海と山に癒されながら

賞に落ちるときはあたたかい声なのかな、と

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 ちょっときれいな海を見に行こう。そんな気軽な気持ちで行った旅先の沖縄に、そのまま住み着いて今13年が過ぎた。日常世界と、ちょっとその先にある“異界”との不思議なあわいを描いた作品を数多く発表している作家、恒川光太郎さん。戦国〜江戸時代に現れたロボットのような存在を違和感なく描いた長編小説「金色機械」で第67回日本推理作家協会賞を受賞した。ちゅら海が心を癒やすのか、「今はきちんと仕事をして、休日の海も山も楽しい。安定した感じですね」と、脂の乗った充実した日々を送る。梅雨空から時々スコールが降る日、那覇市内のホテルでインタビュー。

 このたびは、日本推理作家協会賞受賞、おめでとうございます。デビュー作の「夜市」で2005年に第12回日本ホラー小説大賞を受賞して以来、失礼ながらその後、いろいろな作品が直木賞、山本周五郎賞、吉川英治文学新人賞など何度か候補作には選ばれてきましたが、受賞は久しぶり。どんなお気持ちでしたか。

 「はい、今まで候補にはなっても何回も落ちているので、今回もあまり意識しないように、感情を向けないようにしていました。やはり、落ちると疲れちゃうので」

 連絡の電話を待つのは、つらいでしょうね。

 「自宅でゴロゴロしているときに電話がありました。女の人の声が聞こえて、ちょっと冷たい感じ、冷たい声だったので、一般的には、今度も『残念でした』という結果かなという気持ちが一瞬よぎったのですが、『決まりました』と。すぐに『ありがとうございます』と答えました」

 その時のお気持ちは?

 「う〜ん、あまり覚えていない。やった、やったという気持ちでした。その1カ月前に、吉川英治文学新人賞の候補になっていて、その時の電話はあたたかい声で来たんですが、結果は落ちたんです。だから落ちる時はあたたかい声なのかな、と思ったりしました」

 その喜びは誰に?

 「まず、妻に伝えましたら、『ああ、よかったね』と」

 その晩は祝い膳、祝い酒でしたか。

 「いや、もう晩の献立が決まっていたので、とくに変わりませんでした。お酒も日常的には飲みませんので。でも翌日、近くの店に家族と行って外食をしました。そんなに派手なお祝いはしませんでした」

 受賞祝いの声は、あちこちから寄せられたのでは。

 「今住んでいるところは那覇でも都会なので、隣近所の人たちから何か言われたことはありませんでした。でも、大学時代の友人知人たちからは電話やメールをもらいました」

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