最初から最後まで壁の中にいるような感じでした

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 さて、今回、日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞された小説「百年法」ですが、ウイルス接種によってすべての人が不老不死の恩恵を享受する、という物語ですね。唐突な質問ですが、山田さんご自身は、長生きしたいですか。

 「病気にはなりたくないなとは思っています。とくに年齢が進むにつれて、いろいろ弱ってきますから」

 構想10年と聞きましたが、そもそもこういうストーリーで書こうという源は、どの辺からだったのか。

 「不老不死の物語は、昔からいろいろありました。10年前にその種のものを読んだとき、不老不死ってそんなにいいものなのか、もし本当に実現したら喜んでばかりいられないんじゃないか、と疑問がわいてきました。ではどうなるのか、寿命を制限する必要が出てくるのではないか、というのが最初の着想でした」

 そこから、上下2巻、700ページを超す長編小説が書かれたわけですが、大学院を出てから薬品会社にお勤めだったので、その分野の専門知識がだいぶ役に立ったのでしょうね。

 「それが、そうでもないんです。この小説の執筆に関しては、まあ、ウイルスとはどんなものか程度の知識がヒントにはなりましたけど、専門知識が役立ったということはなかったですね」

 これだけ長いと、どこら辺で「うん、これは書ける!」という手ごたえを感じたのですか。

 「いやあ、最後の数行までなかったですね。最初に着想した時は面白いと思ったんですけど、これはというストーリーを作れず、何かありきたりのものになってしまった。これじゃダメだと。そうこうしているうちに、似た内容のコミックが先に出てしまった。あ、もうこれは書いても二番煎じになるからやめようと、その時点でボツにしたんです。ところが、その後、編集者と雑談しているうちに、それ、面白いから原稿書きませんか、と言われてから、再び書き始めました」

 それからは、"壁"も感じず、スイスイと書き進めた?

 「いえ、最初から最後まで、壁の中にいるような感じでした。いちおうプロットは考えたのですが、書いているうちにいろいろ変わってしまい、4部構成のうちの第2部まで書いたところで全面的に破棄せざるを得なくなりました。第3部以降はまったくの白紙状態となり、しばらくは何も書けない状態が続きました。第2部を書いてから第3部に取りかかるまで、何週間かありましたね」

 そんなとき、どうするんですか。

 「何かにすがるんです。ゲンを担ぐ。例えば、カレーを食べたら割とうまくいったから、調子が悪くなった時は、よっしゃ―、今日はカレーにしようとか。まあ、何回もやると神通力も落ちてきて、胃がもたれたりしましたけど」

 結局、何がきっかけで壁を突破できたのですか。

 「ある日、第3部の1行目の書き出しが降ってきたんです。そのときのことはあまりよく覚えていないんですが、あ、これで書き終えられると確信しました」

 よく役者が、演じている人物に完全になり切って、乗り移ったかのような瞬間、「その人物が降ってきた」と表現することがありますが……。

 「その憑依(ひょうい)とは違うと思いますが、やはり降ってくるんですね。僕はパソコンに言葉を打ち込んでいますが、それは自分で言葉を考えているのではなく、もともと全部そろっている言葉を一つ一つ見つけているだけだという気がします。だから、何か文章を書いても、これは違うぞ、本物の言葉は別にあるはずだ、どれだ、と探すプロセスが結構ありました。無理に書き進めても、すぐに止まってしまう。やはり1行目が降ってくるまで待てるかどうかです」

  • JT
  • 日本推理作家協会