ふるさとの記憶

早く出たかった。でもやがて帰りたくて仕方なかった

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 少年時代の思い出は、消去・削除したいメモリー、時々浮かんでくる楽しい映像、頭から離れないトラウマ、心の隅にしまっておきたい宝物、など人によってさまざまあるだろう。だが、それらを直視して客観化できる人は少ない。ましてや、それを物語として表現できる才能の持ち主も多くはない。小説家といえども、書ける時期が来ないと書けないのかもしれない。少年時代を送った福岡県大牟田市を舞台にした長編小説「地の底のヤマ」は、内的必然というタイミングを逃さずにミートした好球必打の作品かもしれない。

 大牟田市という、日本有数の石炭生産地だった街が舞台です。

 「小さいころは同じ福岡県の久留米市にいましたが、私が6歳の時に大牟田にやってきました。父が医者で、私が高校進学で鹿児島市にある学校に行くまで、小学校、中学校は大牟田でした」

 子供心に大牟田は好きな街でしたか。

 「6歳の時にこの街に移ってきたものですから、学校ではむちゃくちゃいじめられましたね。ぼこぼこにされたりしましたし。早くここから出て行きたいとばかり思っていました。ところが、一度あそこを出ると、今度は逆にすごく寂しくなるんですよ。実家が大牟田に残ったこともあり、帰りたくて帰りたくて仕方がない。飛んで帰ったことが何度もありました。今も父は現役でいますし、弟が医者で大牟田にいますから、僕も時々帰っています」

 炭鉱の町で、ヤクザ者とか荒くれ者も多かったという印象がありますが。

 「僕の通っていた中学校もガラが悪いというか、校門のところにヤクザ者がたむろしていて、番長らに『うちに来んか』と声かけて、今でいうリクルートしていましたからね。そういう雰囲気を肌で知っていたからこそ、この小説の中でも生き生きと描けたと思います」

 では、ヤクザ映画などはもう見るのもイヤですか。

 「それが、むしろ逆で、大好きです! よく見ました。ヤクザ映画博士と言われるくらいです。まあ、師匠がいるんですけどね」

 どんな映画がお好きなんですか。ベスト3を挙げてもらうと。

 「昭和残侠伝、仁義なき戦い、仁義の墓場、ですかね。高倉健主演の昭和残侠伝シリーズ全9作のDVDを全部持っています。時々見ながら、画面の池部良と『唐獅子牡丹』の歌をハモって歌っていると、バカねと妻が言ったりして。アクション映画はカミさんも好きなんですが」

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