物語を創る楽しさ

ホップ・ステップ・大気圏!というくらい、大きく跳んでしまった

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 「実は私、今、公僕をやっておりまして」と語り始めた竹吉優輔さん。茨城県牛久市内の公立図書館の司書として勤務しながら小説を執筆。今年見事、第59回江戸川乱歩賞を受賞した。図書館の静謐せいひつさをまとったような雰囲気を漂わせるが、受賞作「襲名犯」の主人公は図書館司書という設定。自分の知っている世界と、猟奇殺人という想像力を駆使した世界とを巧みに重ね合わせて、物語を紡ぎ出した。「物語を創るのが小さい時から好きだった」という33歳のサクセスストーリーは?

 このたびは江戸川乱歩賞受賞、そして作家デビュー、おめでとうございます。月並みな質問ですが、受賞決定の一報は、どんな状況で受けられたのですか。

「最終選考の結果発表の日は自宅にいてくれと言われておりまして、友人と母と一緒に待っていました。夜6時近くに電話があって、第一声が『取りました!』でしたので、私はひと言、『え、どなたがですか?』と尋ねると、私だと。すぐに『本当ですか!?』と大声を出してしまいました。やったぁ!という気持ちでした」

 確か、3度目の応募でしたよね。結果を待つ間は、「三度目の正直」を信じていたのか、「二度あることは三度ある」という不安にさいなまれていたのか……。

 「1回目は1次審査を通り、2回目は2次審査、そして3回目の今回は5人が残る最終審査と、着実に進歩してきたので、仮に3度目で落ちても、このまま前進して臨めば、きっと"4度目の正直"があるとポジティブに信じていました」

 まさしく「ホップ・ステップ・ジャンプ」の快挙でしたね。

 「すでにエッセーにも書きましたが、ホップ・ステップ・大気圏!というくらい、大きく跳んでしまったな、という思いです」

 受賞作「襲名犯」は、図書館司書の主人公とつながりのある人物による連続猟奇殺人事件をめぐるミステリー長編小説。この構想や狙いは?

 「正直、後付けっぽいところがありますが、この作品で現代のカリスマ性というものにチャレンジしてみようと。成功したかどうかわかりませんし、読者からも『わからない』という意見をもらってもいます。過去のカリスマというと、チャールズ・マンソンやオウム真理教の麻原彰晃のようなカルト的なものでした」

 作中の連続殺人犯、新田秀哉は、そんな強烈な引力を持った人間ではないように描かれていますね。

 「今の時代のカリスマは、1億総洗脳するような昔のカリスマと違って、思想を持たないノンポリのほうがいいのではないか。もし、自分の主義主張を声高に叫んだりすると、逆にこっけいに見えたりシラケたりするのが現代。それに今は、誰でも意見を発信できるインターネット社会。『それ違うよね』など膨大な量のツッコミが入る。だからこそ黙して語らず、想像をかき立てられる人間の方が、現代のカリスマになるのではないか。インターネット時代の初のカリスマを描いてみたいと思いました」

 そもそもミステリーが好きになったのはどんなきっかけですか。

 「幼いころから本が好きで、同居していた祖母の部屋に入り浸っていました。よく絵本を読み聞かせてくれて、5、6歳になったころは自分で読むようになっていました。もう読む本がなくなったら、『おばあちゃん、もうないよ』とせがんだりして。そんなとき、祖母が『じゃあ、お話、創ってみようか』と」

 創作童話を?

 「まったくゼロからは創れないので、例えば『ももたろう』の童話でしたら、『鬼退治のお供に猿、犬、キジのほかに、猫がいたらどう面白くなる?』と尋ねてくるんです。祖母は聞き上手だったんですね。そこで私は、犬とけんかするとか、キジを食べようとするとか、桃太郎はみんながけんかしないように鬼ケ島に行く道中、中間管理職のように(当時はそんな言葉は知りませんでしたけど)、チームの和を保とうとするとか、祖母と一緒になってお話を創っていたんです」

 今から思うと、子どもの想像力を広げるいい訓練でしたね。

 「それで物語を作るのが好きになりました。今は鬼籍に入りましたけど、祖母に感謝しております。当時読んだのでは、『長靴をはいた猫』や『オズの魔法使い』などの作品から、ストーリーの妙や自分にない発想に気づかせられました。物語を書く人はカッコいいなあという思いが、子ども心に芽生えていたんでしょうね」

 その後も本を読む少年になっていった?

 「小学校ではよく図書館で読んでいただけでなく、友達としゃべったり、友達の話を聞くのが好きでした。当時は江戸川乱歩の『少年探偵団』シリーズや『ルパン』ものですね。その後、横溝正史の方に行って、あのおどろおどろしさがたまらなかった」

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