「嗜好というのは最初からあるものじゃない。そこまで高められるかどうかは人間の力なんですよ」

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 今の若い人に何を求めますか?

 「ご飯をきれいに炊けるかどうか、ですよ。ちゃんと料理を身につけろよ、ということです。たとえば炊き込みご飯を上手に作れたら、これだけで女をもてなせるわけですよ。手料理を食べさせられれば、それはもう無敵ですよ」

 「草食系と言ったって20歳くらいの男は女にもてたいはずです。だったらファッションに走るのではなく、もっと独創的なこと、誰もやっていないことをやってほしい。料理を身につけてほしい。女も化粧に1時間もかけるなよ、と僕は言いたい。それでデートの待ち合わせに遅れたりしたら、承知しないよ」

 独創的といっても、何をやっていいかわからないという若者が多いようです。

 「何をやっていいのかわからない、なんてことはあり得ない。たとえばだしをひいてみそ汁を作る。だしをひくのは実に奥深い、それを究めればいい。体育会系だったら、自分でご飯を炊いて、おにぎりを握って練習にいく。具を何にするか? 塩加減は? そんなところから何かが見えてくる。おにぎりだって、難しいんだから」

 「嗜好というのは最初からあるものじゃなくてね、そこまで高められるかどうかは人間の力なんですよ。時間のムダでいいんだ。壮大で美しい、壮麗なムダをやったらいいんですよ。僕のような年になると、若い人ほどの可能性はなくなる。時間がないからね。でも、若い人は違う。人生の意味を知るために何かに打ち込んでみたらいいと思いますね」

 料理にこだわりだしたきっかけは何ですか?

 「30歳代で自分で工夫しながらカレーを作って目覚めたんですね。僕のカレーは2週間かかるんだ。家族には『お父さんのカレー』と呼ばれ、今でも時々作るけどね。くず野菜を煮てブイヨンを作り、肉の骨を加え、ミキサーにかけた野菜を入れる。僕のカレーはキーマカレーなんだけどね、ひき肉は買わないよ。肉は自分でたたいてひき肉にしていきます」

 「ただね、ルウだけは結局市販のものに勝てないと悟った。最初はなんとかやってやろうと思ったんですよ。モロッコの市場で珍しいスパイスを買ってきたりしてね。10年かけて市販のものに立ち向かったけど、だめだったなあ。カレーのスパイスっていうのは30種も40種も入って、大量に作る前提でうまい具合に調合して、あの味が出るんですね。自分でそれだけのスパイスをそろえても、少量しか必要ないのでちゃんと調合して僕の味を出すのは無理でした」

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