ワインは自分へのご褒美

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 ゴルフと並んで、お酒がお好きと聞きました。

 「365日、毎日飲んでいます。これと決めたら、それ以外は飲みません。で、毎日飲むのはプレミアムビール。非常に洗練された味で、おいしいんですよ。すごく気に入ってます。時々、自分へのご褒美で飲むのはワインの『ケンゾーエステート』ですね。これは本当に素晴らしいワインです」

 ケンゾーエステートですか?

 「漫画家の弘兼憲史さんに誘われたワイン会で初めて飲んで、びっくりしました。『これはすごいぞ』って。ゲームメーカー『カプコン』の会長の辻本憲三さんが20年以上前に『最高のワインを造ろう』と私財を100億円以上投じ、米カリフォルニア州ナパバレーで始めたワイナリーです。10年かけて、ハイグレードのワインができたんですが、ここからの話がすごい」

 「著名な栽培家でデイビット・アブリューという人がいて、その人に『もっといいワインを造りたい』とアドバイスを求めたら、彼は『木を全部植えかえなければだめだ』と言ったんです。で、植えたブドウの木を全部引き抜きゼロからまた始めた。それから10年かかって、4、5年前にやっと満足のいくワインができたのです」

 すごい話ですね。

 「ケンゾーのワインは『ai(藍)』『murasaki(紫)』などと名付けられ、『ai』で2万円ちょっと。他のナパワインに比べても安い。実際、辻本さんとチームを組んだハイディ・バレットという伝説的な女性醸造家は『そんな安いワインはあり得ない』と怒ったそうですが、辻本さんの『法外な値段で、飲む人がいないようなワインは造りたくない。飲まれないワインを造っても仕方ない』というポリシーを押し通しました

 「そうは言っても、ポンポン抜くわけにはいかない貴重なワインですが、原稿を書き終わった時とか、本ができあがった時とか、ひと仕事終わった後にご褒美で飲むんです。それは本当にうまいですね」

 飲み屋や食べ物屋の好みも、これと決めたら、ですか?

 「最近はあまり外食はしません。家飲み派ですね。妻の手料理をさかなにやるのが一番いい。行きつけの店というのも少ないですね。知らない店に行くことはほとんどないなあ」

 「会社員時代には経堂(東京都世田谷区)の居酒屋『あさひや』に、日本にいる間は、ほぼ毎日行ってました。ご主人が亡くなって、いまは店を閉じてしまったのですが、昔はあさひやを中心に住居を決め、移動していました。会社の帰りに経堂に降りられることが条件で小田急線沿線に住んだりしました。麻布に住んだこともあったけど、飲みに行く時は一度帰宅して、また電車に乗って行ってましたね」

 そこまで通い詰める魅力があったのですね。

 「あさひやは『伝説の名店』ですね。電話がない、冷蔵庫もない。昔ながらの氷箱なんですよ。軒先に氷を浮かした容器があって、そこにビールがつかっている。手作りのぬか漬けが1人前80円、お通しはタダ。毎日、自分でいったピーナツでしたね。秋から冬にかけてのカキ焼きが一番高い単品で、これが150円」

 「居心地のいい空間でした。それはそれは素晴らしい店でした。4時くらいからいっぱいになって。客同士のけんかなんてもんも一切なかったしね。とにかく安いから、『お釣りはいらないよ』という客も多いけど、おじさんはそれをお手伝いのおばちゃんにあげちゃうんだ。南方戦線の生き残りのおじさんは博識で、顔がフランキー堺にそっくりだったなあ。いつもニコニコ、ニコニコしてね」

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