コンマ何秒かの攻防でも、文章では5行にも10行にも膨らませて書ける

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 その後すぐに小説家の道に?

 「バンドの終わりごろと、少し重なる感じですかね。90年代の後半で、インターネットが普及し始めた頃でした。格闘技専門の有料サイトを立ち上げた人とたまたま飲み会で出会って、パンクラスの試合リポートを書ける人はいないかと言うから、興味があった僕はすぐ『やります!』と手を挙げました。後楽園ホールで一日中昼夜ぶっ続けで若手の試合を見続けたこともあります。僕は一切メモを取らないで、MDレコーダーに実況中継風に録音しておき、家に帰ってからそれを文字に起こしていました。何しろメモの取りこぼしがないので、僕のだけやたら一試合が長くて。そしたら、校正するのも面倒だったのでしょうか、僕の文章をそのままアップしてくれました」

 それから?

 「そのうちに、試合展開を描写するのが面白くなってきたんです。相手の攻撃をさばいてハイキックを打ち込む、そんなコンマ何秒かの攻防でも、僕がすごいと思えば、文章では5行にも10行にも膨らませて書くことができる。文章って面白いと思い始めました。でも格闘技ライターではなかなか食えないことがわかっていましたから、どうせ文章を書くなら、小説家になろうと。幸い、2〜3年でデビューができました。たぶん向いていたんでしょうね」

 そもそも小説家になろうと考える前に、小説そのものはよくお読みになっていたのですか。

 「読書経験でいうと、始まりは角川書店が横溝正史さんの『犬神家の一族』などを映画化したメディアミックス黎明期れいめいきですね。『読んでから見るか、見てから読むか』というテレビCMもありました。僕が8歳の頃でしたか、それに影響されて、文庫本を読むのがカッコいいと思い込んだんですね。六つ上の姉が文庫本をよく読んでいたので、『僕に読める文庫本ある?』と聞いたら、『あんたが読めるのはこんなもんかねえ』と渡されたのが、星新一さんの文庫本『ボッコちゃん』でした。さすがにショート・ショートなのですぐに読めましたけど、でもまだ長編は敷居が高いなと。そのうち星さんの文庫本にも長編小説があると知って、『ブランコのむこうで』にチャレンジしたら、読めた! それで俺は長編もいけると。まあ、それでも相当短かったですけどね」

 それから文学青年に?

 「いえいえ、僕に文学青年の要素はかけらもないですね。それからは筒井康隆さん、眉村卓さん、平井和正さん、夢枕獏さん、菊池秀行さん……に行き、この世界にハマりました。20歳代半ばには、『リング』『パラサイト・イヴ』などホラーブームがあって、ホラー文庫を読みあさりました」

 小説を書き始めたのは、どんなきっかけからですか。

 「当時、第1回ホラーサスペンス大賞の募集があって、それに応募しようと。吸血鬼が主人公の話で、しかも江戸時代と戦国時代と現代が三つセットになっている小説を書きました。書き終えた時は、俺は天才だ、もう賞金1000万円はもらったも同然と思っていました。実際に応募して、最終選考に残った作品はネットで発表されるんですが、でもそこに自分の作品名はなかった。残らなかったんですね。しかも駄目だったという結果だけで、何が悪かったのかは分からず、応募原稿をわざわざ読んでくれた親切な友達から意見を聞いたりしました。そこで次は、書きやすかった現代の話を引き延ばして書くことにしました」

 2002年に「妖の華」で「第2回ムー伝奇ノベル大賞」優秀賞を受賞、翌2003年には「アクセス」で「第4回ホラーサスペンス大賞」特別賞を受賞するなど、順調な滑り出しでした。その後ベストセラーになった「ストロベリーナイト」など一連の警察小説が人気を呼びましたが、この辺のいきさつは?

 「現代の警察ものを書こうとしたとき、僕の警察の知識は(石原裕次郎のドラマ『太陽にほえろ!』の)七曲署レベルで止まっていて、現代の警察知識がまったくないことに気づきました。面倒くさいな、でも調べないと書けないなと、まずは『ミステリーファンのための警察学入門』という本を読み、警察組織のあり様を理解して、それから『警察小説セレクション』の中にあった『マークスの山』『百舌の叫ぶ夜』『新宿鮫』などを読んでみて、なんとなくつかめた気になって、試しに書いたのが、姫川玲子を主人公にした作品でした。実は、僕はバンド時代に曲も詞も書いていて、その中に殺人ショーを題材にしたものがあったんですが、さすがに歌っていてつらいのでボツにして、録音もしませんでした。でも小説ならそういう内容でもいいのではないか。それを姫川玲子シリーズに使いました」

 バンド時代に作詞作曲して、いったい、何曲くらい作ったんですか。

 「音源に残っているのは三十数曲ですが、そうですねぇ、全部で100曲くらいは作ったんじゃないですか」

 ロックのフィーリングで、曲や歌詞が次々わいてくるんですか。

 「いえ、僕は天才タイプじゃなくて、論理を組み立てて作っていくタイプです。インスピレーションがわいても、それを作品にするまでの工程を考えて、自分の方法論に照らして検討しながら作っていきます。それは音楽だけでなく、小説作りも同じです」

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