深みにはまる

できないことができるようになるのが面白い

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 デビュー作は国境を越えて悪を操る男がヒーローだった。そして、物流システムに画期的な改革をもたらすビジネスマン、過疎の町の町長として起死回生策を練る商社マン、夜の銀座にうごめく男女、遠洋漁業に出る男と息子などを描く一方で、実家に残した親の介護に悩む中年サラリーマンもテーマにしたことがある。近作では、バブル崩壊の象徴でもある戦後最大の経済事件として知られるイトマン事件を取り上げた。小説家としては広いフィールドを持つ人だが、インタビューを通じて浮かび上がったのはとてもマニアックな素顔だった。

 ゴルフが大変お好きだと聞きました。キャリアは長いのですか?

 「始めたのは10年前です。サラリーマン時代は、ゴルフをやっている人たちが嫌いでした。カンカン帽かぶって、いいおじさんがポロシャツとスラックス姿の妙な格好してね。『何が楽しいんだ。俺はこのスポーツだけは絶対にやらないだろうな』と思ってましたよ」

 どんな心境の変化があったんですか?

 「妻の父がゴルフの達人で、ゴルフ命でしてね。で、お酒飲めないんですね。だから、なんとか共通の話題を持ちたいと考えて…。古いクラブを譲ってもらって始めました」

 始めてみると。

 「面白い! どっぷり、はまりました。今は年間50から70回コースに出ています」

 ハンディはどのくらいですか?

 「ハンディは持ってないんですよ。スコアを追い求めないので」

 スコアではなくて、何を?

 「できないことができるようになるのが面白いんです。だから、ひたすら難しいことばかりやってます。たとえば、アプローチはどんな距離でもロブショットばかり1年間続けるということをしたりするんです。納得するまでやります。まわりが『なぜ、転がさないの』と言ってもね」

 「ゴルフはハードルが高いスポーツです。技術の面では、一つとして同じものはないシチュエーションで、さらに道具の選び方や打ち方など、さまざまな選択肢がある。そうした組み合わせの面白さがあります。そして金銭的にもハードルが高い。道具に凝り出すと、お金がいくらあっても足りませんから。本当に奥深く、その深みにどんどんはまっていく。それがゴルフの魅力なんですね」

 見るのも、好きですか?

 「見るのはつまらないですね。米サンフランシスコで一度観戦したことがありますが、ゴルフ場は広すぎて、まず見るポイントが限られています。ティーグラウンドから見てると、プロのドライバーショットなんて、私たちとは飛距離と弾道が違いますから、私たちと同じつもりで視線を動かしてもボールを追えない、どこに飛んだのかわからないんです。面白くないですね。なのに、なぜ、あんなにギャラリーがいるのかな。不思議ですね」

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