好きな道を走る

常に自分をニュートラルな位置に置いておく方がいい

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 「午前3時のルースター」でサントリーミステリー大賞と読者賞のダブル受賞という鮮烈デビューから13年。「ワイルド・ソウル」では大藪春彦賞、吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞のトリプル受賞など、エンターテインメント小説で数多くの話題作を生み出してきた垣根涼介さん。今夏、初めての歴史小説「光秀の定理レンマ」を出版し、中世地下人を描く次作も執筆中という。作家として大きな転換点に立つ今、好きなクルマに乗ってインタビュー会場に登場。「好きなことをやってきただけ」という足跡を縦横に語っていただいた。

 クルマがお好きだそうで。いつからですか。

 「最初は高校生の終わりから。クルマではなくバイクからでした。大学受験勉強も一段落したので、50ccのギア付き原付き、ホンダNB50というバイクです。その後、筑波大に進んでから自動二輪の免許を取り、250、400ccのバイクに乗っていました。大学時代にはよくツーリングに行きました。最初の年には、全国一周。気に入ったのは四国の南と北海道。夏休みの2カ月、冬休みと春休みのそれぞれ2週間、よくツーリングに出かけていました」

 ツーリングというと、何人かグループで?

 「いや、ほとんど一人旅でした。2〜3日のツーリングは、仲間と一緒に行くこともありましたが、それ以上の長旅では一人の方が楽なんです。集団で行くと、ペースやスピードを他の人と合わせないといけないので、最終的には疲れます。それに旅先での出会いの楽しみがなくなります。一人旅の方がいろんな人と出会って親しくなることが多いですから」

 青春時代ですから、女の子との出会いもあったでしょうね。

 「当時から女性ライダーはいましたから、時々旅先で出会って親しくなった女性もいましたね。この次どこ行くの、あ、そう、僕もそっち行くから一緒に行こうという場合もあるし、ではここでお別れという時もありました。出会った女性の地元に遊びに行ったこともありましたね。でもお互い離れていますから、付き合いが長続きしたことはないですね」

 オートバイの魅力は何ですか。やはりスピードですか。

 「いえ、僕の場合、バイクを自分が乗って心地いいように調整、改良していました。スピードではなく、自分の好みの走り方にバイクを合わせるんです。エンジン、マフラー、キャブレターなど、まあカスタムメードというんですか。そうして心地よい走りができたときなど、人馬一体というか、自分とバイクとシンクロするときがありますね。これは、散歩の時や水泳をしているときも同じで、手の振り脚の振りが自分の感覚に合っているなと感じた時は、まるでトリップしたようないい感じになります」

 大学卒業した後、リクルートに就職していますが、バイクはその後、どうされました?

 「仕事が忙しくて、しばらく乗る暇がありませんでした。社会人になって28歳の時に結婚したのですが、もう二輪は危ないかなと手放して、その一年ほど前に自動車を買いました。どうせなら気に入った車を、と。マツダのユーノス500 20GTIでした。カッコよかった。本当に欲しかった。注文生産で330台しか作られなかったとか。それをまた、自分なりに調整して、いろいろな国から部品を取り寄せ組み合わせて、自分好みの走りをするように改造しました。新車価格の3倍は掛けましたね。足回り、吸排気系、車体補強、電装周りはむろん、オーディオも車内を一つのコンサートホールにしようと、音の反響をよくする部品をいろいろ組み合わせました。外装も既に二回塗り替えてますしね(苦笑)」

 それに20年近くたった今も乗っているわけですね。よほどいいクルマなんですね。

 「いえ、正直、これは冷静な目で見ると欠点だらけで、いいクルマだと思ったことはほとんどありません。でも欠点はあるけど、好きだからしようがない。だから、改良して乗り続けている。

 僕は、いいもの、世間で価値が高く認められているものと、自分が好きなもの、欲しいものとはわりと分けています。いいものは突き詰めていくと汎化できる文明になっていく。でも、好きなものは人それぞれでもいいでしょう? それが、嗜好や文化ということじゃないでしょうか」

 でも、垣根さんはずっとブレずに生きてきている印象がありますが。

 「それは違います。僕の人生、ブレっ放しですよ。離婚もしたし職業も四つ変わりましたし。ただ、好きなものが変わらずあるだけですよ。

 ブレずに生きるのがカッコいい、あるいはこだわりがある生き方が美しい。そういう考え方もあるかもしれませんが、そうじゃないあり方だってアリだろうとも思っています。まず、今の自分のあり方を疑うのが大前提ですよ。あるものが好きな自分と、一方で冷静に見ている自分が絶えずいる。つまり相反する自分を常に持っている生き方のほうが、ぼくには向いているような気がする。ブレてもいいから、常に自分をニュートラルな位置に置いておく方がいい」

 中南米への移民政策という日本政府の国策が、実際は棄民政策だったという長編小説「ワイルド・ソウル」を見ても、国家に復讐ふくしゅうする主人公たちも、どこか自分の中に疑問、葛藤を抱えている人物、というふうに描かれていましたね。

 「そう、天罰を下すという考えだと、もっと残酷で血なまぐさいことを平気でやってしまう。でも、主人公たちはためらいつつ、でもどうしようもないから、ああいう復讐を選んでやったというふうにしました。

 大体、自分を疑わない絶対正義の人ほど、見ていてやりきれないものはありません。まあ、そう言う僕自身、大した人間かというと、まあまあダメな方ですけどね(苦笑)」

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