待つのが好きです

受賞を知らされた時は昼寝をしていて、今のは夢だったのかと。

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 「昨年は仕事をせずに、ほとんど主婦をしていました」という若竹七海さんに、今春、第66回日本推理作家協会賞の受賞(短編部門)が決まった。1991年に「ぼくのミステリな日常」でデビューして以来、シャレた女探偵やポリス猫が活躍する明るく楽しいミステリーなど多彩な作品を数多く発表してきたが、今回の受賞で無冠を返上した。選考会の日は、さぞや発表まで緊張したのでは、と思い込んで質問したところ、意外な答えが返ってきた。

 今まで何回も候補作に挙がっていましたから、今度こそというお気持ちがあったのでは。

 「そうですね、5、6回目になりますか。でも、今回は昼寝をしていました。電話でいきなり『おめでとうございました』と受賞を知らされて、電話を切った後、今のは夢だったのかと。というのも、他の候補の方の名前を見て、今回は私の受賞は絶対ないな、と思っていましたから」

 やはり待つのはつらい?

 「1回目のノミネートのとき、やはりすごくうれしくて、私の担当の編集者に連絡したら、『いちいち連絡してこなくていい。事務局からこちらに連絡が入るから』と、ものすごくクールに言われて、あ、騒いじゃいけないんだと。それがトラウマになって、もう二度と騒ぐまいと。そう刷り込まれました。だから、その後も編集者の方々から『みんなで結果を待ちましょう』と言われても、いやいやそんなことをしてはいけません、と」

 今回の受賞作「暗い越流」は、多摩川の氾濫を隠し味にしていますね。読みながら、山田太一さんの脚本でテレビドラマになった「岸辺のアルバム」(1977年、TBS)が頭に浮かびました。

 「みんな、そう連想されるようです。書くときに参考にしたものはありませんが、この作品はまず頭の中でざっと書いて、あとから手直しをしていきました。私の書き方は、一つのネタを決めて、こういうトリックで、こういうオチで、と最初に決めることが多いです。でも書いているうちに、これは面白くないからと変えることもあり、予想がつかない時もある。受賞作では、死のうとしてもなかなか死ねないという運のいい男の話で10枚ほど書き進めた時、こんな話じゃ詰まらないと。そこで、語り手のキャラが面白いので、こちらの方を肉付けしていきました。そういう状態にさらされると、どんどん内容が変わっていくんですね。メイントリックがメインではなくなりました」

 確かに、運のいい男は最後のどんでん返しのための入り口に過ぎなくなっていますね。

 「だから、はじめに考えていたタイトル『強運の男』が使えない内容になってしまいました。そこで無理やり旦那に作品を読ませて、いいタイトルを付けろと。それも、松本清張みたいなタイトルを、というリクエストで。結局、いかにも清張っぽいタイトルを付けて、淡々と出しました」

 その旦那さん、小山正さんも、今回の日本推理作家協会賞では、「ミステリ映画の大海の中で」が評論部門の候補作に挙がっていました。

 「夫婦で作家というカップルは何組かいるから、一緒にノミネートというのは今までにあったかもしれないですね。でも今回、旦那が賞を取って私が取れなかったらイヤだったなあ」

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