読み切れない世界がある。だから夢が広がる。

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 プログラマーのお仕事をされていたときに、ご自分で囲碁のプログラムを作ったことはあるんですか。

 「囲碁と将棋、二つとも作ったことがあります。まあお話にならない程度のものでしたけど。会社では囲碁部を作ったりもしました。そういえば、私が囲碁を始めるきっかけになった竹本健治さんとお会いする機会があって、指導していただいたとき、2、3ほめられた手がありまして、今もその時の盤面を鮮明に覚えています」

 囲碁の魅力にとりつかれたわけですが、20歳からというのは遅い部類になりますね。

 「実は子どもの頃から祖母に教えてもらったマージャンが大好きで、学生時代はマージャンばかりやっていました。そしてプロ試験も受けたんですが、2人合格枠のところ、補欠の8番目くらいだったので、あきらめて、大学卒業後、プログラマーの会社に就職してしまいました」

 もし、そのときプロ試験に合格していたら、プロの雀士じゃんしになっていたのでしょうか。

 「それはそれとしてやりがいのあるものですし、でも壁にぶつかってやめていたかもしれないし、わかりません」

 初めての単行本「盤上の夜」には、囲碁だけでなくマージャン、将棋、チェッカー、チェスなど卓上ゲームの勝負の世界がいろいろ描かれています。つまり物を書く、いや小説を書きたいという思いは以前からあったんですか。

 「学生時代に老舗のサークル『ワセダミステリクラブ』に入っていましたし、そのころからずっと書いてはいます。海外旅行なども、小説を書くに当たって、なるべく多くのことを見ておいた方がいいという、やや不純な動機からやっていました」

 まあ、引き出しを多く持つということでしょうね。デビュー作「盤上の夜」は、囲碁の世界の深遠さを物語にした内容ですが、この構想はいつごろから?

 「昔から漠然と考えていたのが結晶化したような感じでした。盤上の内宇宙と外宇宙がテーマみたいなところがあります」

 改めて考えると、囲碁の魅力はどんなところにありますか。

 「どこか人間の知を超えているというか、コントロールしづらい、言ってしまえば、読み切れない世界がある。だから夢が広がる。もちろん勝ち負けはつきますし、そこに歴然と棋力は反映するのですが、人智を超えたところで勝ち負けが降ってくるようなところもあって、勝たせていただいたという表現になりやすいのですよ。俺様のほうが強いぜという世界とは違った趣きを感じます」

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