犬と暮らして

大型犬の子犬というのは反則の存在なんですよ

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 デビュー作「不夜城」から20年近く、新宿・歌舞伎町など暗黒社会を舞台に、人間の心の奥の闇をのぞくノワール小説を数多く発表してきた馳星周さん(48)。ところが今年6月、犬と暮らすさまざまな人間の姿を情感豊かに描いた小説集「ソウルメイト」(集英社)を出版。自身の愛犬との生活を基に、犬と暮らす幸せを前面に押し出したヒューマン&ドッグドラマだ。この大いなる変身(変心?)の裏に何があったのか。「ぼくの転換期ですね」と言う。現在お住まいの軽井沢に行って、その真意をうかがった。

 軽井沢にはいつからお住まいですか。

 「もう7年になります。東京で犬を飼っていましたが、年をとって、よぼよぼのおばあさんになってきた。ご縁があって、ここ軽井沢に連れて来てしばらくしたら立てるようになり、走り回れるようにもなった。はじめは貸別荘に住んだんですが、翌年に東京のマンションを売って、こちらで家を買って住むようにしました。2年前に住民票も移しました」

 飼い犬がきっかけということですね。そもそも犬はいつごろからお好きだったんですか。

 「昔から飼いたいと思っていました。ぼくは家が北海道で、小さい時に祖父の家にいた犬とよく遊んでいました。自宅でも飼いたかったのですが、両親が『生き物は死ぬからイヤだ』と認めてくれなかった。だから、ぼんやりと『大人になったら飼う』と決めていました」

 初めて飼ったのはいつ、どんな犬でしたか。

 「作家デビューの少し前、ライターとして、あちこちの雑誌にいろいろ書いていた、独身の29歳のころだったかな。『本の雑誌』に連載していて、大型犬を飼いたいという内容を書いたら、ぼくのファンの一人から『よかったら、うちの犬、どうですか』と連絡がありました。その方はブリーダーで、安く譲ってくれると。当時、日本には少ないバーニーズ・マウンテン・ドッグでした。

 その人は浜松の方だったので、新幹線で行きました。その日は見るだけのつもりだったのに、その日のうちに東京に連れて帰りましたよ。だいたい、大型犬の子犬というのは反則の存在なんですよ。動く縫いぐるみですから。ぼくが行くと、向こうからトコトコトコと真っすぐ近づいてきて、コンニチワと言うように。生後2カ月のメス。もう可愛くて。ペットショップでは当時40万〜50万円したでしょうが、『言い値でいい』というので、10万円渡して連れて帰りました。それが第1号の愛犬、マージョリー、愛称マジーです」

 その種類の犬が好きだったんですね。

 「バーニーズ・マウンテン・ドッグにほれ込んでいました。頭がよく、性格も穏やかで、優しく、人なつこく、毛色も美しい。飼い主の中には、いろんな種類の犬を飼う人もいますが、ぼくはこの犬種だけ。1頭目に続く2頭目、3、4頭目と同じ犬種を飼っています。愛犬の子孫を残したいという人もいますが、ぼくはそういう気持ちが全くありません」

 その第1号のマジーが老犬になって、軽井沢に来るきっかけになったのですね。

 「ええ。年をとって、よぼよぼのおばあさんになっていました。それがこちらに来てから走り回れるようになったんです。それで僕ら夫婦もこちらに本格的に住むことを決めました」

 やはり老衰、病弱の愛犬の最期をみとるのはつらいでしょうね。「ソウルメイト」の中に、臨終間近の老犬に『自分の命を減らしても愛犬の寿命を少しでも延ばしてくれ』と祈る中年男性が描かれていますが、あれは作者の馳さんの姿と重なると受け取ってもいいんでしょうか。

 「はい。初めて飼った犬でしたから、かなりべったりと暮らしていました。それに人間と犬との関係を教えてくれた先生でもありましたから」

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