黒と白の中間を書く

石ころのようなリアルなものを手元に置いておきたかったのかも

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 囲碁の世界の深さを描いたデビュー作「盤上の夜」を含む初の単行本が、いきなり直木賞候補になったり、日本SF大賞を受賞したり、と作家生活上々の滑り出しを果たした宮内悠介さん(34)。「思わぬ形で高い評価をいただいて」と少々計算外?だったことを謙虚に話す。だが、さすが自称二段の実力者。すでに次の一手を考えているようだ。インタビューはまず、石の話から始めてみた。

 石を集めているそうで。作家の趣味としては珍しいですね。

 「石といっても、宝石ではなくて、原石的なものです。そのへんの河原に転がっている石ころもあります。以前、パキスタンを旅した時、カラコルム山脈の山の上に行くと、当時、旅行者の間ではやっていたんですが、ハンマーでたたいて石を拾うんです。私もやってガーネットの原石を取り出して、今も大事に持っています。外国旅行中に単に拾った石もあります。そんなときは、ついつい下を見ながら歩いてしまうんです」

 いつごろから石に興味を持っていたんですか。

 「私は子どもの頃からインドア派でして、小学校の時に母親に買ってもらった科学実験用の人造アメジストのことをよく覚えています。粉を溶かして、水溶液を作り、糸を垂らしていると、だんだんアメジストの結晶が育っていくんです。その後、割れて1センチぐらいになってしまいましたが、濃い紫色の結晶は今も持っています。それが面白かったので、気が付いたら石の数が増えていた。意識して集め始めたのは大人になってからです。ネットオークションで買ったり、閉店する店で買いあさったり。今も自分の部屋に50個くらい置いています」

 いろいろな種類がありそうですね。

 「大きいのでいえば、長さ20センチくらいの木の化石のがありますし、小さいものでは隕石いんせきもあります。大学を卒業した後、会社勤めをしたのがプログラマーの仕事で、まあバーチャルな、抽象的な仕事の日々でしたから、何となく石ころのようなリアルなものを手元に置いておきたかったのかもしれません」

 石というと、もう一つ、宮内さんと因縁が深いのが、白と黒の石を使う囲碁ですね。デビュー作「盤上の夜」は四肢を失った囲碁の強豪棋士の女性を描いた作品です。囲碁の世界の奥深さを感じますが、小さいころから囲碁を打っていたんですか。

 「いえ、囲碁は20歳のころに、まったく知らないところから始めました。推理作家の竹本健治さんが天才的囲碁少年を描いた漫画『入神』を読んで、『こりゃあ、すごい!』と感心して囲碁をやってみようと。友人と一緒に覚えたのですが、15年間、常に向こうのほうが少し強いので悔しいです」

 棋力はどのくらいですか。

 「街の碁会所では二段か三段くらいです。友人とは時々LINEを通して打ちますが、お互い仕事があるので、一手一手時間がかかり1局に1年くらいかかることもあります。あちらの方が強いのですが、私のことを『あれこれ工夫を凝らして考えてくるので倒しがいがある』と言ってくれます。一人でコンピューター相手にやることもあります。人間相手では負けると“なにくそ!”と悔しくなりますが、コンピューター相手だと肩の力を抜いて考えられるところがあります。負けても結構発見があり、参考になるので、案外にこれも豊かな世界であると気がつきました。もう1年前にはコンピューターに追い抜かれましたが」

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