畏れを持ち探求する

きれいな植物や魚は「名前も生態も知りたい」

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 毎日新聞のかつてのインタビュー記事には「謎めいた人」という表現があった。どんな人だろうかと胸を躍らせながら、東京西部、「多摩地区」の八王子駅そばのホテルのメーンバーで待った。現れた篠田さんは、170センチ前後の長身で「エレガント」という形容詞が似合う女性。謎めいた、という言葉もうなずける。照明を落としたメーンバーの中で篠田さんの周囲だけが、薄明かりを放っているような印象を持った。

 ずっと、生まれ育った八王子に住んでおられますね。この街がお好きですか?

「この街の中で何度か引っ越しています。小さいころは中心部に住んでいましたが、少し郊外に出れば緑があってちょっとした丘があり、ヤマユリが咲いている。田んぼもあって、オタマジャクシもいて、自然の水辺がありました」

「それから結婚などで引っ越して、だんだん奥の方に入っています。今住んでいるところは12年くらいになりますが、どんどん宅地化が進んで、あっという間に木は切られ、雑木林もほとんどなくなってしまった。そういう意味では八王子はどういう街を目指しているのか、いまひとつ分からない」

 東京の中心部のカラーがどんどん侵食している感じですか。

「昔はやたらに人が入ることを拒む場所がありました。『マムシに注意』なんて看板もあって、やたらに入るな、ここから先は人の領域じゃないよ、という場所がね。入るにはそれなりの注意をしなければいけないんですね。そうした本来の意味での畏れをふくんだ自然がなくなっているのは、問題だと思います。そうやってリスクを取り除いて、結局、人間を劣化させていくんじゃないでしょうか」

 そうした自然との接し方を今も続けていて、旅行にはいつも植物や魚類のポケット図鑑を持ち歩いているとか。

「ああ、きれいだなというだけでなく、名前も知りたければ、生態も知りたいという気になってきますね。紀行文の取材をセットされて、たとえば奄美大島とかに行くのですが、向こうがおぜん立てした場所だけでなく、ついつい夢中になるのは海の中やハブの生息する原生林の中なんです。そこでストップをかけられないうちは、いつまでもそこで遊んでいたい気分です。原生林ならば長靴をはいて谷底に下り、海なら水の中に入らないと楽しくないですね」

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