不気味が大好き

ミステリー小説の構図を解体して図式を作るのが楽しかった

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  古い廃虚や忘れられた古城を目の前にすると、大人でもちょっと足がすくむ。モノノケ、幽霊、化け物、ゾンビなど怪奇な世界が扉の向こう側にある、と想像をたくましゅうするからだ。だが、そんな非日常世界を楽しむ人も結構いるものだ。山陰地方を舞台に、他人の未来が見える女性と一族3代の物語を描いた第60回日本推理作家協会賞受賞作「赤朽葉家の伝説」の作者も、不気味系大好き人間のようだ。

 子どもの頃から、そんなに不気味なものが好きな少女だったんですか。

 「小学生の頃から本が好きで、いろいろ読んでいましたが、ヨーロッパの古城や忘れられた廃虚が出てくる小説が好きでした。海外の小説で吸血鬼の出てくるものも。不気味なホラー系ですね」

 島根県生まれの鳥取県育ちと、山陰地方で幼少期を過ごされました。その地域、風土との関連があるんでしょうか。

 「『ゲゲゲの鬼太郎』の作者の家が近くにあったり、西の方はラフカディオ・ハーンがいた地方ですし、東の方には尾崎翠もいました。そういう書き手が多く出た土地柄からかなあ」

 子どもの頃からの本好き。どんなものを読んでいらっしゃったのですか。

 「最近の子はあまり読まないけど、当時はポプラ社などの世界名作全集の子ども版ダイジェストがありまして、『赤毛のアン』『ああ無情』といった外国の小説をよく読んでいました。むしろ日本の小説の方が難しくて、漱石の本など子どもには読みづらかった。映画も同じで、外国の作品は抵抗なく自然にテレビで見ていました。その中に、東欧の山奥から出てきた猫系の血を引く女が主人公の『キャットピープル』など、不気味なものが好きになりました」

 不気味系の作品が子ども心をひきつけた要因は何だったんでしょうね。

 「たぶん小学生の頃だったと思いますが、外国ものが面白いと感じた初めが『嵐が丘』でした。あのヒースで覆われた丘。荒々しい自然。コントロールされていない自然。むき出しの自然。読んでいると、あの湿気と不気味な感じが山陰と似ているんです。後年、イギリスに行って、そう実感しました。シャーロック・ホームズものでも、山奥からケモノが都会に出てきて事件を起こすといった小説が好きでした」

 本好き少女は、山の中を冒険したりしましたか。

 「いや、昔も今も私はインドア派です。でも当時は時々、祖父と散歩に行きました。草ぼうぼうの所に枯れた古井戸がある。ああ、こんな所に子供一人で来て、もし落ちたら誰も気づかないから終わりだなあ、と想像したり」

 本は本でも、小中学生の女の子がよく読むファンタジーやラブストーリー系のものは?

 「中学生になってからはSF、ミステリーをよく読むようになりました。クリスティー、クイーン、ホームズなど。当時はやっていたコバルト文庫も読みましたけど、どちらかというと恋愛ものより自分探し系というか、ヘルマン・ヘッセ、サマセット・モームなどが好きでした。今から思うと、あの中高生時代の読書への集中力はすごかったですね。今日読むと決めたら、早く家に帰ってすごく熱心に集中して読みましたから」

 ミステリー小説に引かれた理由は何でしたか。

 「内容もさることながら、小説の構図が気になりました。ここで伏線を張って、この後こうして、最後にこう持ってくる……といった全体を解体して図式を作るのが楽しい。それがカッコいいと思いました。例えば、シドニィ・シェルダンの作品を読んで、なんでこんなに読者を夢中にさせるんだろうと、その秘密を解明しようとしました。そうすると、単純にAさんとBさんのことをまず別々に書いておいて、やがてそれを1本の線につなげていくと、Yの字になる。作者の作った設計図に戻して考えるのがすごく楽しかった」

 図形思考というか、理系女子のようですね。さぞや算数、数学が得意だったのでは?

 「全然! 吐きそうです」

 その構図はご自分で小説を書くときの参考になりましたか。

 「私は今でも設計図をざっくり編んでから書きます。図形的な構成にするのが大好きです」

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