とにかく10年やればいい

10年やれば、何にでもなれると思っていました

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「好きな曲を部屋の中に流して、頭の中を空っぽにしながら木彫りをしています。シャコシャコと音を立てて木が削れていく感覚が気持ちいいですねえ」と、にこやかに話す香納諒一さん。重厚な長編小説の書き手として根を詰める日々が20年近く続いていたが、2年前から木彫り教室の生徒になり、ピアノも習い始めた。「家の中では小説を書くだけ」の生活に潤いが生まれた。「"生活"のとらえ方が柔らかくなってきました」と、表情も柔和に語り出した。

 作家の方には珍しい趣味ですね、木彫というのは。どんなきっかけから始められたのですか。

「2年ちょっと前に、私の住む目黒区の区報に木彫り教室の記事が載っていまして、これだと。昔から木を彫りたいという気持ちがありましたが、なかなか機会がなくて。文字や小説は平面ですが、木は立体、木彫りは形あるものを作る。今までと違うものがそこにあるのではないか、という期待感が湧いてきまして、申し込んで生徒になりました。この目黒区のあたりはお寺さんが多くて、仏像や石像が多くあるんです。師匠は石屋さんで、このあたりでたくさんの石像を作ってきた方ですが、今は引退して悠々自適です。区の教室が終了後、私が木彫りの会を立ち上げまして、今もその方に、私を含め7、8人の生徒が習っています」

 子どもの頃から、そういう工作が好きだったんですか。

「いえ、それが逆で、小学校の時から図工や技術家庭がものすごく苦手でした。文字を書く以外はまったくできない子でした。絵も下手でしたし、物を作ることそのものが苦手でした。でも、苦手でやってこなかったもののほうが、楽しく遊べると思ったんですね。」

 実際にやり始めてみて、木彫りの魅力とはどんなところですか。

「とにかく木を彫る感覚が気持ちいいんですよ。それに、一カ所として同じに彫る箇所がないんです。例えば頬のカーブは、一カ所として同じじゃないでしょ。仏様の頬を美しく滑らかに彫るのは難しいですが、それが同時に楽しいですね。角材を使って立体的な仏像を作るときは、胸のふくらみと肩の線を、どううまくつなげるかが難しい。始めたころは彫刻刀に力が入って、手のひらの皮がすりむけましたけど、今はもうむけません。室内でちょっとの時間でもできるので、楽しんで遊んでいます。」

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