。もっと粘ったら木目が微妙に変わるんじゃないか、もっと注意深くやってみたらどうなるか、と試行錯誤を重ねました。趣味というよりも自分との対話だね。料理だってまったくそう、自らとの対話ですよ」

 料理もお好きですか?

 「今はスモーク、薫製に凝っていてね、ジビエのスモークなんて最高ですよ。最近は畑を荒らすイノシシが増えて、駆除しなきゃいけないから野生のイノシシの肉が割と手に入りやすい。これを1カ月かけて仕上げるんだ」

 1カ月もかかるんですか。

 「まず殺菌のため、肉のかたまりを70℃で20分間ボイルする。次はこのかたまりに岩塩などをまぶし3日間、水分と血を抜くんです。その後、小さな針を全体に刺してスパイスをまんべんなくまぶす。ワインとニンニクなどで作った液に漬け込んで2週間、冷蔵庫に入れておく。ただ入れておくだけでなく、途中で肉を時々もみ、液の中での位置を変えなきゃいけない。その後、水分を拭き取って時間をかけて乾燥させて、いよいよスモークの準備が整うわけです」

 そこでまた一工夫ですか。

 「チップの中にグラニュー糖を加えるとね、香りがよくなる。チップ材はブナとナラ、そしてヒッコリー、仕上げにサクラと木の種類を順番に変えていく。香りと味わいが一段と深く複雑になるんですよ。この間、8〜9時間かかるけど、目を離せないからつきっきりの作業です」

 聞くだけでうまそうですが、やっぱりうまいですか?

 「そりゃあ、うまいよ。自分で作ったスモークを切って、強い酒、グラッパとかカルバドスとかと一緒に食べるんです。そして、葉巻もやるんだ」

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